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高山一実『トラペジウム』を読んで


本当はソフトカバーの本が発売された当初に購入を検討していたが、収納スペースとの兼ね合いで購入を断念した。単行本が発売されたら購入しようかなと考えていた。
自粛生活中に購入しようと思っていた雑誌がネット通販で軒並み売り切れていたため訪れた本屋で、単行本になって陳列されているところを見つけたため、手に取ってレジへと向かった。

正直に感想を述べると、思っていたものとは違った。

アイドルを目指す女の子の話だと聞いて、私が想像したのは朝井リョウの書いた『武道館』だった。
現役アイドルが書いたアイドルの話。どれだけリアリティがある作品なのだろうと期待に胸を膨らませた。
結果、コレジャナイ感が否めなかった。期待しすぎていたのかも、と思った。

先に言っておくと、私は乃木坂46に詳しくない。
高校生の頃アルバイトしていたコンビニで流れていたラジオのパーソナリティを務めていたこと、シングル曲のサビはなんとなく聞いたことがあること、白石麻衣ちゃんが半端なくかわいいこと、生駒ちゃんがセンターだったこと、推しと舞台で共演した樋口日奈ちゃん、早川聖来ちゃんがかわいい女の子であることくらいしか知らない。
でも裸足でsummerとI seeは好きな曲だなと思っている。あと職場の有線でガンガン流れていたシンクロニシティはフルで歌える。

当然、高山一実さんのことも存じ上げていなかった。小説を読んだ今も、高山一実さんのことは名前しか知らない。
だからこそ好き勝手感想を言えるのかな、と思っている。
もしかしたらこの感想を読んで不快に思う方もいるかもしれない。だけどそう思われても特に自分自身は傷つかないだろうと思った。
だから感想を書くことにした。


とある田舎の女子高生がアイドルになるために市内の四方位の高校からかわいい女の子を集めるお話だった。

冒頭に述べたように、私の感想は、思っていたものと違った。だった。
アイドルにあこがれた主人公の10年間を描いた、とうたわれていたが、小説内で濃密に描かれていたのは主人公の高校生活2年ちょっとくらいだ。主人公が、アイドルになるためにメンバーを集め、地盤を固めていき、夢に近づくもいろいろあって結局その4人でアイドルになることはできなかったのである。

個人的に、高山さんは、主人公の東がアイドルになるためにメンバーを集め、地盤を固める過程を描きたかったのかもしれないと感じた。

私も趣味で小説を書いたり漫画を描いたりしていたことがあるけれど、書きたい(描きたい)ページのボリュームはかさむのに、そのほかのページは全然筆が進まず、ページが少なくなってしまうことがよくある。
この小説はアイドルを目指している女子高生が主人公であるのに、主人公がアイドルらしい活動をするシーンは小説の終盤にしかない。
高山さんはアイドルになるための行動する過程を濃密に描くことで、どんな手を使っても夢をかなえたい主人公の姿を描きたかったのかなと感じた。

東は主人公としては計算高く、夢をつかむためならありとあらゆる手を使って、人も利用する。そこまでして叶えた夢はとてももろく、あっさりと彼女の手からこぼれてしまった。

私は、終始主人公の東の心情が理解できなかった。アイドルになる夢を叶えるためだけに周りを踏み台にする東の気持ちに全く共感できず、そこまでして東がアイドルになりたい理由が正直わからなかった。

文章は、多少回りくどい表現はあったものの、普段そこまで小説を読まない私にとっても読みやすく、さらっと読めてしまった。ただ読みやすすぎて誰に共感することもなく読み終えてしまった。
とくに物語の後半の描写が本当にあっさりしていて、その失速感が残念だった。というかなんなら消化不良を起こしてしまったのかな、とさえ感じた。

前半、中盤と同じ濃密さでじわじわと夢が手からこぼれていく作品であれば、きっと面白かった!と思えたのだろうなと思う。

ただ、著者がアイドルであるため、アイドルの世界なんて結構こんな風にあっさり終わっちゃいますよ、と言われたらそれまでだなと感じる。というか本当にこういう感じなのかもという説得力はあった。
アイドルが終わるという事象にドラマを求めている自分は紛れもなく一般人だな、ということを実感した。

ただ、読んでいて、高山さんの心情は感じ取ることができたような気がしている。

夢を叶えることの喜びは、叶えた人だけにしかわからない。

エピローグの最後から5行目にはそう書いてあった。それを読んだときに、東に全く共感できなくても、一般人の私にはそれが正解なのかもしれないと思わされた。
読んでいて、この言葉は高山さんの心情だと思った。私には分かりっこない、夢をかなえたアイドルの素直な言葉。どんな手を使ってでも叶えたかった夢を叶えた人間の素直な気持ち。そして、そう言い切ることのできる彼女のことをかっこいいと思った。

私は、高山さんのことは何も知らない。私が憶測で話しているこの感想にはすでに答えが出ているのものあるのかもしれない。彼女が何を思ってこの小説を書いたのかも知らない。彼女からしたら好き勝手なことを言わないでほしいと苦情を言いたくなる内容かもしれない。

思っていたものと違った。もっとわかりやすくアイドルを目指す王道の話だと思っていた。全然違った。
だけど、興味がわいた。この小説を書いた高山さんは、どんな人なのか。
どういうアイドルなのか。
今度、乃木坂46を見かけたときに、探してみようと思った。
夢を叶えた彼女が、どんな顔で、どんな声で、どんなアイドルなのか、とても興味を抱いている。

本編の感想とは全く関係ないけれど、作中に、

性格も往生際も悪い私は私である限り、好きなものを簡単に嫌いにはなれないのだ。

という東の言葉があった。

この言葉に私は共感を抱いた。
私は東や高山さんのように夢を追っている人間ではない。とくにやりたいこともなく、適当に日々を生きているつまらない人間だ。
それでもやめられないで続けている趣味があったりする。その行為の答えをもらったような気がした。


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