マガジンのカバー画像

ちょっとしたお話

7
運営しているクリエイター

記事一覧

部屋の温度はあなたのため

部屋の温度はあなたのため

深夜。

インターホンが鳴り、ドアを開ける。

いつも通り、暑がりの彼のために部屋の冷房はガンガンにしておいた。

わたしは寒がりだから、この温度設定だと本当は軽めの長袖を羽織りたい。けどそうしないのは、少しでもいい女に見せたいという浅はかな考えと、どうせすぐに私も暑くなるだろうという少しの期待からだ。

部屋に入るなり、彼はわたしにキスをする。

期待通りの行動にわたしは少しだけ浮き足立つ。

もっとみる
女子大生

女子大生

西麻布で出会った男は、みんなクソだった。

そんなところで、好きなようにされている自分も大概クソだ。

あるタワマンで行われたパーティー。

私は友達に誘われ、受付をすることになった。

ただパーティーへとやってくる男女の名前をリストにまとめ、男からは10000円の会費をとった。女は無料だった。

時折口説かれ、受付の仕事を他の子に任せる。トイレでキスしていても、主催者の男は何も言わなかった。

もっとみる
スポットライト

スポットライト

駅の階段を降りていたら、少し前を歩いていた女が転びそうになった。危ないと思った瞬間のことだった。

女の横を歩いていた男が、咄嗟に女の華奢な腕を掴んだ。

心の底から羨ましい光景だった。

いつまで経っても、男に支えられたいと思ってしまう。甘やかされ、心配されていたい。

スポットライトがいつからか、当たらなくなった。

男の目線を、視線を、感じなくなるのだ。

転んだら、自分で起き上がらなければ

もっとみる
女の価値

女の価値

安っぽい言葉だ。

"2人で抜けよ。"

なんて安っぽいんだろう。

そしてその言葉に浮き足立つ自分は、きっともっと安っぽい。

自分を選んでくれた優越感からか。いや、この場にいる誰よりも私は、その言葉に相応しかったんだろう。ただそれだけだ。

翌朝ホテルで目を覚まし、寝ている男の顔を見ながら、実感させられる。

この男との会話なんて何一つ思い出せない。寝顔をじっと見つめてみても、何も思い出せない

もっとみる
公園のただの景色

公園のただの景色

 
住んでもうすぐ2年になる賃貸マンションの裏には小さな公園がある。

終電で駅に降り立ち、酔っ払った帰り道。いつものように公園を通り過ぎようすると、彼がそこにいた。

学生街だし、大学生…だろうか。

彼は小さな公園のボロいベンチに座って、上を向いてタバコを吸っていた。

ヒールを履いた足がジンジンと痛む。その場から動けずに彼を見つめていた。彼は私に気付かなかった。

その日から、酔っ払うとその

もっとみる
月灯りに下着

月灯りに下着

無駄に広いリビング。誰が掃除してるのか。彼な訳ない。

電気もつけず、髪は濡れたまま。寒い。

わたしは部屋の隅で体を抱え、床に座っていた。ソファーに座らないのは少しの反抗だった。

暗い部屋の中。

月の光だけがわたしの味方みたいで、ずっと窓から眺めていた。尋ねてみる。ここにいていいのだろうか?

シャワーから出てきた彼が髪を拭きながらこっちに来る。床の振動だけでそれを確かめる。

あぁ、服、着

もっとみる

トイレの前は

かかった、

と思った。

サークルの同期の結婚式。二次会で行った居酒屋の、トイレ前のちょっとしたスペースで。

わたしは窓を眺めていた。

今はお互いにもう結婚している。

サークル時代はお互いに違う人と付き合っていた。酔っ払った勢いで何かがあったわけでもない。口説かれたこともない。

彼と触れ合ったのは、帰り際によくしていたハイタッチだけだった。

その時わたしはなんとなく、彼とするハイタッチ

もっとみる