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愛されている証明・回顧録

23歳の頃から4年以上同棲していた彼氏がいた。
彼は、今現在の私という人間の半分以上を占めている。
彼と出会わなければ、私はボズ・スキャッグスも、フィル・コリンズも、ロキシー・ミュージックも知ることは無かっただろう。
吉田修一も、重松清も、三島由紀夫も、手に取ることは無かっただろう。
タクシードライバーも、サイコも、ひまわりも、観ることは無かっただろう。

ワンルームで毎日顔を合わせてるのに飽きることなく一日中でも一晩中でも語り合い、互いの感受性をぶつけあった。
彼を理解できて、愛せるのは絶対私だけだった。
私が愛するものを同じくらい愛しているのも絶対彼だけだった。
そこには揺るぎない信頼関係があった。

でも、彼は私のことを抱いてくれなかった。
彼は必ず避妊をしたけど、12個入りのコンドームが、4年以上の同棲生活の中で使い切られることは最後までなかった。

私のことをいつも、可愛い可愛いと愛でて、自慢の彼女だと嬉しそうに目を細めて、キスをしてくれたけど
その唇は、この身体の唇以外に触れることは無かった。

彼は私のことを愛していた。それは間違いなかった。でも、どんなに愛されたって私は渇望していた。
女として愛されたかったんだ。

だから私は彼以外の男性と身体を重ねて確認した。
彼以外の男性に全身を愛撫され、舐められ、噛まれ、叩かれ、彼の物ではない性器を口に含み、精液を飲み、彼以外の男性に肉体を愛されることで、満たされないまま浮遊していた欲求を、この身体の感覚を失わないように保っていた。
どんどん失われていく自己肯定感を取り戻そうとしていた。
証明を探していた。

2人で旅行に行っても、素敵な夜だねと、肩を寄せたきり抱いてはくれなかった彼。
私が痩せた時も太った時も、ロングヘアでもショートヘアでも、綺麗だよと言って、頭を撫でてくれるだけだった彼。

汗や体液が触れるのが嫌だからと、全裸で抱き合ってさえくれなかった彼。
それでもどうしてもと懇願する私に、指一本挿れるのがやっとだった彼。

愛されたかった。
いや、たしかに愛し合ってるはずなのに、どうしてこんなにも女として求めてもらえないのか理解が追いつかなかった。
愛する彼と、死ぬもの狂いで求め合いたかった。
私の身体をどこまでも味わって欲しかった。

抱いて欲しくて、寝息を立てる彼の横で声を押し殺して泣いた。

それでも週末になると音楽をかけて、映画を選んで、一緒にお酒を飲んで、肩を寄せ合った日々。

愛されている証明なんてsexだけじゃないとわかってる。
だけど私にとっては欠かせない証明だった。

もう限界だ…そう思ってから1年以上経ってしまう。

そしてついに彼が私への婚約指輪を用意した頃、私はようやく、2人の関係を完全に終わらせる決心ができていた。

彼と暮らした家を出た私は、その足で現在の夫となる男性の元へ向かう。
現在の夫となるその男性は、彼とは真逆だった。
いつでも、どんな時も、私の身体を貪ってくれた。

私の皮膚や粘膜や体液を拒否されない、それだけで有り難かった。

私は、そのことで、きっと、愛されているんだと、きっと、満たされるんじゃないかと、感じてしまった。

すぐに妊娠した私は、瞬く間に結婚した。


何度でも言う、今現在の私は、あの彼なくしては有り得ない。
彼がいなかったら、私は夫と結婚していない。
夫と結婚していなかったら、私はここには居ないんだ。

彼は今でも私の親友のまま。
私が死んだら葬式でかけて欲しい曲を、彼にだけ伝えてある。
それが、叶うのかどうかは自分の目で確かめられないけれど。

もしかしたらいつかまた、2人で夜通し語り合う日が来るのかもしれないけれど。

私は自分の唇を、彼の唇に寄せたいとは、もう寸分も思わないのだ。

きっと、本当に愛してた。
そして…できるのならもっと愛し合いたかった。

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