人を信じるとは
『ねえ、カナ。私ね、人を信じるってどういうことかわかったんだ!』
学校帰りにふたりで寄る、馴染みの喫茶店。
ミホはいつも、私にいろんな発見を教えてくれる。
今日のミホはすごく自信に満ちた笑顔だったから私もすごく嬉しくなった。
『わぁ。ミホ。それ、私も知りたい。教えて!』
私が勢いよくそう答えると、ミホは右手の人差し指を立てながら、畏まって言った。
『それはね。ズバリ、その人の全てを、受け入れることです』
『・・・全てを、受け入れる?』
私の頭の中は突如、ハテナでいっぱいになったけど、ミホはさらにこう続けた。
『そう。人を本当に信じるとは、その人の全てを受け入れる覚悟ができたときなの』
『どういうこと?』
『私ね。人を信じたときにいつも、あとから裏切られるのが怖かったんだ。だから裏切られるのが怖いなら、はじめからその人を信じなければいい、そう思ったんだけど、それはちがうって気づいたの』
『あー。それはわかるよ。せっかくその人のこと信じたのに裏切られたらがっかりするよね、でもなにがちがうの?』
私は、ミホの言っていることはなんとなくわかったけど話の続きが見えなくてただ先を促すしかなかった。
『つまりね。本当に人を信じるってのはある意味、裏切られる覚悟まで出来ているってことなの』
『ええー。裏切られることまで想定してるなんて、そんなの、人を信じるって言うかなー』
私はすぐにそう返したあと、少しストレートに言い過ぎたかなって思ったけど、ミホは全く気にする様子もなかった。
『うん。けど考えてみてよ。例えば親が子どもの事を信じるとき、子どもが失敗したり、たとえ親を裏切ったとしても、親は最後まで子どもを信じるものじゃない。まあ例外はあるとしても、親はどんなことがあっても自分の子どものことを最後まで信じてる。そうでしょ?』
ミホは微笑みながらも、真剣そのものだったから、私も思ったことをそのまま返した。
『まあ。親子の愛だったら、そうかもしれいけど、友達の場合はちがうんじゃないの?』
するとミホは、とても優しい口調でこう言った。
『私は同じだと思うんだ。信じるとはその人のすべてを受け入れる覚悟ができたこと。だって、私、そう思ってカナのこと信じてるもの。だからね。逆の言い方をすると、本当に信じた人から裏切られることはないんだ。だって私、カナの全てを信じてるんだもの』
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