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【定例討論会】#4「経済のグローバル化をどう捉えるか」

マガジンの説明欄に簡単に定例討論会の趣旨を書いています。わからない方はご覧ください。

今回は「経済のグローバル化」について、ディベートの形で話し合いました。
私は毎回、自分の主張を固めるために、本を一冊は読むようにしていますが、今回は選んだ本が悪かったのと、そもそもの経済ついての知識が乏しかったのもあって、個人的にはあまり満足のいく話し合いにはなりませんでしたが、構わずまとめていきましょう。

基礎知識 経済のグローバル化とは

グローバル化とは、英語ではGlobalizationと言い、国家や地域といった垣根を越えて、地球という大きな一つの単位で、経済活動を起こしていく趨勢を指します。

これによって、多国籍企業が登場し、凄まじい勢いで成長し、いまや一国家の予算を超えるほどの資産を抱えるていることが興味深いと感じます。
以下のサイトではそのような巨大な多国籍企業が紹介されています(検索が下手で日本語の記事が見つかりませんでした…)。

肯定側:立論

まずは、肯定側の立論からです。

ある国である製品の生産が難しい時に、他国との連携があれば、その製品を輸入することができる。ある製品の優れた技術を持った国家がそれを集中的に生産し、世界に輸出(国際分業)できれば、より安価で経済を回せるだろう。
経済を動かす企業が世界各地に拠点を持つことで、点在する技術や人材資源を活用できるようになる。それは有用な技術や文化を生み出す土壌を整えることを可能にするだろう。

論拠としてリカードの比較生産費説が挙げられます。
比較生産費説とは「一国における各商品の生産費の比を他国のそれと比較し、優位の商品を輸出して劣位の商品を輸入すれば双方が利益を得て国際分業が行われるという説」のことです。
例として、「労働量1単位で、A国はパン4個か毛布2枚、B国はパン3個か毛布1枚が生産可能とした場合、どちらもA国のほうが効率的だが、B国では毛布1枚を諦めればパン3個が生産できるため、パンの機会費用が少ない。A国が毛布、B国がパンに特化し、貿易を行うほうがよい。」ことが挙げられます。

この説は国際分業が経済的に良い影響を与えることを示しています。

二つ目の意見につきましても、日本の外国人技能実習制度は(実情はさておき)「技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的」としています。

先進した国や企業が、発展途上にある産業を支援することは一定の効果が望めるであろうことが言えそうです。

否定側:立論

続いて否定側の立論です。

資本主義が世界を席巻してから、起こった経済危機は数多い。メキシコのテキーラ危機、タイを発端としたアジア経済危機、これらは自由貿易協定が起こした悲劇だ。その際、経済危機に陥ったこれらの国はIMFから金を借り、その条件として、金融市場を無理矢理に開放させられる。アフリカの発展が遅々としている要因をそこに帰すことができる。
もう一つは、格差の拡大である。もう一つの問題は、格差の拡大にある。一企業のトップが暴利を貪り、その他労働者が搾取されるという構図、これは紛れもなくグローバリズムが生んだものではないだろうか。

メキシコはその当時、アメリカと仲が良く、国際通貨基金(IMF)の進める経済政策を施行していました。そこで、為替レートを市場での需給に応じて自由に決める変動相場制へ移行、ペソが大暴落を起こしました。また、さらなる要因として、北米自由貿易協定により、メキシコに大量の資本が流入したことが挙げられます。

そして、アジア金融危機では、タイ、インドネシア、韓国はIMFの支援を受けましたが、その条件として、緊縮財政や高金利政策が課せられました。その結果、これらの国々はマイナス成長に陥りました。

また、発展途上国はその開発のために、構造調整融資を受けますが、これは「市場原理導入,価格体系見直しなどのための政策や制度の変更を含む構造調整計画を借入国に義務」付けます。

アフリカの低開発状態の解決には、まず政治経済の根本的構造の分析こそ必要ですが、世銀主導の従来の調整政策はこれに取り組んできませんでした。
アフリカの経済構造の重要な特徴として以下が挙げられます:

1. 経済活動において自給部門と商業部門の占める比率が過大であること
2. 狭隘かつ連関に乏しい生産基盤とそこにおける不適切な技術の使用
3. インフォーマルセクターに対する政府の軽視
4. 環境の悪化
5. 公共政策全般にみられ、開発政策にはとくに顕著であるアーバンバイアスの結果としての不均等な発展
6. アフリカ経済の断片化
7. 投入財の外部依存を含む経済の開放性と過度の従属
8. 脆弱な制度的能力

