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NHK BSP「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」(2022/全3話/英・米)

『そして誰もいなくなった』(2015/全3話)から始まった、BBC製作のクリスティー原作ミニドラマシリーズ(本作が配信された「BritBox」はBBCアメリカ法人とITVの配信会社が合併して誕生した会社です)。

その後も、『検察側の証人』(2016/全2話)、『無実はさいなむ』(2017/全3話)、『ABC殺人事件』(2018/全3話)、『蒼ざめた馬』(2020/全2話)と作られてきました。

『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』は第6弾になります。


あらすじ

1936年、イギリス・ウェールズ地方の小村・マーチボルト。
トーマス医師のゴルフにキャディーとして付き添っていたロバート・ジョーンズ(ボビー)は、悲鳴を聞いた気がした。悲鳴が聞こえた辺りを探すと、崖下に男が倒れているのを発見する。
急いでかけつけると、瀕死の状態だがまだ息が残っている。ボビーが声をかけると、「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」と話して息絶えた。男の身元を調べていたボビーは胸ポケットから女性の写真を見つける。そこに、ロジャーと名乗る男が合流した。
約束の時間に遅れている事を思い出したボビーは、死体と残るのをロジャーに頼み、実家の牧師館に急いで帰った。
そこで、昔一緒に遊んでいた伯爵令嬢のフランシス・ダーウィント(フランキー)の姿を見つける。
検視審問では事故として処理されるが、ボビーの周りでは不思議なことが起こり始め、遂にはボビー自身も毒を盛られてしまう。
驚異的な生命力で回復したボビーは、謎の男の死は殺人事件だと確信し、事件に興味津々のフランキーと一緒に捜査を開始する。


感想(ネタバレなし)

以前ミステリーチャンネルで放送された際にも観ていましたが、今回吹替版の放送があったので改めて鑑賞しました。
再見でも面白さは変わりませんでした。吹替の雰囲気も良かったです。

大筋は原作に沿っていますが、Mr.エンジェルの存在やトーマス医師の処遇など、原作と違うところも結構あります。
ドラマだけでは細かい疑問が解けないところも正直あります。

それでも、若者が主役のコミカルサスペンスとして、全体に漂う明るい雰囲気と、サスペンス描写のバランスが素晴らしく、最後まで気持ちよく見られるドラマでした。

今回は、ヒュー・ローリーが脚本・演出・出演で作られることが早くから発表されており、ヒュー・ローリー自身も「クリスティーで一番好きな作品で、フランキーは理想の女性だ」というような事を話していたので期待して待っていましたが、見事期待に応えてくれました。

原作の明るさを尊重して、変に暗くしたりはせず原作の明るさを保ちながら、サスペンスとして緊迫させるところはしっかり緊張感を持たせる演出、原作にない要素もテレビドラマとしての面白さを演出するものとして理解可能な範囲でした。

ノッカー・ビードン(原作のバジャー)の活躍が、原作以上に増えていたのも嬉しかったです。これにより、彼もボビーたちの仲間なのだと強く印象付けられました。

どうしてもポワロやマープルに比べると一般の知名度が下がってしまうノンシリーズ作品にも、面白いものは沢山あるのだと伝えることができる良いドラマ化でした。

過去のミニドラマシリーズは色んな意味でもやもやすることが多かったのですが、純粋に面白いと思える作品に出合えたことに感謝です!

