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【晴耕雨読】

そういえば僕がまだ大学生ぐらいの時期(2010年代初頭辺り)にあちこちで"やりたいこと"、"夢"、"やり甲斐"や"生き甲斐"について話題になっていた事を最近思い出した。書店に並んでいた数々の本やテレビなどのマスメディアだけでなく、実際に当時の僕の周りの友達や知り合いを見ても、"やりたいことがわからない"人が殆どだったし、"やり甲斐"という言葉をよく口にしていた。何かと"楽しさ"や"やり甲斐"を演出する時代だった様に思える。

最近ではそれらの言葉はまったく聞かなくなった。パンデミック、戦争、インフレなど、より切実で具体的な問題に直面しているからだと思う。逆に言うと、夢ややり甲斐と言った言葉が一人歩きしていた一昔前の時代は、リーマンショック直後でもあり決して景気が良かったわけではないが、まだそう言った余白に浸れるだけの余力が残っていたようにも思う。特にパンデミック発生後は、生きるか死ぬかと言った生き物の根幹というか当たり前の事が浮き彫りになり、夢ややり甲斐と言った抽象的な概念が一掃されたのではないか。ある意味普遍的に世界中の人達が幻想や白昼夢から目を覚ましたのだ。



僕は今までいくつかの仕事をしてきたが、どんな仕事の中にも楽しさや学びはあったし、楽しくない時もあった。仕事が楽しいに越した事はないが、いつも楽しいだけの仕事なんて勿論無かったし、逆に辛いだけの仕事というのも無かった。だが、向き不向きはあった。楽しかろうが楽しくなかろうが仕事は仕事だし、どんな仕事でもお金を稼ぐ為である事には変わりない。お金を稼げなければそれはもう仕事ではなく趣味やボランティアになってしまう。楽しいかどうかというその時々による曖昧な概念よりも、自分という人間を活かし、持っている力を発揮出来て、それにより生きる為に十分な収入を得ることが出来て、無理なく続けられることの方が具体的で重要な要素ではないだろうか。

"やりたいことがわからない"と言うのは自分にとっての天職というか、将来一生を通して続ける仕事が何なのかわからない、っという意味で大学生の当時に僕はそう捉えていた。でもよくよく考えたらそれは当然というか、学生時代に天職を見つけるのは土台無理な話である。学生時代は学校の勉強に殆どの時間と体力を割かれ、それ以外ではバイト、スポーツや音楽などの課外活動、後は旅に出るぐらいであって、大学を卒業すると同時にいきなり社会に放り出されるので、そんな時期に"やりたいこと"がわかっている人は極一握りの運がいい人だけだ。天職がどうかはまずやってみて、後で振り返って長い間続いていた場合の事を指す。それをまだ社会に出る前から一生の仕事を先に決めようとする事自体が間違っていたのではないかと今では思う。

大転職時代と言われている現代では一生ひとつの職種や、定年まで同じ企業に勤める事なんて皆無であろう。人は何かと先の事や将来の事ばかりに目を向けがちだが、こんなに変化が激しく予測しづらい時代ではあまり意味がないようにも思う。不確実要素が多過ぎて10年後の事なんて見当もつかないのだ。そんな先の先の事まで考える暇があったら、本を読むとか、セックスするとか、運動して体を動かすとか、旅に出るとか、家族や友達と時間を過ごすとか、そういった目の前の具体的な事をやった方が遥かに意味がある。



新型コロナウイルスが最初に中国で発見されてから3年以上経ったが、3年間ゼロコロナ政策を厳守して来たツケと人口減少により、これからの中国の経済の先行きは明らかに暗い。中国では今とてつもない数の大卒の学生達が仕事に就けないでいて、まるで大勢の難民の様に職探しに街を彷徨っているショッキングな映像をつい最近見てしまった。今年大学を卒業した人達の僅か15%しか職につけなかったらしい。誰でも大学まで行くのが当たり前になった今では大学はむしろ単なる通過点でしかなくなってしまった。"大卒"がその他大勢との優劣がなくなってしまったのでその肩書自体にはもはや意味がない。豊かさとはその他大勢との優劣によって生まれる側面も残念ながらあるのかもしれない。

今のグローバル化した社会では自分とは関係ない様な遠い海外の影響をモロに受けてしまう。中国の経済が傾けばその影響は間違いなく日本にも来る。何ひとつ強みがなくなってしまい、むしろ劣勢に立たされている今の日本が中国の不況の余波を喰らったらどうなってしまうのか。アメリカの金利が上昇し続けた結果、最近シリコンバレー銀行が破綻し、クレディスイスが買収された事でリーマンショックと似た様な事が起こることも懸念されている。

仕事に限らずどんな事でも少しでもやりたいと思ったり興味のある事に巡り会えたら、自分の出来る無理の無い範囲でさっさとやってみればいい。何事も結局やるかやらないかだ。行動に移してみて初めてわかる。でなけりゃ一生わからない。人生全般に対して何をやっていても"自分が選んでそうしている"と思える事、そして"自分の好きなように出来ている"事、これらに尽きると個人的には思う。変化が激しく、何も約束されていない現代では、どんな事でもやりたいと思った事は先延ばしせず出来る時にやった方がいいと切実に思う。







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