いつでも想ったときがはじまり
『ねえ、カナ。何かをはじめるのに遅すぎることはないって言うけど、本当にそうだと思う?』
学校帰りにふたりで寄る、馴染みの喫茶店。
ミホはいつも、私にいろんな疑問を投げかけてくれる。
世界の不思議、映画や恋愛、そしてたいていは、心のこと。
『うーん。私はそうだと思うけど、ミホはちがうの?』
私は、どうしてそんなこと聞くの?とはほとんど聞かない。だって、ミホとのこの会話が大好きだから。わかっているから。
『だってさ。たとえば、あと数日の命だって余命宣告された人が、その時に何かをはじめても遅くない?』
『何かってなにを?』
『例えば、手品を覚えるとか』
手品?
それって、どこかで聞いことあるような。
私は、しばらく考えてから、ミホに言った。
『あー。それ。君の膵臓をたべたい。でしょ?』
『ばれたか。』
ミホは嬉しそうに舌を出して笑顔で答える。
『小説であったよね。そのシーン』
『うん』
『でも。あれは、ちゃんと意味があったよね』
『まあ。そうだけどさ。どう考えても今から習得しても遅いことってあるじゃん?』
『うーん。私は、・・・ないと思うな』
『カナなら、そう言うと思ったよ』
そう即答しながら、ミホはとても嬉しそうに笑う。
『えー。なにそれ。テスト?』
『ちがう。ちがうよー。なんかね。自信がなかったんだ。』
私は、ミホが言う、自信がなかったってのがわかる気がした。私もそう考えていたことがあったから。
だから、私は、あえて自信を持って言った。
『たとえ。たとえさ、1秒後に死んじゃうとしても、誰かが無駄だって言ったとしても。本人が心から想ったとき、それはすべて意味のあるスタートだよ』
(参考:小説「君の膵臓をたべたい」住野よる 著)
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