佐藤章(1995)「補章 世界銀行の対アフリカ構造調整政策の展開」『構造調整とアフリカ農業』研究双書、アジア経済研究所、p.213より

格差の拡大は国家予算を超す多国籍企業の資産の話を紹介しましたが、「世界のトップ62人の大富豪が、世界の下位半分の資産と同額を持ってる」こともよく言われます。

このように、経済のグローバル化によって、さらなる格差が生まれたと考えられます。格差の拡大は健全な状態とは言えないでしょう。

肯定側:第一反駁

幾度か起きた経済危機は、経済のグローバル化が速く進んだにもかかわらず、それをコントロールする機関が機能していないことが問題であろう。むしろ、経済のグローバル化を抑えると、先進国による保護主義が台頭し、世界中の資源の偏りから需給のアンバランスが生じ、発展途上国は貧困に陥ると考えられないか。
グローバル化による格差は否定できないが、経済のグローバル化による直接の影響である貿易体制の構築は、ジニ係数の推移を見るに所得格差の縮小に寄与したと捉えるべきだろう。

世界の資源の分布は中国電力様のサイトがわかりやすいです。

これらの図はエネルギー資源に限ったものになりますが、エネルギー資源が世界に行き渡りにくくなってしまったら、特に日本はエネルギー資源に乏しく、2017年のエネルギー自給率は9.6%ですから、混乱してしまうでしょう。

また、内閣府作成、「第1章 第2節 グローバル化と格差の理論」『世界経済の潮流 2017年 I』には所得格差拡大をもたらした主因として、技術進歩を挙げており、グローバル化による影響は小さいとしている。

否定側:第一反駁

国際分業の理論は、特別な技術を所持していない国、いわゆる持たざる国のことを排斥しているのではないか。国際分業の恩恵は認められるが、それを発展途上国が享受できるとは考えにくく、これはかえって格差を拡大しているのではないか。

ストルパー&サミュエルソン定理は、「貿易によって、先進国では、先進国に豊富な高技能(高学歴)労働者の賃金が上昇し、低技能(低学歴)労働者の賃金が低下する。それによって、両者の賃金格差は拡大することになる。一方で、途上国では、途上国に豊富な低技能労働者の賃金が上昇し、高技能労働者の賃金との格差が縮小する。」と言われています。

しかし、1990年から2010年の間に発表された研究の多くは、グローバル化によって、発展途上国においても不平等が増加していることを示しています。
Harrison, Ann, John McLaren, and Margaret S. McMillan. (2011) "Recent Perspectives on Trade and Inequality," Annual Review of Economics , 3: 261-289.

例えば、この論文では、一つの例としてブラジルを挙げ、輸出企業および比較優位のある産業の企業においては、労働者の流出が多く、さらに労働者を雇用する頻度が低く、貿易自由化はこれらの企業の純雇用損失をもたらしているとしています。
また、関税の引き下げと輸入浸透率の上昇は、労働者が非正規雇用や失業に追い込まれる見込みの増加、それと同様に非正規雇用から正規雇用に戻れる可能性の低下と関係していることを示しています。
さらに、ブラジルでの貿易自由化は、ある正規雇用の状態から他の正規雇用へ移行する際、再配置の要する時間を長くしているとしています。

肯定側:第二反駁

発展途上国は必ずしも技術を持たざる国ではなく、技術革新が別の要因によって阻害されている場合もあるのではないか。日本にしても、戦後は貧しい発展途上国であったが、貧しさは技術力不足によるものではなく、敗戦によるものだ。経済のグローバル化は、発展途上国の企業の利益がおよび、それらの国が恩恵を受けられないとは考えにくい。
さらに、途上国には安い人件費で動かせる人員がおり、本質的に持たざる国は存在しないのではないか。

例えばキヤノンはカメラメーカーでありましたが、戦後の日本の購買力では、カメラには手が届かないほど高価なものでした。そこで、キヤノンは1955年にニューヨーク支店を開設して、現在では売上高の日本が日本が占める割合は2割にも及ばない国際的な企業に成長しました。


高い技術力を持たない発展途上国に、安い労働力を目的として、工場を建てるといったことは日本を含め、多くの先進国が行っていることです。実際、良い影響もあり、それらを挙げれば、不安定な農業などではなく、①安定した賃金を得られる職に就ける、②新たな雇用の創出、③技術移転、など。

否定側:第二反駁

発展途上国の保護貿易はむしろ推進するべきもので、自由貿易によって途上国も先進国も成長しているのは言い難い。
また、現在、先進国と呼ばれる国々において自国の主要産業を保護し、成長してきた歴史がある。それが、IMFによって現在の途上国にはできない。

以下のサイトで、主要先進国の一人当たり実質GDP成長率の推移が見られますが、そちらを参照すると、自由貿易を導入している先進国といえども、成長に乏しいことがわかります。

