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論文「知的障害特別支援学校における教育課程に位置付けたプログラミング教育ー(1)小学部自立活動におけるダンスの実践からー」 について

 本論文は、知的障害特別支援学校の小学部の教育課程にプログラミング教育を位置付け、プログラミング教育にダンスを取り入れた実践をまとめたものになります。この論文について、内容を簡単に解説していきます。

 実際の論文を読みながら解説を見たい方はこちらに論文があります。

目次

プログラミング教育なのに、なぜダンス?

 本実践は、教育課程(自立活動)に位置付けたプログラミング教育の最初の単元として設定しました。プログラミング教育というと、ロボットに命令を与えて動かしたり、PCやタブレット端末を使って命令が書かれたブロックを組み合わせて画面上のキャラクターを動かすイメージがあるかと思いますが、あえてダンスを取り入れてアンプラグド(コンピュータを使用せずにコンピュータの仕組みや論理的思考を学ぶことができる学習方法)にしたのは下記の理由があったからです。

①「プログラミング」という聞き慣れない活動に対して見通しがもてず、 不安になることが予想される児童がおり、児童らに親しみのある「ダンス」を取り入れることで安心してもらいたかったこと。

②ロボットやPC、タブレット端末の操作に慣れていない児童が多く、それらの操作の困難さから「プログラミング」=「難しい」といったイメージをもってほしくなかったこと。

③創りたいダンスをイメージし、ダンスの振り付けの動きやその順番を考える活動を行なうことで、児童らのプログラミング的思考を養えると思ったから。

の3点です。特に①に関しては、授業が始まる前から「何をするんだ・・・。」とプログラミングに対して不安を感じている児童が何人もおり、事前に「ダンスの振付を考えて、オリジナルダンスを創るんだよ。」と活動の目的と内容を伝えることで落ち着く様子が見られました。

学習目標と活動内容

 本実践は、自立活動にプログラミング教育を取り入れた学習活動になるため、当たり前ですがただプログラミング活動を行えばよいのではありません。プログラミング活動を通して、自立活動の学びを深めることが教師の目標となります。そこで学習目標を以下のように立てました。

・命令の指示に従って前後左右などに動くことで、認知能力の向上を図る。(環境の把握)

・友達にどの振り付けをダンスに取り入れたいか伝えたり、友達の取り入れたい振り付けを聞いて受け入れたりすることで人間関係の形成やコミュニケーション能力の向上を図る。(人間関係の形成、コミュニケーション)

・ダンスの振り付けを選んだり、順番を考えたりすることでプログラミング的思考の向上を図る。

 学習内容は、チーム(2〜3名)にてダンスの振り付けの動きとその順番を相談しながら理想のダンスを創ることにしました。振り付けは「前」「後ろ」「右」「左」「ジャンプ」「ターン」「パンチ」「クラップ」の8種類です(振り付けの動きの複雑さか ら「ジャンプ」「ターン」は 2 回目、「パンチ」「クラップ」は 3 回目に導入しました)。そして、振り付けの動きと順番を考える際には、考えたことが可視化できるように下記の振り付けカードと作戦ボードを用意しました(これらの教材は私のHPにて配布しております)。

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 また、プログラミング教育の経験が無い1〜2年生の児童らが落ち着いて学習に参加できるよう、第2回の授業から VOCA アプリ「Drop Talk HD」(現在は「DropTalk教育法人向け」に変更)のキャンパス機能を使って作成した見本動画と手元カードを使用することにしました(私のHPにて配布している教材は、「Drop Talk」がない方も使えるようにPowerPointに変更し、画像も変更済み)。

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授業の様子

 授業の際、ダンスの振り付けを選ぶときにはそれぞれの児童が踊りたいダンスの振り付けを考え、友達に伝える姿が見られました。そしてチームの実態により、じゃんけんで決めたり、順番に選んだり、相談しあったりして決めていました。ダンスを踊る際は、前方の大型テレビに作戦ボードを提示することでほとんどの児童が作戦ボードの振り付け順に正しく踊ることができ、上から順に振り付けを行なう順序処理についてはよく理解ができていたと思います。前後左右などの方向に関しては、方向の概念が未形成の児童もおり、最初こそ間違う姿が見られました。しかし、見本動画を提示したり、振り付けにそって全員で方向を口に出しながら移動したことで間違うことが少なくなりました。

 なお、第1 回の授業では、初めてプログラミング教育を行なう1年生やダンスに苦手意識がある児童がなかなか活動に参加できない様子が見られました。しかし、第2回の授業では見本動画や手元カードを用意することで、1年生も少しずつ参加ができるようになってきました。ダンスに苦手意識がある児童もこの授業から活動に参加ができるようになりました。そこには活動内容が明快なこと、見本が教師や動画だけではなく、近くにいる友達も見本になること、その場にいる全員が同じ動きを行う一体感が得られることなど様々な要因が考えられました。また、簡単な動作の振り付けが多く、自分で振り付けを考えることからダンスへの苦手意識が和らいだのかもしれません。

課題

 本実践の課題として、「8種類の振り付けから4種類を選んでオリジナルダンスを創る学習活動には正解のダンスがない」ということがあります。そのため、児童らが適当に目についた振り付けカードを順番に作戦ボードに貼り付けても誤りではないのです。また、思考するにしても「どの振り付けを使うか」「どの順番にしようか」といった内容で事足りるのです。要するに、本実践は児童らがプログラミング的思考を行う必要があまりないのです。この点については私の考え不足でした。反省しております。そのため、本実践を再度行う際は、教師からダンスのテーマを伝え、テーマに合ったダンスになるよう思考する場面を設けたり、振り付けを決める前にチームでどのようなオリジナルダンスにしたいか、何をテーマにしたダンスにするかを相談してもらったりなど、プログラミング的思考を行う必要性がある学習活動にしたいと考えております。

 以上、簡単ですが本論文の内容を解説させていただきました。先生方や教育関係者の方の参考になれば幸いです。需要があれば他の論文についてもまた解説したいと思います。拙い文章、最後まで読んでいただきましてありがとうございました。



 



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