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ネロ・ウルフ長編22『殺人は自策で Plot it Yourself』(1959)

レックス・スタウト/鬼頭玲子・訳『殺人は自策で』論争社, 2022


あらすじ

作家や出版社による盗作問題合同調査委員会から依頼を受けたウルフ。
「エイミー・ウィンが書いた『わたしの扉のノック』は、私が書いた『幸運がドアを叩く』の盗作だ」と手紙を送ってきた、アリス・ポーターを止めてほしいとの内容だった。

アリス・ポーターは四年前にも自身の作品が盗作されたと騒ぎ、八万五千ドルを手に入れていた。その後も、複数の人物が盗作疑惑で作家や脚本家を訴えて金を手に入れていた。そして、四年ぶりにアリス・ポーターが現れたのだった。

調査の結果、巧妙な詐欺だと見抜いたウルフは、一連の詐欺事件の黒幕の正体を暴くために更に調査を進める。
しかし、詐欺に関わった人物達が次々と殺される事件が発生。
ウルフは肉断ちビール断ちをしながら黒幕の正体に迫っていく。


感想

久しぶりの本邦初訳のウルフ長編で、ドラマ化もされた事がない完全に知らない話でした。

ウルフシリーズの中では、謎解きミステリー要素が強い構成でした。
そのためか、ウルフが気づいた事について、アーチーから読者への挑戦ともとれる発言があります。しかし、気づくことができなかった、悔しい。

本編は220ページ程と短めの長編になります。
前半に盗作疑惑を捜査するパート、盗作疑惑の捜査が進んだ中盤で殺人事件が発生と、捜査と並行して事件も動いていき、どのパートも読者の興味をつなげるのが上手かったため、流れが停滞せず非常に楽しい読書になりました。

最期にはウルフも才能を認めるほどの犯人を相手に、ウルフはビール断ちをし、クレイマーはウルフに結構しっかりと謝罪をするという展開もシリーズファンとしては興味深い。

シリーズでお馴染みのウルフから犯罪者側へ仕掛けるトリックもあり、満足度が高いです。

また、ウルフを助けるソール、フレッド、オリーの3人だけでなく、『手袋の中の手』の主役で、他の作品でもウルフと共演しているドル・ボナーやサリー・コルベットなど、ウルフファミリーが大勢出て活躍の場があるのも嬉しい所です。

ガチガチな本格謎解きミステリーを期待すると違いますが、キャラ立ちした軽妙洒脱な海外ミステリーを読みたかったら、間違いなくオススメできる作品です。


「犯人の喉に指をかけるまで、ビールは飲まない。それに、肉も口にしないことにする」

レックス・スタウト/鬼頭玲子・訳『殺人は自策で』論争社, 2022, p148, ウルフの決意

「ここに来た理由だがね、謝りたいと思ったんだよ。(中略)悪かったと思ってな」

レックス・スタウト/鬼頭玲子・訳『殺人は自策で』論争社, 2022, p193, クレイマー警視の謝罪

ウルフがアリス・ポーターに使おうとしている圧力を突きとめるのに二時間ぐらいかかったとき、読者はとっくに気がついていて、ぼくのことを規格外のばかだと思うだろうと書いたが、もちろん今はクレイマーもぼくもばかだと思われているだろう。ウルフがアリス・ポーターから得た手がかりに読者はほぼ確実に気がついていて、もうXがだれかわかっているだろうから。

レックス・スタウト/鬼頭玲子・訳『殺人は自策で』論争社, 2022, p197, アーチーからの挑戦状

(読了日:2022年4月1日)


読了済みウルフ長編の中で特に好きな作品ベスト5(発表順)

01.赤い箱(1937)
02.料理長が多すぎる(1938)
03.シーザーの埋葬(1939)
04.編集者を殺せ(1951)
05.殺人は自策で(1959)

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