【小説】耳たぶ通貨 (微下ネタ注意)


 「あっっっっつ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 2025年、夏。
 地球は年々暑くなり酷暑どころか『獄暑』呼べるような連日の暑さに人々は耐えかねていた。野外での活動は基本的に中止、人々は皆、室温が26℃以下に保たれた涼しく快適なクーラーの効いた空間で常に過ごしている。

 そんな世の中でも屋内で大人数が長時間過ごすにも関わらず涼しくない空間が存在する。それは今俺がいる『学校の教室』だ。
 田舎のこの学校にも数年前やっとエアコンが設置された。しかし、その設定温度は常に『28℃』と校則で決められている。学校がエアコンの費用を渋って数世代前のエアコンを買ったものだから実際の室温は30℃くらい。オンボロ校舎にオンボロエアコンを設置しようなんて言い出した奴のケツを蹴り上げてやりたい。

 そんなことを思いながら俺はワイシャツをパタパタとさせて熱を逃す。登校してからしばらくはこうしていないと吹き出す汗が止まらない。教室を見回すとほとんどの生徒がワイシャツをパタパタ、ズボンをパタパタとさせていて、暑さに耐えかねた女子はスカートを豪快にバッサバッサとさせている。見てはいけないと思う反面、涼しそうで少し羨ましいと思う。

「よぉ、涼介。おはよ~今日も暑すぎるよなぁ」

 同じクラスの翔平が話しかけてくる。こいつとは去年から同じクラスでこの学校の中では一番仲が良い。
「よぁ、翔平。マジで暑いな。汗が止まらないわ」
「マジでそれ、今日最高気温40℃だってよ。インフルエンザの時の体温並だよ」
「体育きつそうだなぁ。ったく、このエアコン本当に効いてるのか?」
「動いてはいる、けどなにせオンボロだから効きが悪いんだろうな。せめて設定温度を25℃とかにしてほしいぜ」

 俺たちは頭上にあるエアコンを恨めしそうに見上げる。エアコンはブオンブオンと音を立てて頑張ってくれているが、残念ながらその頑張りは俺達には届かない。
 ジリジリと照り付ける日差しの中を登校してきた生徒たちが次々と教室へと入ってくる。ただでさえエアコンの効きが悪いのにこんなに人が密集したらますます冷えなくなりそうだ。実際に気温が上がらなくても汗をかいた人間が集まると見た目が暑い。

「どうにかならないものかなぁ」

 俺はそう呟いてなんとなく、本当に何の意味もなく無意識に自分の耳たぶを触った。その時、俺の手には稲妻のような衝撃が走る。
 『冷たいもの』が俺の手に触れた。俺は一瞬、それが何か分からず思わず手を引いてしまう。しかし、間違いない。俺の手は間違いなくこの蒸し返された真夏の教室にあるはずもない『冷たいもの』に触れた。
 俺は気持ちを落ち着かせ、もう一度自分の耳たぶに触れる。

「冷たい……」
「え? なんて?」

 おもわず口にした言葉に翔平が反応する。

「冷たいんだよ、耳たぶが」
「はぁ? 何言ってんだお前。この真夏に冷蔵庫でもないのに冷たいものなんてあるわけないだろ」
「いいから、翔平、お前耳たぶ触ってみろよ」
「何言ってんだって、耳たぶが冷たいわけ……ッ!!」

 自分の耳たぶを触った翔平は、驚きと困惑の表情を浮かべている。

「な? 言っただろ?」
「あ、あぁ……。確かに冷たい、これは、すごいな……」

 翔平は驚きながらも自身の耳たぶをムニムニと触っている。

「なぁ、これもしかして、暑さ対策に使えるんじゃないか?」
「確かに! 涼介、お前頭いいな!」
「よし! この耳たぶの冷たさを利用して厚さを乗り切るぞ!!」

 ここから俺たちの夏が始まった。

ーーーー
 耳たぶが冷たいことに気づいた俺と翔平は、まず初めに自分たち以外の耳たぶも冷たいのかを検証した。もしかしたら俺たちだけが『耳たぶ冷た族』の末裔で特異体質を持っているかもしれない。
 検証の結果、他の人の耳たぶも例外なく冷たいということが分かった。どうやら俺たち人類はいつの間にか耳たぶを冷やす機能を手に入れていたらしい。これだから進化は面白い。
 検証を済ませた俺と翔平は、人体に避暑地があるという事実を同じクラスの幸太に伝えた。

