見出し画像

面白くなくても、笑っていたい。





私は面白くない。





「面白い」と言われるにはほど遠い。




面白くない癖に誰かに笑ってほしいと思う人間だ。

そして、そうやって生きてきた。






晩御飯を食べながら、学校での話をよくした。


朝のホームルームで先生が I LOVE YOU という歌詞が含まれる歌を歌って生徒にからかわれて泣いてしまったこととか。

ひよこ豆がなんせまずくて、みんな嫌いなこととか。

先生のことを間違えて「お母さん」と言ってしまって恥ずかしかったけど、誰にも聞かれてなかったこととか。



いじめられていたこととか。


こんなくだらないことを、ただ話したかったのだ。



でも、誰も笑ってくれなくて、

応えてくれなかった。


笑ってくれる話を作ろう、咄嗟にそう思いついた。


それからは、母親のお気に入りの可愛らしい女の子を成るべく会話に登場させて気を引いてみたりもした。


こんなことを言えば、目の前の人は笑ってくれるのだと学ぶと、「嘘をつく」ということを覚えた。


皮肉にも、私は「嘘をつくな」と教わった人に、「嘘をつく」ことを学んだのだ。


ありままの面白くない日常に色んな嘘を交えて、時には学校の人気者を演じたりもした。


気付いていただろうか。

私が「誕生日プレゼントを貰った」と事前に自分で買っておいたラッピングされた文房具を見せていたことを。


気付いていただろうか。

学校で給食当番だった時、ストレスと緊張でお昼にみんなの前で吐いてしまったことを。


気付いていただろうか。

晩御飯の後、残飯をゴミ袋に乱雑に入れる音が怖くて、食べ残す父親の分まで必死に食べていたことを。




気付かせないくらい、

私の偽物の「面白い」日常は完璧だった。



たまに、自分はどこで息をしているのか分からなくなっても、

今を偽装するのに夢中だった。






そんな生活を経て、私は、もっと面白くなくなった。




合理的に物事を考え、哲学書を読んでいるかのようにペラペラと持論を話すようになった。


友達の定義は?

恋人の定義は?

口を開けば、難しい活字ばかりを並べた。


先生のことを「教師」としか呼ばなくなったあの頃と同じように、私は、「母親」「父親」と彼女達を呼ぶようになった。


そして、私の面白くない日常というのは、他の人と少し違っていることを自覚した。


私のことを「家庭環境が悪い可哀そうな子」と位置付けてきた大人達によって、又、私は新たな技を身に着けた。

こうやって、自分の不幸材料を語れば、誰かの優しさを得られるのだと知った。


例えそれが、自分より不幸な人間を見て感じる安堵から零れる優しさであったとしても。

それに気づかない振りをして、傷つけられる快感に溺れていた。







私は面白い人にもなり損ねた挙句、

本当に「可哀そうな子」になり腐っていたのかもしれない。







昨年11月に、「失われた青春を取り戻そう」なんて言葉を口にできる、文豪のような友人に出会った。


出会いは偶然のように必然で、出張で関東から関西に来ているらしい彼と飲み明かした。

楽観的で、よく笑う彼を見ながら、何故か、いつか見たエッセイ本に書いてあった「あなたを愛しているのは泣かせる人ではなく、笑わせてくれる人」という言葉を思い出した。


相手をどうやって笑かそうかばかり考えてきた私には、隣でずっとニコニコしている光景がとても新鮮だった。

何も考えなくても、笑ってくれて、その時、初めて自分という存在が認められたような気がした。



面白くない私の側で、彼は「そういえばあの曲がさあ」なんて、またハイボールを飲みながら笑いかけてくれた。



色んな価値観を共有し、色んな彼の景色を見た。



一番覚えている彼の表情は、

「家族で苦労してきたら、自分も家族つくろうなんて思えないよね」と言った時の顔だ。


私達はよく、家族だとか、恋愛だとか、そういうものを客観視して語りあった。


私は、彼のこの言葉を聞いて感心したのか、共感したのか、よくわからない感情と驚きに包まれたのを覚えている。だから、表情まで思いだせるのかもしれない。


今思えば、初めて自分の言葉に同じ熱量のものが返ってきて、嬉しかったのだろう。

そんな話をしながらでも彼は笑っていた。



そんな彼に、いつものように電話をかけていた時のこと。

近況報告などしながら、お酒を飲み、1時間くらい経過した頃、彼がこう言った。

「そういえばさ、前に話したいことがあるって言ったじゃん?」

「そのことなんだけどさ...」



ハッとした。そういえば、前にラインでそんなようなことを言っており、私は何の根拠もなしに勝手にネガティブな内容なことだと思っていた。



「俺さ、初めて会った11月の頃...」

話始めた彼の内容は家庭の不和だったり、死にたい感情と闘う自分自身ことであったりした。







「だからさ、あの時、俺、本当に救われたんだよ」


その言葉を聞いた瞬間、涙が零れた。




それでも、また、彼は笑っていた。






私は彼の前でよく泣く。


そして、よく笑う。


「ねえ聞いて、面白いことがあってさ... 」

なんて言ってる自分に出会えたのは、きっと彼に出会ってからだ。



作られたストーリなんかではなく、リアルな私の想いと言葉を受け止めてくれる。

いつもどんなことで笑っているのだろうと考えても思いつかない。

ただ、笑っていて、

ただ、笑っていたい。









「救われた」それ以外の言葉でこの気持ちを表現するなら、彼に出会えて本当に良かった。そう思う。







p.s

「友達以上、恋人以上、ファミリー」












文字を書くことが生き甲斐です。此処に残す文字が誰かの居場所や希望になればいいなと思っています。心の底から応援してやりたい!と思った時にサポートしてもらえれば光栄です。from moyami.