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【七転び八起きの五起き目③】

【七転び八起き】マガジン

 オープンから10日目ぐらいに1人じゃ無理だってことを悟った。6月からの中富良野は楽屋を出た舞台女優だ。ステージの上でスポットライトを浴びてラベンダーを纏い全身で観光地という役を演じ切る。それでもまだストーリーは起承転結の起のあたり。
 誰か助けてくれと知り合いに連絡しまくってなんとかギリギリの綱渡り。週末になると何台も何台も観光バスがどこからともなくやってくる、それがこの辺りではどうやらあたりまえの風物詩。
 あれだよあれ、分かるかな?スターウォーズで宇宙船が無数に現れてそこからブワっと真っ白なスーツに身を包んだストームトルーパーたちが飛び出して押し寄せてくる感じ、ライトセーバー1本で知り合ったばかりの愉快な仲間たちとそれを迎え撃つような絶望感。
 6月中旬、オープンから2週間で現実を理解し始めていた。ここは北海道観光の最前線であり、最激戦地区だ。

 そんなドタバタ劇より分かりやすくよこせよビートビートって感じで数字にしてみると、まずはオープンさせてすぐ平日は3〜5万ぐらい、週末は7〜8万ってとこだったかな。1人でやれなくはなかったけど誰かいると助かるぐらい。なんだなんだこんなもんかと早速油断したよね。
 それで2週目は平日がアベレージ5万ぐらいで週末は8〜9万ぐらい。このあたりでアレ、このままだとヤバいんじゃないかという事にやっと気がついたわけだ。
 なんせこの時点で朝6時半に家を出て、中富良野に着くのが7時半、それから仕込みをして9時にオープンって暮らしのリズムだったから、これ以上忙しくなったら何時に家を出なきゃならないのかと。

 せっかくならドタバタ劇と交えていこう。3週目あたりからやっと働いてくれるスタッフが2人ほど見つかって、これでなんとかなるかなと思ったけど、平日でもアベレージで10万円近く売れるようになってきて、週末はついに10万円オーバー。
 理学療法士の友達がたまにイベントの時も手伝ってくれてたりしたんだけど、その友達にお願いしたよね、週末は極力プライベートの予定を入れるなと……ホント無茶苦茶なこと言うピザ屋だ。

 6月も下旬になるといよいよラベンダーのシーズン到来って感じなんだけど、そうなるとバスが列車みたいになってんの、連なって来るんだよ、バスの壁。基本がバスみたいな。CX-5が軽自動車に見えてくる。
 そのあたりになると平日でも売上10万円は当たり前で、週末になると15〜18万ぐらいなんだけど、とにかく天気しだい。雨が降ると一気に売上が下がるからね。

 しかしまだこんなのは本当にまだほんの序の口ってやつで、まだほんの序の口って言い回しを人生で初めて使ったかもしれないが、まさにそんな感じだったから使いたくもなる。

 7月がやってくる。

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