「おい、幸太。お前自分の耳たぶ触ってみろよ」
「はぁ? 何言ってんだお前。なんで耳たぶなんて触らなきゃいけないんだよ」
「いいから、触れって」

 強情な幸太を俺と翔平の二人で押さえつけ、無理やり耳たぶを触らせる。

「おいっ! やめろって、こんなクソ暑いのにくっつくなって!……ッ!!」

 強制的に耳たぶを触らされた幸太は絶句する。

「つ、冷たいだって……?」
「俺も涼介に言われた時は信じられなくて、お前と同じような反応をしたさ。でも、事実なんだ、俺たちの耳たぶが冷たいことは」

 翔平と幸太は耳たぶの温度を確かめるようにお互いの耳たぶを触っている。
 手で耳たぶを触っていると、耳たぶから手へ、手から身体全体へと冷気が広がっていくようで心地が良い。俺たちの耳たぶはオンボロエアコンの代替になり得る冷却装置だったのだ。

 その事実に気づいた日から、俺たちの生活は一変した。毎朝猛暑の中登校することに変わりはないが、教室に入って耳たぶを触れば涼むことができた。耳たぶを触っていると一定時間で耳たぶが熱を帯びてしまうがしばらくするとまた冷たくなる。イメージ的には冷凍庫がなくても冷たくなる保冷材のようなものだ。
 登校したら耳たぶを触って涼み、体育の授業の後に耳たぶを触って涼み、部活終わりに耳たぶを触って涼む。耳たぶを触るだけで快適さが段違いだ。この暑さの中でもみるみるうちにQOLが上がっていく。

 しかし、このQOL上昇は、悲劇の前触れということを俺たちはまだ知らなかった……。

ーーーーーー
 俺たちが耳たぶを度々ムニムニしていると、ある時、クラスメイトたちが不思議がって訪ねてきた。

「なぁなぁ、最近よく耳たぶを触ってるみたいだけど、なんの意味があるんだ?」
「あぁ、これか? これはな、”涼んで”いるんだよ」
「何を言ってるんだ。こんな暑さの中耳たぶを触って涼めるわけないだろう」
「まぁまぁ、物は試しだ。お前も自分の耳たぶを触ってみなよ」

 訪ねてきたクラスメイトは、以前の翔平や幸太のように訝しがりながらも自らの耳たぶに手を伸ばす。すると、驚きの表情の後、暑さで眉間にしわが寄っていた顔がみるみるうちに綻んでいく。

「これはッ……! たまらなく気持ちいいな」
「そうだろう? 俺が耳たぶを触っていたのはそういうわけさ」
「教えてくれてありがとう! 俺もこれから耳たぶを触るよ!」
「あぁ、でも、触りすぎには注意しろよ。耳たぶはそのうち温まっちゃうからよ」

 クラスメイトは、まるで欲しがっていたおもちゃをやっと買ってもらえた子供のようにパタパタと走って去っていた。
 翌日、耳たぶの真実はクラス中に広まり、俺の下に真偽を確かめに来る者、自らの耳たぶに手を伸ばし驚愕する者、耳たぶを延々とムニムニする者、皆様々な反応を見せ騒ぎになったが、その騒ぎもそのうち落ち着き、クラスメイト全員が耳たぶの虜となった。
 俺はこのみんなの反応が嬉しかった。自分の発見に皆が驚き、称賛し、活用する。エジソンやライト兄弟といった発明家も同じ気持ちだったのだろうか。俺はこの日、この学校一番の発明家となった。
 数日後には耳たぶの真実は学校中に広まり、人々が登校後に耳たぶを触る姿は日常の一部となった。女子も男子も上級生も下級生も皆一様に耳たぶを触る。俺は耳たぶを触っている生徒を見ると「それ発見したの俺」と言いたい気持ちを抑えて、一人で愉悦に浸った。
 自分の発明を活用している人間を見ながら触る耳たぶは格別だ。

