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【コラム】なぜ浦和レッズレディースとサンフレッチェ広島レジーナはレプリカユニフォームを販売しないのか小一時間考えた

WEリーグに所属しているサンフレッチェ広島レジーナと浦和レッズレディースのツイートが物議を醸している。共通している内容は「2022-23シーズンのレプリカユニフォームを販売しない」という点だった。レジーナはレプリカユニフォームの代わりにコンフィットシャツ(簡易版ユニフォーム)を販売するようだが、浦和レッズレディースの方は「浦和レッズ(メンズ)のユニフォームにレディースの背番号と名前をプリントします(ただしメンズのユニフォームは既に売り切れ)」という告知を出したところ批判の的となってしまったようだ。

筆者は贔屓のクラブがないという事でWEリーグにかなり疎く、まさかこんな問題が起きているとは知らなかったが怒れるサポーターの心情は理解できる。ピッチで戦う選手と同じ"戦闘服"を纏って集団で応援するというのは一種の宗教的行為と言っても過言ではない。クラブや選手をサポートする前のめりな心を最も分かりやすい行為の一つがレプリカユニフォームを着用することで、例えばタオルマフラーやミニフラッグなどの応援グッズとは一線を画すアイテムだ。

しかしそんな事はクラブ側も当然分かっている。浦和も広島も国内屈指のJクラブという兄貴的存在がいるわけで、レプリカユニフォームを販売しない事によるサポーターへの影響と、何よりグッズ収益の痛手を想像できないはずがない。筆者は内部事情など何も知らない部外者だが、レディース用のユニフォームを作れない事情があったんだろうと察する。

以下、国内アパレルメーカーで商品企画を担当する筆者が100%想像で書いた文章を連ねています。かなり的外れな可能性もあるのでご了承ください。そしてもう少し内情に詳しい方がいたらコメントで真意を教えてくださいm(__)m

①浦和の誤算は売れすぎた襟付きユニフォーム

浦和はメンズとレディースでユニフォームのデザインが共通しており、せめてメンズのレプリカユニフォームの在庫が十分にあればまだ対応は出来ていたかもしれない(それでもリーグワッペンやスポンサーが違うので不満は出るだろうが)。今回は7月中旬の段階でメンズユニフォームが完売してしまい、レディースの背番号圧着のお知らせが8月中旬に出てしまったため余計に不満を煽ってしまった。

今年の浦和のユニフォーム販売枚数は初動で前年比130%という実績を残している。製造販売業を生業としている筆者の肌感覚で言うと単価20,000円もする衣料品が前年比130%も売れるというのはかなり好調な数字だ。コロナ禍からの回復という意味合いもあるだろうがチームへの期待感、久々に復活した襟付きシャツというデザインも好調要因だろう。

予約開始から2日間で8,000枚の受注が付いて前年比130%ということは、去年は6,000枚ほどの受注実績だったのだろう。1月14日の段階で初動130%という実績が出たとして、もし追加生産するとしてもそのまま去年の総販売数に130%を掛け算した枚数をドンと発注するのは相当勇気がいる決断だ。なぜならレプリカユニフォームは他のグッズよりも賞味期限がハッキリした商材で(来年にはまた違うユニフォームが出るから)売れ残ると消化するのが非常に難しいという特性を持っているからだ。クラブとしては極力在庫を残したくない意向があるだろう。たまに量販店で叩き売られているレプリカユニフォームを見かけるが、賞味期限の切れたユニフォームはそこまで価値が下がってしまう。

結局のところ浦和のグッズ担当が見込んだ発注数量ではレディース分の需要をカバーすることが出来ず、供給不足となり販売の機会損失が発生してしまった。しかしこの欠品に対して浦和の発注担当を責めるのは少し酷かなと個人的には思っていて、需要に対してピッタリの供給を出来る神のようなMD(マーチャンダイザー※)は存在しない。発注すれば明日届くようなコンビニ弁当とは違い、ユニフォームの生産リードタイムは恐らく3~5ヵ月ほど掛かる。半年後に何を食べたいかと聞かれて答えられる人はいないように、半年後に在庫状況がどれくらいになっているのかは神のみぞ知る領域なのだ。