それと同様に、新興国においても大きな成長は起きているとは言い難いでしょう。

(前略)一方、サブサハラ・アフリカの経済成長率は、非アジア新興国の中ではまずまずの伸びであると言えるものの、アジア新興国と比べればかなり低い。
(前略)他方、サブサハラ・アフリカは、投資率が低いまま停滞傾向であり、今後、経済成長を加速させるには、投資の拡大が重要なカギであることがうかがえる。投資の拡大には、従来型のODAなど公的資金だけではなく民間投資を増やす必要があるが、民間の投資を誘致するために、サブサハラ・アフリカ諸国は、政治の安定、法制度の整備、政府のガバナンス向上などの改革によって投資環境を改善する必要がある。これが、サブサハラ・アフリカの今後の大きな課題であると言える。 (p.3より)
中南米地域の実質GDP成長率は、2018年は前年比+1.0%と2017年の+1.3%からやや減速したが、緩やかな回復を続けている。世界経済の減速や政策の不確実性の高まりが、同地域の成長の勢いを弱めており、IMFは2019年のGDP成長率について+1.4%、2020年は+2.4%と回復を見込んでいる。

また、まず農業を保護してきた歴史については、まず、19世紀後半にヨーロッパがアメリカ、ロシアから安価な穀物の流入に対して穀物関税を課したこと。
第二に、1939年代の世界大恐慌期にとられた農業恐慌による農産物価格の暴落と農業所得の著しい低下が契機となって、採用された輸入課徴金、輸入割当て、国内産農産物の混入義務づけなどの農業保護政策。
第三に、第2次大戦後の高度経済成長期において、農工間の所得格差の是正、さらには1970年代前半の食料危機を契機としてとらえた各国の農業保護
政策があります。

嘉田良平(1986)「先進国の農業保護理念とわが国農政の課題」『農林業問題研究』22巻4号、p.34より

農業以外の保護主義の歴史については以下のサイトが詳しいです。

現在の先進国にはこのような農業を保護してきた歴史が確認されましたが、途上国はどうでしょうか。
焼畑農業しばしば環境破壊を促進するとネガティブな印象を抱かれるが、実際はそうではありません。

焼畑農業をする意味は、火を入れることで灰を肥料にするのと同時に雑草を抑制し、火の熱が有機物の分解を促進することで作物の生育を促進させること。ラオス地方の伝統的焼畑では、陸稲作りにこれをする場合が多く、平均的に9年3周期のローテーションで行ってきたようだ。農地として3年程度使用すると、続く6年間はそのまま放置して森林をある程度再生させる。そこで、またそこを農地にする。このような伝統的な焼畑は、歴史的に見ても、極めて持続可能型で行われてきた。

このような持続可能であった状態に手が加えられます。それは、先進国からの何らかの圧力などが考えられます。
同記事では、同様にラオスでの例を挙げています:

国際社会からの森林破壊回避の圧力によって、ラオス政府は、森林の一部を保護林として、そこでの焼畑を禁止した。そしてどうなったのか。地元農民が使用できる面積が減少したために、焼畑と焼畑の間の休耕期間が短くなり、その結果、伝統的焼畑が非持続型焼畑農業になってしまった。

アマゾンの熱帯雨林においても、状況は深刻です。資本家たちにとって、アマゾンは未だ手つかずの広大な土地で、農業や畜産を営むにあたって好都合です。

木を切り倒して商品作物で金儲けをして、土地が使い物にならなくなったら場所を変えて同じことを繰り返す。一見すると単純なシステムのように思えるが、アマゾンの場合はそうもいかない。アマゾンの周辺地域の降雨量の2割は熱帯雨林によるもので、これが失われれば雨そのものが減っていく。つまり、痩せた土地での農業を支える水がなくなるだけでなく、熱帯雨林の再生も難しくなり、火災が増えるという最悪の状況になる。

おわりに

グローバル化は、その名の通り、グローバルな問題で、議論の内容は少し錯綜気味だった感じがします。経済が発展するという圧倒的なメリット、そして格差の拡大という圧倒的なデメリットで殴り合った、という感じでしょうか。もっと範囲を絞ってそれぞれ別個の問題として議論した方が良いのかもしれません。
筆者は否定側として、格差の拡大を引き合いに出しましたが、そもそも格差の拡大がどう悪なのか、これについてもよく吟味しなければならないと思いました。

書籍紹介

太田英明(2008)『IMF(国際通貨基金)使命と誤算』中公新書


※現在COVID-19の流行に伴い、外出の自粛をしている状況で、図書館の開館状況も万全ではない状態のため、人に書籍を薦められるほど情報が入手できません。状況が改善し次第、追記いたします。

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