 耳たぶの真実が学校中に広まってから数週間後、俺はある衝撃的な光景を目にした。
 その日、俺は体育終わりにいつものように耳たぶで涼みながら廊下を歩いていた。すると、自販機の前に二人の男子生徒がいた。どうやら、体育終わりに飲み物を買うらしい。その男子生徒たちの会話が聞こえてくる。

「暑かったなージュースでも買うか」
「そうだなー、あ、やべ、俺金持って無いわ」
「財布忘れた?」
「そうなんだよなー、なぁなぁ、耳たぶ触らせてやるからさ。ジュース奢ってくんね?」
「仕方ねぇなぁ、じゃあ、教室帰ったら触らせてくれよ?」
「おっけーおっけー、さんきゅーな」

 すると、財布を持っていた男子生徒は財布を持っていない男子生徒にジュースを買って渡した。
 衝撃である、まさか耳たぶでジュースを買うとは。
 しかし、考えてみれば当然のことかもしれない。この暑さの中で耳たぶというのは言ってみれば砂漠における水に等しい。いつもはただ同然で飲むことが出来る水も砂漠ではその価値が何倍にも何十倍にも跳ね上がる。それと同じ現象が今この学校では起きているのだ。
 耳たぶを使った取引はどんどんと広まっていき、遂にはそれが当たり前となった。この学校においては冷たい耳たぶは通貨なのである。
 冷たい耳たぶの発見者である俺もその波には逆らえない。数日後には俺も耳たぶを通貨として使うことに慣れていた。

「なぁ、涼介。今日の古典の宿題見せてくんね?」
「翔平、お前またかよ。先週も見せたじゃねぇか」
「まぁまぁ、そう言わずに。1ムニーでいいか?」
「ちっ、仕方ねぇな」

 俺は昨日必死で終わらせた古典の宿題を翔平に渡す。
 1ムニ―とは、『冷たい耳たぶを1回ムニムニする権利』である。つまり、俺は古典の宿題と引き換えに翔平の冷たい耳たぶを1回ムニムニする権利を有したことになる。

 俺はこのムニーをいつも体育の授業後に使っている。前までは猛暑の中の運動で熱された身体を自身のたった2つの耳たぶで冷やさなければならなかったが、今は宿題で貯めたムニーのおかげでいくつもの耳たぶを使って身体を冷やすことが出来る。

 体育の後でも、3ムニーほど払えばクールダウンできる。これが俺なりのムニーの使い方だ。
 翔平はいつも宿題のためにムニーを消費しているので、体育後は一生懸命体育着をパタパタとさせてクールダウンを図っている。
 みんなが耳たぶで涼む中、一人だけ「あついあつい」と言いながら体育着を引っ張る姿は実に滑稽だ。全く、ムニーを計画的に使わないからそうなるのだ。

 ムニー制度が出来てから俺の夏は快適になった。しかし、光があれば影もある。ムニー制度はほとんどの人間に涼しさを届けると同時に、翔平を含めた一部の人間は過酷な生活を送らなければならなくなった。

 計画的な者と無計画な者。明らかな格差が生じている。自業自得ではあるのだが、ムニーを持たない翔平はいつも誰かに耳たぶを触られ、本人は汗をダラダラと流している。
 少し可哀想とも思うが、これもムニーを使い果たした翔平が悪い。俺は哀れな翔平の横で耳たぶをムニムニし続ける。
 ムニー制度によって冷たい耳たぶが通貨となり、みんなで「あついあつい」と苦しむこともなくなり、平和な日常が続いた。