マーチャンダイザー:アパレルや雑貨を製造販売する企業には大抵いる役職。発注~在庫管理が主な仕事とされているが、その業務内容は会社やブランドによって異なる。Jリーグクラブにも(外部委託していなければ)MDが最低1人はいるはずだが社内デザイナー不在のケースがほとんどなのでサンプル依頼、修正、販売数予測、発注、納品、利益管理、在庫管理、スケジュール管理、各部署との連携などその仕事は多岐に渡るだろう。とてもとても大変な仕事なのでグッズ担当の方を見かけたら優しくしてあげよう

②WEリーグのユニフォームはどれくらい需要があるのか?

WEリーグの各クラブがレプリカユニフォームでどれくらいの売上高を作っているのか、少し調べたが出てこなかった。そこでJリーグのデータからの推測を試みるが、こちらもデータはほとんど出てこなかった。少ないサンプル数で予測していくので実態とは異なるかもしれないが、まぁ個人ブログだから多少のいい加減さは許されるだろう。

ということでユニフォームの販売数だが、浦和は予約開始2日間で8,000枚の受注が付いたことからトータル20,000~25,000枚ほどは売れたと予測される。人気商品の予約は初日が最も反応が高く、初週で全体の50%以上を占めるのがセオリーだ。

2021 横浜F・マリノス新体制発表会(https://youtu.be/leL6NXAal0c)より抜粋

横浜FマリノスはJクラブでは珍しくユニフォームの販売実績を公表しており、コロナ禍に直面した2020シーズンに22,530枚という記録を残している(※)。これは凄い。他にも川崎や名古屋などユニフォームが飛ぶように売れるクラブはいくつかあるが、おそらく今のJリーグクラブにおける年間販売数の天井は25,000枚程度だろう。

※ユニフォームの単価を¥20,000(ネーム入り)として雑に計算すると売上高は4億5,000万円になり、横浜Fマリノスの2020シーズン物販収入の45%を占めることになる。レプリカユニフォームの販売はクラブの活動を支える大きな収益の一つと言えるだろう

ではWEリーグとJリーグのサポータ数を比較するとどうなるか。これはクラブによってかなり差があるが、浦和と広島の例を見ると観客動員数はメンズチームのおよそ10%程度だった(※)。ということで単純計算、浦和レッズレディースのレプリカユニフォーム需要は2,000枚程度となるが実際には兼任サポも多く、またウェストを絞ったレディース仕様のユニフォーム着用を避けるメンズサポーターもいるだろう。正確に算出することは出来ないが2021-22シーズンの平均観客数が2,132人だったことを考慮しても、実際の需要は700~1,000枚程度と予測するのが妥当のように思う。

※浦和と広島はかなり極端で、例えば大宮アルディージャVENTUSや日テレ・東京ヴェルディベレーザはメンズチームの30~40%程度の入場者数だった。ちなみにJリーグとWEリーグは開催時期が違うため単純比較できないが、Jリーグの2022シーズンとWEリーグの2021-22シーズンを比較している。こんな適当な比べ方をしたら統計学に詳しい人に怒られそうで怖い

③レディースユニフォームを販売できない理由

ようやく本題だが、なぜ浦和と広島はレディースユニフォームを販売しないのか。その理由は恐らく「作りたくても作れないから」だろうと推測している。

浦和と広島のユニフォームサプライヤーはNIKE(正確にはナイキジャパン)で、ユニフォームは例年ASEAN諸国で製造している。今年のユニフォームを確認すると生産国はタイになっていた。これにはちゃんとした理由があって、例えばベトナムやミャンマーで製造すると輸入するときに特恵関税という税制上の優遇を受けることで原価を安くすることができる。例えばユニクロやGUで下げ札を見てみると、大半の商品は生産国がASEANのどこかになっている。

