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コーヒーショップにて

某コーヒーショップでの出来事。
お店に入ってレジで注文をする。レジには若い男性の店員さんがひとり。

「ホットドックと・・・」
「・・・」

完全に無反応だった。まあこれはよくあることで、マスク × アクリル板 + ただでさえ小さい地声 = 喋っていない、という方程式が簡単に成り立ってしまうのだ。意識して声を張る。

「ホットドックと、ホットコーヒーを」
「あ、はい。ホットドックと、えーと、ホットコーヒー、ですね」

聞き取ってはもらえた。が、今度は店員さんがたどたどしくオーダーを繰り返し始めた。多分新人なのだろう。飲食店のバイトを経験しているとこの手の現場ではより一層優しくなれる。そんなに焦らなくていいよ。こっちはそんな急いでないからね。

「出来上がりましたらお呼びします」

レシートをもらい、席につく。気がついたら自分の後ろに3人ほどお客さんが並んでいた。後ろに並んでいたお姉さんは、新人だろうがお構いなしにバシバシと注文をし始め、なんだか分からないがポイント的なものについて質問をし始めた。うろたえている新人くん。がんばれ。その間にも次々とお客はレジに列を作っていく。おっとこれは、大丈夫か?

すると、2階の片付けを終えた女性の店員さんが降りてきた。異変に気付いたのだろう。スルスルとレジに入り、快活な対応でバシバシと捌いていく。さすがは先輩である。レジを捌き切ると次はオーダーを作り始める。アイスコーヒー、ドーナツとホットコーヒーのセット、テイクアウトのホットドック・・・。レジ前にたむろしていた人々がどんどんいなくなっていく。よかったよかった。

そこで、ふと気づく。

あれ?俺のオーダー通ってない?

俺より後に来た人たちがどんどんとオーダーを受け取って出ていく。コーヒーだけのオーダーなら順番が前後してもおかしくない。が、俺のホットドックを差し置いてテイクアウトのホットドックが先に出ることは普通ない。あれ、どうなってるんだろう。受け取り口前でうろうろしていると、その不審さに気がついた先輩店員さんが声をかけてくれた。

「どうされましたか?」
「あ、えーと、一応注文してまして・・・」
「え!申し訳ありません!今すぐお作りしますので!」

バタバタと俺のオーダーを作り始める店員さん。多分あの新人の子が通し忘れたのだろう。この件で悪いのは100:0で彼だ。ただ、このオーダーを作り終えた後に先輩に怒られてしまうかもしれない。それを想像するとなんだか申し訳ない気持ちになってしまった。俺は別に急いでないし、こんなので待たせるなんて!と怒るような器の小さい人間でもない。
俺はどうにかあの先輩店員さんに自分は怒ってないですよ〜ということを伝えたいと思い、商品を持ってきた彼女に対して「お疲れ様です」という一言を添えようと思った。この状態で店員さんに労いの言葉をかけることが出来る人間はまあまず間違いなく怒ってはいない。それで彼女の憤りを和らげてあげよう。これだ。

「お待たせして申し訳ございません。ホットドックとホットコーヒーになります」
「あ、はい。お疲れs」

颯爽と先輩店員さんは業務へと戻っていった。新人にも優しく注意をしていた。俺は何も喋ってないフリをしてホットドックに齧り付いた。

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