 しかし、数週間、事態は一変する。

 ムニー制度ができてしばらくたったある時、俺はいつも通り耳たぶを触って登校による暑さを和らげていた。そこに翔平がやってくる。

「よぉ! 涼介、宿題見せてくれ!」
「またかよぉ、じゃあ、3ムニーな」

 俺は宿題の相場を段々と釣り上げている。人は宿題に何ムニーまでなら払うのか、この学校ではそれを見極めるのがムニー大富豪への道だ。

「おっけーおっけー、さんきゅーな」
「お前、最近ムニーの払いがよくなったな。節約してるのか?」
「そうか? 別に前と変わらねぇよ、じゃあな!」

 翔平は元気に去っていった。最近、翔平の様子がおかしい。以前まではムニーを使い過ぎて四六時中「あついあつい」といっていたのに、ここ数日はずっと涼しそうな顔をしている。

 最初は翔平もようやく節約というものを覚えたのかと思ったけど、どうやら違うらしい。翔平は毎週のようにムニーで宿題を買いに来るし、俺が宿題の相場を上げても嫌な顔一つせずに払う。前はムニーでジュースを買っていた。明らかに節約などしていない。むしろ前よりムニーを使っているように見える。

 一体翔平はどうやってムニーを稼いでいるんだ。俺はそう考えながら耳たぶを触る。
 ムニー制度が出来てしばらくした頃、ある時期を境に翔平をはじめとするムニー乞食達(ムニーの使い過ぎで毎日暑がっている者)に変化が起こり始めた。

 以前までは毎日のように「あついあつい」と言っていたのに、全く暑がらず一日中涼しい顔をしている。それなのに、以前と変わらず、むしろ以前よりムニーを使っているようにも感じる。
 それと同時期に、あらゆるものの値段が上がり始めた。以前まで1ムニーで見せてもらえた宿題は5ムニーに、2ムニーで買えたジュースは10ムニーに値上がりしていた。

「なぁ、最近ムニーの値上がりが激しくないか?」

 休み時間、幸太に尋ねる。幸太は俺と同じく堅実にムニーを使うタイプだ。

「それは俺も思ってたところだよ。今まで貯めてきたムニーも最近の値上がりでそろそろ底が付きそうだ」
「なんでこんなに値上がりしてるんだろうなぁ」
「それなんだけどよ、最近、ムニーの払いが良い奴らが多くてどんどん値上がりしてるらしいぜ。いくら高くしても買う奴がいるからどんどん値上がりしていくんだ」
「確かに、最近翔平のやつもムニーの払いが異様に良いんだよな。あいつなら何か知っているかもしれない」

 その日の放課後、俺は翔平と一緒に帰り、ムニーについて尋ねた。

「なぁ翔平、お前最近ムニーを使い過ぎじゃないか?」
「えー? そうかなぁ、俺は俺が使いたいように使ってるだけだぜ?」
「前までのお前はムニーを使い過ぎて困ってたじゃないか。なんで最近はそんなにムニーを持ってるんだ?」
「あぁ、そのことか。これは実は内緒のことなんだけどよ。親友のお前になら教えてやってもいいか」

 そう言うと翔平は周りを見渡し声を潜めて話し始めた。

「実はよ、先輩から教えてもらったんだが、耳たぶ以外にも冷えてるところを見つけちまったんだよ」
「なんだって!? あり得ない……。こんな暑さの中耳たぶ以外に冷えてるところなんてあるわけないじゃないか!」
「それが、あるんだよ。それが、”ここ”さ」

 翔平は自分の股間を指さした。

「ち〇こ……?」
「ちげぇよ、キ〇タマだ」
「な、なんだって!!?」
「最近、羽振りのいい奴が増えてるだろ? そいつらは全員自分のキ〇タマで身体を冷やしてるのさ。俺たちは涼むのに耳たぶなんて必要ない。冷たい耳たぶが無くても身体が冷やせるんだ。つまり、ムニーをいくら使っても損をしないってことだ」
「そんな、そんなことあり得るのか?」
「信じられないのなら、触ってる見るといいさ。てめぇのキ〇タマをよ」