そんなASEAN生産にも弱点があり、その代表例が「小ロットの対応が出来ない」「納品に時間が掛かる(※)」の2点だ。そもそもASEAN諸国の工場は縫製賃が安く、そのメリットに目を付けたZARAやH&M、ユニクロ、それこそNIKEなどグローバル大企業が拠点にしている。2013年にバングラデシュで起きた縫製工場の崩落事故のニュースを記憶している人もいるかもしれない。基本的には少品種の大口発注を請け負っており、商品(=縫製)ロットは最低でも5,000~10,000点と提示されることが多い。ナイキジャパンが自社工場を保有しているなら細かい発注にも対応してくれるかもしれないが、生産国が毎年変わっている(インドネシア、タイなど)事からその都度工場を変えているのだろう。

2019年から続くコロナ禍、さらに衣料品の一大産地だったミャンマーの情勢不安や中国のゼロコロナ政策によるロックダウンの影響を避ける動きが活発で、ASEAN生産も工場の取り合いになっていると聞く。その中で浦和レッズやサンフレッチェ広島は20,000枚とか8,000枚の発注をすることが出来ても、浦和レッズレディースやサンフレッチェ広島レジーナの1,000枚や800枚は発注するのが難しいのかもしれない。単純にメンズユニフォームのサイズダウンであれば同一ロットで対応できても、シルエットやリーグワッペンが変わるとなれば別ロットとしてカウントされるのが一般的だ。

※なぜASEAN生産だと納品に時間が掛かるのか、それは単純にベトナムやミャンマーが中国より遠いからだ。中国なら船で1週間も掛からずに納品できるが、ミャンマーの場合は1ヵ月ほど掛かると言われる(サバを読まれてるだけかもしれないけど)。浦和のグッズ担当はユニフォームの更なる追加発注を考えたかもしれないけど難しかっただろう

④X-girlがWEリーグのユニフォームを手掛ける理由

2022-23シーズンのWEリーグに所属する11クラブ中6クラブはX-girlがユニフォームのサプライヤーになる事が発表されている。この異色のコラボレーションには様々な思惑があったような気がするが、一つは「ユニフォーム作りたくても作れない問題」に対する救済措置だったのかもしれない。大宮、千葉、新潟はメンズチームとは違うサプライヤーという事になる。

発注数が少なければ自分たちで生地を作る事も出来ず、最終的には中国広州の市場生地(最低ロットはないけど品質が安定しない)に頼らざるを得なくなる。X-girlをオフィシャルサプライヤーにしてクラブ横断で共通生地を使用、少しでも原価抑制と品質安定に繋がる…という狙いがあるのかもしれない。これは特にインタビュー記事なども出てこないので完全な妄想だけど。

ちなみにデザインもキービジュアルも結構いけてると思う。

⑤おわりに

という事で無駄に長くなった本稿だが、要するに「ロット未達だから発注できなかったのでは?」というだけの話である。さらに浦和の場合はメンズユニの好調や追加発注の難しさから想定より早く欠品しちゃって打つ手なしになってしまったと、そういう推論を個人的に立てた。

ただ一つ、この推論には一つ決定的に不完全な点がある。

え?レジーナさん…去年は普通にレプリカユニ作ってるじゃん…

もしかすると去年のレプリカユニは中国に振り替えて小ロット生産をしたのか(ちなみにメンズはインドネシア製)、もしくはインドネシアで小ロットを捻じ込んだ(※)けど採算が合わなさ過ぎて今年は作らなかったのか

真相は誰にも分からないので、とりあえずレジーナの2021-22レプリカを持ってる方はこっそり生産地を教えてくださいm(__)m

※最低ロット5,000枚と提示されても1,000枚の製品を捻じ込む事も出来る。その場合はアップチャージ(追加料金)を取られて原価がとても高くのが一般的。最近はASEANでも小ロットから受けてくれる工場もあると聞くので、もしかしたらインドネシア工場がやってくれたのかもしれない

何となく作れない側の擁護みたいな文章を書いちゃいましたけど、可愛いよこやんのためにも普通にレディースのレプユニも作ってもらいたい所ですね。

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