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【タスマニア劇場②】

【タスマニア劇場①】

 ローンセストンでの思い出はほぼない。心の底から爪の先まで失礼な話だが、頭でも打ったんだったかな、記憶がすっぽり抜けている。パースで手に取ったペラペラのフリーペーパーにマジックで丸をつけたのは、いやボールペンだったかもだけどそこはそれほど重要ではないが、ローンセストンからさらに南のホバートという街だったからそっちに気持ちがいっていたせいかもしれない。
 ローンセストン→ホバートまでは長距離バスで3時間程度の距離。半年以上オーストラリアに住んでいたからそろそろラリアの景色には慣れていたけど、タスマニアの景色は、車窓に流れる延々とつづく田舎の風景は、なんとなくだが今まで見てきたオーストラリアの景色とは違って見えた。

 寝て起きてを繰り返して頭も身体もクタクタ揺れる長距離移動の疲労で良い感じに仕上がってきた頃、窓の外が期待感を漂わせる雰囲気に変わり、目的地のホバートが近いことを匂わせる。テンションは一気に上がったよ。魔女の宅急便のモデルになった街だとかなんだとか、ちなみにオーストラリアにはいくつかそういう噂のある街や場所があって、日本人観光客に人気のスポットになってたりする。

 物語を盛り上げる大事な要素のひとつとして、主人公がドシでおバカな奴ってのがあるんだけど、理由はその方が色々なトラブルが起きて話が盛り上がるから、そういう面では間違いなく自分は主人公としての素質がある気がする。
 ホバートに着いてすぐ、宿を探すために70Lのバックパック背負って歩き回って30分ぐらい経った頃に気がついた。違和感……何かがおかしい、違和感……歩いている間にオープンしているお店が1つもなかった気がする。その頃のホバートにはコンビニなんてのがなかった、もしかしたらあったのかもだけど、今はどうかってのは知らない、とにかくニュースエージェンシーって新聞とか雑誌やタバコの販売している小さなお店すら閉まってるし、なんだこの街って思ったてた。それが違和感の正体か。

 やっとの思いで安宿を見つけて、その頃はスマホもタブレットもない時代だったから、地球を歩く人たちはだいたい『地球の歩き方』を見て歩いていた時代だった、宿を探すのも大変な時代。地元の観光案内とかフリーペーパーとかも駆使して、ようやく辿り着いた宿。バックパック背負って生活してると宿を予約するってあたりまえの感覚を失うとこあるよね。

 宿について一休みして、とりあえずホバート名物の何かを食べて酒でも飲んで今日は寝よう、そんなプランを思い描いてホテルの近所を歩き回ってみたけど、先ほど感じた違和感はまたまだ継続中で、営業しているお店はゼロだった。
 さすがにおかしいな、なんかあると思ってバイブル『地球の歩き方』をパラパラめくって答えを探してみたら、そこにある体験談が書いてあるのを見つけた。
※ここの3連休は田舎に行くとお店が全部閉まってて大変だった。
 まだ投稿した覚えはないがこれは未来からの手紙だろうか。ここってどこ?いつ?もしかしてと思って確認したら、まさにその日はその3連休の初日だったんだ。いや、だからってね、どこかひとつぐらい営業してるだろと思って、歩き回って歩き回って手に入れたのはタバコ屋で売ってたガムと宿の自動販売機でポケットの小銭と交換した水のみ。
 ワンピースのロビンはガムは飲み込めないから嫌いなんだってさ、その気持ちすごくよく分かる。

 それがまさか3日も続くなんて想像できるかい?3連休だからってなんで3日も休むんだよ!頭おかしいよ。水があったから飲まず食わずまでは行かなかったけど、あの強烈な空腹感は今でも忘れられない。
 そして踠いて足掻いて3連休の3日目にやっと見つけた海沿いのレストラン。レストランってほど立派じゃないただのビーチサイドのフードコーナーみたいなとこだったけど、そこのメニューにライスの文字を見つけて、迷うことなく注文した。なんとかフィッシュのなんとかなんとかwithライス。もう一文字も覚えてないけど。
 ようやく辿り着いたメシ。しかも米。神か!って思った、oh godって自然と口から溢れたのはあれが初めてだったしたぶんあれが最後だろう。ちょっとその部分は脚色してるかもだけど。
 そして一口目、食べて魂まで震えたね。

 誰だココナッツミルクで米炊いたの……

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