 俺は自信満々にそう言い放つ翔平に気圧されて自らのキ〇タマに手を伸ばす。

「つ、冷たいッ……?」
「だろ? 俺たちはそれで身体を冷やしてるのさ」

 衝撃だ。まさか耳たぶ以外にも、こんな意外なところに冷えたものがあったとは。しかし、これはムニー制度の根幹を揺るがすような大事件だ。このままではムニーの価値が無くなってしまう。あと、自分のキ〇タマを触り続ける男が蔓延ってしまう。

 翔平からキ〇タマの真実を聞いた次の日からも俺は堅実に誠実にムニーを使い続けた。自分のキ〇タマを触るのは抵抗があるし、何より自らが発見した耳たぶの冷たさを否定したくはなかったからだ。

 しかし、俺の気持ちとは裏腹に、キ〇タマの真実はみるみるうちに広がった。キ〇タマで涼む者がムニーを使い続け、ムニーの価値は大暴落。いまや宿題を見せてもらうにも50ムニーは必要となってしまった。
 そんな状況になってしまい、俺も幸太もキ〇タマを触ることを余儀なくされた。

 さらに、キ〇タマの真実を広めた先輩たちによって『キ〇タマニー』という通貨制度が作られた。ムニーに取って代わる新たな通貨制度だ。しかし、この通貨制度にはいくつもの問題点がある。

 第一に、キ〇タマニーはキ〇タマがある者、つまり男子しか使うことができないという点だ。キ〇タマニーが流通し始めた当初からこの点は指摘され、女子による暴動が起きた。その結果、女子は引き続きムニーを、男子は基本的にキ〇タマニーを使うことになってしまった。
 次に、キ〇タマは汚いという点だ。耳たぶと違ってキ〇タマは汚い。男子の中でキ〇タマニーが流通しているとは言っても、男子の中にもキ〇タマへの抵抗を見せる者も現れ、男子の中でも対立が起きてしまった。

 キ〇タマニーを使う者、ムニーを使う者、キ〇タマニーとムニーを両方使う者、様々な者が現れ非常に複雑な構図となった。男子と女子の対立も絶えずに続き、キ〇タマニーとムニーの相場の違いも争いの火種となった。取引が成立せずに喧嘩になることも多く、学校の治安はみるみるうちに悪化していく。

 そんな中、ある日急に全校集会が開かれた。
 蒸し暑い体育館に集められ、みんなで校長の話を聞く。

「えー急な集会でみなさん驚いているかと思いますが、今日はみなさんの最近の行動についてお話があります。最近、校内での喧嘩が非常に多く、先生方も困っています。それに、自分の股間に手を突っ込んでいる男子生徒もよく目にします。非常に不潔です。そういった非行に走る生徒によくよく話を聞くと、キ〇タマニーとかムニーとか訳の分からんことを話されました。なんですか、高校生にもなって『キ〇タマニ―』って。小学生でもそんなこと言いませんよ。もっとよくよく話を聞いてみると、どうやら元を辿ると連日の暑さが原因であるということが分かりました。そこで、」

 校長先生は一息置くと、

「今のエアコンを撤去し、新しく性能のいいエアコンを導入することにしました」

 それを聞いた生徒たちは、言われたことがすぐには理解できずしばらくポカーンと口を開けていた。

 2週間後、全教室に新しいエアコンが設置された。室温も26℃に設定され、非常に過ごしやすい。
 エアコンが新しくなってからは、誰も『ムニー』とか『キ〇タマニ―』とか言わなくなった。それどころか、そんなもの初めからなかったかのように日常を過ごしている。
 みんなうっすらと「頭のおかしい事してたな」と思っているっぽい。俺もそう思ってる。

 オンボロエアコンによってできた、ひと夏の思い出。今でも僕は暑い時はついつい耳たぶをムニっとしてしまう。キ〇タマは触らない。

ーーーーー『耳たぶ通貨』完


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