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2,神の御心は計り知れない:「クワガタ」から学ぶ人生

前回の出会いにより、現時点で「ノコギリ クワお」「ビバお」「ビバ子」「ビバ美」「コクワ コクワお」が暮らしている。

遠い記憶を探ると、もう一匹、ノコギリクワガタがいたような気がするが、いないような気もする。
うーん、覚えていないので、ここではいないものとしよう。
歳を取ると、いないものまで見えるようになるのかもしれない。

そして誰もいなくなった

全部で5匹いるはずなのだが、いつ見ても、いない。
そう、僕は「空の虫かご鑑賞生活」に戻ってしまったわけだ。

もともと「空の虫かご鑑賞生活」を解消するために、ビバ達をいれたのに、何ということだろうか?

大体、まだ虫かごの下から見えるなら許せる。
虫かごを持ち上げ、下からのぞくのは、屈辱的だが、まだ、いることは分かる。
だが、浅いところにいる場合は、土以外、何も見えない。

そういえば、小さい頃、採集後のことを覚えていなかったのは、いつ見ても、クワガタが見えないからだったのだろう。
きっとそうだ。

ふざけた話である。
飼っている意味がまったくない。

土だけ入れた虫かごと何が違うのか?
ただ、「そこに虫が入っているらしい」と、こっちが思い込んでいるだけではないのか?
実際にいるのか、いないのか、疑心暗鬼にかられる。

空の虫かごを見て、飯を食い、酒を飲み、寝ようと思って、電気を消して、しばらく経つと、ガサッ、ガサッと音がする。

僕を避けているのだ。
嫌われたものだ。
誰がゼリーをあげたと思っているのか?
自然とゼリーが出てくるはずなど、絶対にないのだ。

いいだろう。
僕はそっと足を忍ばせ、電気をつける。
クックックッ、いるいる。
電気をつけると、慌てて、アイツラは地面に潜るのだ。

こうなると、戦いである。

どれだけ相手を油断させるか?
そして、土から全員出切った時に、ゼリーに夢中な時に、電気をつけるのだ。

だが、相手もさるもの。
次第に出てくるまでの時間が長くなっているような気がする。
そうすると、僕の睡眠時間が削られてしまう。

さらに、僕が電気をつけてから、虫かごに向かうまでに、大半が隠れてしまう(気がする)。
まさか、そんな高度な技を使うのか?
そこまでして、この恩人を避けようとするのか?

そこで、僕は人手を借りることにした。

暗いうちに、虫かごのそばまで近づき、妻に電気をつけてくれることを頼む。

いやあ、もうその慌てぶりといったら・・・。
これは癖になる。

しばらくこれで楽しんでいたが、よくよく考えてみると、この夜の一瞬しか見ていないことになる。

クワおやコクワおは、まだ許せる。
だが、ビバ達は、有料である。金の分の働きをしているのだろうか?
ホームセンターで何を習ってきたのか?

そんな時、妻が僕にこう言った。

「もう、土をなくしちゃおうぜ!」

神の葛藤

彼らが日中隠れている「土」。
それをなくしてしまう。

そんなことが許されるのだろうか?

まさに神の所業である。
ただ、勝手に捕まえられ、連れてこられ、住むところを与えられ、食料を供給し、安全を保証している僕は、彼らにとって、神以外の何者でもないかもしれない。

だが、いくら、神とはいえ、土をなくしてしまうというのは、虐待ではないのか?

いや、自然界と比べればどうだ?

時々、ノコギリクワガタの頭部だけが落ちていたりするではないか?
自然界の厳しさはこの比ではない。

それに自然界では競争相手はクワガタ5名ではない。
カブトムシもいれば、カナブンだっている。
樹液を出す木が見つからない場合もあるだろう。

ここでは少なくとも、ゼリーはあるのだ。
しかも全員分、充分にある。

だが、思いきれない。

そこで僕は折衷案を取ることにした。

神に歯向かう愚か者ども

おがくずを買ってきた。
罪悪感からか、木も一本増やしてやった。

そういう自然環境で生きることもあるだろう。

僕は土の代わりに、おがくずを入れることにしたのだ。

これなら、自然環境とも近い。
土と同じく隠れられるばかりか、神にとっても見やすくなる。

素晴らしい案だ。

僕は早速、模様替えをすることにした。

一匹一匹、次の中から探し出し、一旦、ダンボールに出すのだが、いちいち、威嚇してきたり、指をはさもうとしてきたりする。

そして、ダンボールに置かれたら、そこで落ち着いてしまう。
まったく、「逃げる」ということには思い至らないのか?
羽もある。飛べるのだ。
それなのに、落ち着いてしまう。

木についていて、そのまま、ダンボールに置かれる奴らすらいる。
いや、まあ、これは仕方ない。
神の所業である。

人間だって、ビルごと運ばれたら、何もできまい。

まあ、そんなこんなで模様替えは終了した。

「森の上の方」の環境になる

正直にいって、これは失敗だった。

土と対して変わらない。
あまり見えないし、「そこまでして隠れたいのか?」という彼らの卑しい根性に辟易する。

そして、何より、小虫が湧いた。

ホームセンターに行くと、「小虫がわかなくなる」というスプレーなどもあったが、たかがクワガタに、なぜ、ここまでしなくてはいけないのか。

クワガタはまだいい。
だが、小虫もゼリーを食っているではないか。
許せぬ。

そんな時、妻が言った。
「おがくず、なくしちゃおうぜ!」

いや、それは虐待ではないのか?
自然界に「地面がない」という環境があるのだろうか?

ない。
いや、待て。
一定の制限をかければ、ある。

それは「森の上の方」である。

世界は定まった

クワガタは木の洞にいるという。
ならば、彼らに地面は必須ではない。
いや、地面はツルツルだが、あることはあるのだ。

犬猫なら話は別だ。
彼らは哺乳類である。
クワガタは哺乳類ですらない。
虫である。

我々の感覚で考えてはいけないのだ。

おそらく、我々、人間も同じだ。
神が考えていることと、人間が考えていることは違うはずだ。

地面をなくそう。

その代わり、木を増やしてあげるからね。

森の上の方だから。

(次回に続く)


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