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【顔がない。絶対的なスーパースターはもういない。】

今日久しぶりにフットサルをして来た。今までコロナ禍だった事もあり、随分長い間やってなかったので、開始早々すぐにキツくなって動けなくなる覚悟でいたが、意外と体力は落ちておらず、怪我などもせず、それなりに出来てしまった。今年で35歳になったが、昔から運動習慣があるおかげか、まだ体力の衰えは感じない。だが久しぶりにプレーして、昔散々感じたサッカーやフットサル特有ののキツさを思い出した。

そして学生の時にサッカーをやっていた時代から現在までの間に、いつの間にかトップ下というポジションが消えていた。主役の座が時代と共にまさか淘汰されるとは、当時は思いもよらなかった。戦術が進化して、身体能力と運動量が格段に上がった近年のサッカーでは、かつてのディエゴ・マラドーナやジネディーヌ・ジダンの様な役割を担う選手はもうどこにもいない。

システムの変化も要因の1つだろう。2000年代半ばぐらいまではダイヤモンド型の4-4-2や3-5-2がまだ一般的で、配置的にもトップ下というポジションが組み込まれていた。今は違う。4-3-3がもう長い事ずっと主流なシステムであり続けていていて、トップ下というポジション自体がもう存在しない。昔は元々オランダ代表やバルサの様なサイドを上手く使えたり強力なウインガーがいるチームが採用していたが、近年ではプロアマ問わず誰もがこの4-3-3を採用している。

はっきり言って僕は昔からこの4-3-3が嫌いだった。フォワードだった僕はワントップで孤立してしまい、中盤は3人しかいないので中央が手薄になり相手に数的優位を作られてしまい、両サイドの選手達がウインガーとしてまるで機能していなかった。っと言うより、アマチュアの僕達が当時のバルサの真似をしたところで意味がないと感じていた。サイドが上手く使えもしない僕らには合わないやり方で、自分達の能力を引き出す戦い方が他にもっとあったと思うが、監督が根っからのバルサファンだったので仕方がない。



徹底した戦術の元、守備ブロックをつくり、前からプレスをかけるのが当たり前になった現代のサッカーでは10番がボールをこねくり回す為の時間とスペースがない。昔の様に10番が1人で考えてゲームを作るより全員でカウンタープレスを仕掛けて高い位置でボールを奪った方が早くて効率が良くダイレクトに得点に結びつくからだ。昔の様にみんなが1人の司令塔についていくのではなく、今では例えリオネル・メッシの様な高い技術を持っている選手でも組織にフィットする事が求められる。フィット出来なければどんなに上手い選手でも排除されてしまう。個人の能力よりも組織と全体のバランスが重要視されるからだ。

だがプレイメーカーが完全に居なくなったわけではない。似た様な役割が代わりにボランチに移った。それまでのボランチは主に潰し屋としての役割を担っていたが、その常識はカルロ・アンチェロッティによって覆され、アンドレア・ピルロがそのパイオニアとして実践した。ボランチならトップ下ほど相手のプレッシャーを受けずに自陣の深いところからゲームを作れるからだ。

10番の衰退と消滅を奇妙に体現したのがハメス・ロドリゲスのキャリアだろう。2014年のW杯で大ブレイクして世界中の注目の的になり、無名だった新生が頭角を現したことでこれから新しい時代の幕開けとなる筈だった。だが2014年の時点で10番は既に絶滅危惧種であり、ハメス・ロドリゲスを初めて見た時には同時にどこか懐かしさも感じた。ケビン・デブルイネの様に現代のニーズに上手く適応出来た選手もいるが、類い稀ない才能がありながらも適応出来なかったハメス・ロドリゲスは時代の変化の犠牲となってしまい、自ずと影を薄くしていった。



顔がない、絶対的な存在がいない、選手は組織の一部に過ぎない。どこからでも誰でもシュートを打つし、誰もが守備とハードワークを求められる。個性というか、らしさというか、そういったものが薄れてしまっている。そんなアイデンティティーが消えた現代サッカーには一種の喪失感を感じる時もある。

みんなに、特に子供達に夢を見せてくれたのが10番という絶対的なスーパースターだった。子供だった僕もジダンやロナウジーニョを見て育ったからサッカーが面白いと思えた。もし今僕が子供だったら、果たして今のサッカーを見て興味をそそられるだろうか?今の子供達は現代のサッカーのどんなところに目をつけるのだろうか?そして自分はどんなプレーがしたいとか、どんな選手になりたいと思うのだろうか?

遊びがないというか、サッカーから魔法が消えてしまった。ふざけたことがなくなってしまった。全員が決められた戦術の元、正確無比で規則正しく無尽蔵に走り続けるが故に、選手達が人間ではなく機会やサイボーグが動いている様に見えてしまう時がある。ロナウジーニョの様な選手は今後もう二度と現れないだろう。ハメス・ロドリゲスもあと10年早く生まれていたらもっと輝かしいキャリアを築けたかもしれない。

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