ヒュー・ローリーには再びクリスティー作品を担当して欲しいと心から思います。

そして、再び脚本家が変わる次の『殺人は容易だ』を、期待と不安が半々の状態で待ちたいと思います。

今作が面白く感じて、まだ原作を読んだことが無い人は、ぜひ原作も手に取ってみてください。
いま読んでも軽快なノリが楽しい軽ミステリーとしての魅力があり、ドラマではさらっと流した推理や思考の部分が具体的に描かれているので、ドラマの保管にもなると思います。


ドラマデータ

【原題】 Why Didn't They Ask Evans?
【制作】 2022年 イギリス・アメリカ
【時間】 1話約59分×全3話
【原作】 アガサ・クリスティー『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』(1934)
【演出・脚本】 ヒュー・ローリー
【出演】
ロバート・ジョーンズ(ボビー)/ウィル・ポールター(浪川大輔)

フランシス・ダーウィント(フランキー)/ルーシー・ボーイントン(川床美雪)

ノッカー・ビードン/ジョナサン・ジュールズ(櫻井トオル)

ロジャー・バッシントン・フレンチ/ダニエル・イングス(小松史法)

シルヴィア・バッシントン・フレンチ/エイミー・ナトール(藤貴子)

ジェームズ・ニコルソン/ヒュー・ローリー(木下浩之)

モイラ・ニコルソン/メイヴ・ダーモディー(牛田裕子)

エンジェル/ニコラス・アズベリー(遠藤純一)

マーチャム伯爵/ジム・ブロードベント(佐々木省三)

マーチャム伯爵夫人/エマ・トンプソン(駒塚由衣)


『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』映像化について

今回で4回目の映像化と、地味に多い今作の映像化についてまとめておきます。

『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』(1980)

トミーとタペンスでお馴染みのジェイムズ・ワーウィックとフランセスカ・アニスのコンビが、トミタペ前に共演した作品です。全部で3時間と長尺の展開ですが、楽しく観ることができます。
内容も、2022年版以上に原作に沿っています。
ボビーの父親を演じるのはジョン・ギールグッド、ニコルソン博士をエリック・ポーター(ジェレミー・ブレッド主演『シャーロック・ホームズの冒険』でモリアーティ教授を演じた人です)、リヴィントン夫人をジョーン・ヒクソン(1984~1992年にBBCで製作された『ミス・マープル』でマープルを演じた人です)など、共演者も見どころいっぱいとなります。


『ミス・マープル なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』(2009)

ジュリア・マッケンジー主演の『ミス・マープル』シリーズの一編です。特徴は、マープルが出るのなんて些細な改変だと思ってしまうほどの、原作から離れたストーリー展開となります。大幅改変作の常として、今作の真相も胸糞系になっています。個人的には好きではありませんが、少し変わった映像化を観たい時にはどうぞ。


『なぜ、マルタンに頼まなかったのか?』(2013)

これはフランスで2009年から制作されている『Les petits meurtres d'Agatha Christie』というシリーズの、2013年から始まった第2期の1年目に製作された作品です(日本では「アガサ・クリスティーの謎解きゲーム」という題名で放送されました)。
ロランス警視(サミュエル・ラバルト)、記者のアリス(ブランディーヌ・ベラヴォア)、ロランスの秘書のマロレーネ(エロディ・フランク)の3人がレギュラーキャラクターとして、クリスティー原作の作品(一部オリジナル作品)を映像化しているシリーズで、1950年代のフランスを舞台としたコメディ色が強いドラマとしてフランス本国で人気があり、2013年~2020年まで同一キャストで全26エピソード作られました(今も3回目のレギュラーキャストの交代を行ってドラマシリーズ自体は継続しています)。
1年目の最終話として作られた本作は、原作のボビー、フランキー、バジャーの役回りをレギュラーキャストに割り振っていますが、その割り振り方や活躍の仕方がとても面白く、特にマロレーヌに関しては今作を見て一気にファンになりました。
シナリオも原作を単純化している形になりますが、シリーズの中でも原作の流れを活かしている作品で、90分弱を楽しく見られるようなアレンジになっているので、シリーズの中でも好きな方です。
クリスティー映像化の中では異色な作品になりますが、レギュラーキャラクターのノリに慣れれば面白く観られる作品が多いのでお勧めです。
つい先日BS11で本放送が終わった所なのですが、今後再放送があった場合にはぜひ。


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