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【七転び八起きの五起き目②】

【七転び八起き】マガジン

 流石にジャージではなかったと思うが、もしジャージだったとしたら全力で謝罪しよう。中富良野のとみたメロンハウスに初めて行ったとき、こんなところにこんな観光施設があったのかと正直驚かされた。
 中富良野には斜面にラベンダーが咲き狂ってるぐらいの印象しかなくて、子供の頃の思い出、家族で散歩した田舎のだだっ広い公園みたいなとこぐらいのイメージ。
 それがどうだ?目の前には洗練されたオシャレな空間。メロンや野菜の直売所にスイーツ専門店、カレーやバーガーが食べられるカフェもあった。

 「内装などの費用を全てお願いできるのであればやります」

 よく考えたらジャージはまだ可愛い方だった、発言の方がとんでもなかった。いやジャージでこの発言してたとしたらとんでもねぇな。adidasのアニマル柄の真っ赤なジャージでね。
 商談テクニックとか交渉術とかそんなんじゃなくて、ただ単になんせお金がなかったから、初期投資のために借金をする余裕もなく、強気な姿勢で「お願いです助けて下さい」と伝えてるようなもんだった。

 ピザの奴で覚えていてくれて、そして出店しないかと声をかけてくれて、生意気な小僧に初期費用も全て負担してくれて……そう考えると社長には感謝しかないな。もう社長じゃなくなっちゃったけど。
 旭川や札幌の色んな経営者たちと会ったり話したり、商談を持ちかけられたりもしたけど、とみたの社長ほどストレートな人間はなかなかいなかった。取り繕ってみても結局手札は全てバレてたんじゃないかな。
 金はないけど成功する自信はありますって言って、夢すら描けてない奴に、じゃあやってみろってなかなか言えるもんじゃないよね。

 とみたメロンハウスの広大な敷地の一角にポツンと立った六角形のログハウス。小舟で乗り出す大海原。
 確か商談に行ったのが4月ぐらいで、5月から準備を開始して、その頃はだから客足もまばらで全く想像が出来ていなかったから、自分がどこに出店して何をしなきゃならないのかをよく理解していなかった。

 ピースで売るようなイメージが良いと思うってアドバイスを社長にされたときは、そんなのは嫌だと突っぱねたけど、自分より頭の良い人間のアドバイスは聞いてみるもんだと考え直して、ピースとホールで販売するニューヨークピザスタイルの販売方法でやってみることにした。
 飲食店では独断で突っ走って失敗したから、人の意見に耳を傾ける。これは反省による成長ってやつ。

 6月〜10月上旬までの夏季限定営業、9:00〜17:00まで。130日間ぐらいなら休みなしで1人でもやれるだろうという甘い計算。
 蓋を開けてみると……蓋を開けてみる?どうしようか、本当に酸いも甘いもごちゃ混ぜでとんでもない未来がそこに詰まっていたんだけど、この時は瓶コーラの蓋を爽快に飛ばすようなノリで颯爽と軽快にオープンさせた、蓋を開けてみようか。

 ようこそ中富良野へ。

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