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【七転び八起きの七転び目①】

【七転び八起き】マガジン

 七転び目なんて書きたくはないさ。思い出したくないだろ、それはみんなも同じだと思うんだけど。

 イタリアでプリモピアット部門に出場してみたことが大きく影響して、そこで出会った老シェフたちとの出会いが将来の理想像みたいに頭に張り付いて、結果、日々料理に打ち込むことだけがそこに辿り着く術だと理解していたから、そこに向かう覚悟を決めた。
 飲食店経営に失敗して、そこからピザのみに絞って尖ったからこそ運良くある程度の成功に辿り着いたってのを自分でもよく分かっていたから、そこからまたイタリア料理全般に回帰するのは少し度胸がいることだったけど。
 そこから逃げたらあの人たちみたいにゃなれないぞと、そんな想いが膨らんで、恐れなんてものは気がついたら吹き飛んでいた。
 まずは場所が必要だ。

 そんなタイミングでずっと通っていた先輩のお店が閉店すると知り、これも何かの縁だと思ってその場所を受け継ぐことに。自分が初めてイタリア料理をスタートしたお店でも一緒に働いていた先輩の店だから、脚本家のイタズラかなにかキャスティングの都合か。
 本来はピッツェリアにパスタはなくて良いと思っていたし、今も若干思っているけど、そんな自分自身の固定概念を覆す店を作れば良いとそう決めて挑むことにした。
 店の名前はIL BIANCONIGLIO。不思議の国のアリスに出てくる白いウサギ。不思議の国の冒険に誘うチョッキを着たあいつさ。

 自分がメインシェフで、タクちゃんがピザを担当するお店……今となってはなかなか揃うことのないふたり。
 この時のバチバチ感がものすごく面白くて楽しくて忘れられない。タクちゃんが普通にピザを焼いて皿にのせたら、もっと派手にやれよと煽ったりして、結果とんでもなく美しい皿をタクちゃんが描いて、これはプリモピアットも負けられないなとこっちもやり返す。
 1800円のランチでそこまでするかという料理を毎日作ってた。同時に北海道物産展もいくつかこなしていたからディナーはやらずにまずはランチだけの営業。
 オープン初日に誰もこなかったのも忘れられない思い出だけど、気がつけば毎日満席が当たり前になった。
 何年かぶりに毎日鍋を振る日々は下品にいうとクソ楽しかった。こういう感情をキレイに表現できる言葉が自分の引出しにはない。
 アンティパストもアレをやろうコレをやろう、アレ食べたいコレ食べたいでどんどん派手になっていく。
 いつだかのランチが終わった後、外でカフェラテを飲みながらふたりで話をしてる時に、これは次の大会はすごいことになるぞって、声を揃えるぐらい日々興奮していた。

 北海道物産展でビジネス的な土壌をしっかりと固めながら、店舗では原価など気にせずやりたい料理、使いたい食材と派手に戯れる……そういう理想的な環境が整ったんだとそう思っていた。

 この先を誰が想像した?

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