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南仏で出会ったネコさんたち 2

レンタカーで回る南仏コート・ダジュールの旅。続いて紹介したい村は、サンポールドヴァンス。街の入り口から、奥へと細い一本の道が通っており、前回紹介した渦巻き状になっているムジャンの街に対して、ここは街全体は長方形のような形になっている。この細い道は緩やかな上り坂になっており、街の中心には教会が立っている。遠くから見ると、ここだけ視界が高くなり、小さな山のような形にも見える。

門をくぐり、石壁の建物が並ぶ街を歩き始めると、さっそく黒ネコさんに遭遇。丸い筒状の井戸のようなところの淵に座ってじっとしていた。なにかに耳を澄ましている様子。

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その時、突然向かいの建物の上階の小窓付近でハトたちの喧嘩が始まった。ネコさんはその場から動かず、興味津々にじっと上を見つめていた。

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首が痛くならないのかしら、と余計な心配をする。そういえば、以前飼っていたネコも、窓越しにじっと鳥を見るのが好きだった。

私たちがはしゃぎながらネコさんの写真を撮っているそばで、同じように旅行客と思われるフランス人のおじいちゃんもまた、望遠カメラを構え、ネコさんに向かってシャッターを切っていた。そして、私たちの方をみて、ニコリと笑った。私もニコリと笑みを返した。旅先でネコを通じて見ず知らずの人と無言の交流。なんだか嬉しくなる。

相変わらずハトの動きを目で追っている黒猫さんに別れを告げて、再び細いメイン通りを歩き始める。すると、前方に先程のおじいちゃんが立ち止まって、私たちを待っている様子。おじいちゃんは、私たちが到着すると細い路地の方を指差し、再びにっこり微笑む。てっきりまたネコさんがいるのかと思い、ワクワクしながら路地へ目を向ける。しかし、ネコはいない。えっ? という顔をおじいちゃんに向けるが、おじいちゃんはまた自信を持って細い路地の階段に向かって指をさす。おじいちゃんは、私たちを「ネコ好き」だと認めてくれていたのかと思っていたが、どうやらステキな景観を写真に収める仲間だと思ってくれていたようだ。私は、「あー、ステキですね」という顔をして、夫と二人でカメラを細い路地の階段に向け、写真を撮った。おじいちゃんはそんな私たちをみて、満足そうに微笑むと、また行ってしまった。ネコさんがいなかったのは残念だったが、おじいちゃんと交流できて、新しい一枚がアルバムに加わったことは嬉しいことだ。この写真は、きっとおじいちゃんのコレクションにも収められていることだろう。

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石造の建物は、鉢植えの緑の植物などで装飾されている。その間の細い道や階段を気ままにを散歩できるネコさんが羨ましい。

さて、最後に3つ目の村、カーニュシュルメールを紹介しよう。初めてこの村の旧市街を訪れた時は、息切れが止まらなかった。そう、それくらい高い丘の上にあるのだ。ツーリストインフォメーションで質問をした際、駐車場からあの坂と階段を歩いて登ってきたと言うと、驚かれた。ちゃんとバスも通っているそうだ。このツーリストインフォの前では、幸運にもたくさんのネコさんにお目にかかることができた。ここの職員さんと思われるおばさんが、カバンからネコの餌を取り出すと、ネコたちが集まってきていた。ネコたちがこの街の人たちに愛されていることがわかり、微笑ましい気持ちになる。

この旧市街の広場には、グリマルディ城という小さな要塞のような塔が立っている。14世紀始めに、グリマルディ家によって建立され、17世紀に居城として改築されたらしい。このグリマルディ家は、現在のモナコ公国の公爵家の遠い先祖にあたるそうだ。中はミュージアムになっており、塔の上からはカーニュシュルメールの街、そして遠くにはコート・ダジュールの海が見渡せる。小さな田舎の街の古い歴史の残る要塞は、とても魅力的だった。息切れしながら急勾配を登ってきて正解だった、そう実感した。

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満足しながら旧市街の広場を歩いていると、このお城の近くにかわいい看板を発見した。「ブラックキャットジャズクラブ」と書かれた看板で、黒ネコがサックスを吹くイラストも描かれている。

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かわいいネコのイラストに目を奪われ、写真を撮っていると、ひょっこり黒ネコさんが現れた。あら、このジャズクラブのネコさんなのだろうか。黒ネコさんは私たちに見つめられて驚いている様子だったが、怖がってはいないようだった。少し離れたところまで歩いていくと、じっと私たちを見つめ返してくれた。

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普段ジャズクラブなんて行ったことはないけれど、この黒ネコさんのお家なんだと思うと、行ってみたくなった。しかし、その日の宿泊は別の村に決まっていたので、名残惜しくもその場を離れた。

3年後、私たちはまたクリスマスの時期にこのカーニュシュルメールを訪れた。ブラックキャットジャズクラブの黒ネコさんとの再会を楽しみに、旧市街の広場まで行った。しかし、悲しいことにブラックキャットジャズクラブの看板は無くなっていた。そして、黒ネコさんにも会えなかった。がっかり。


昨年私は、このブラックキャットジャズクラブと黒ネコさんを題材にした小説を書いた。黒ネコの名前はサムという。ちょうど17年間一緒に暮らした愛猫を天国へ見送った後で、愛猫への愛情をこめて創作した物語だ。懸賞に応募したが、2次予選で落選。またがっかり。もう一度再考し直して、noteで紹介できたらいいなと思っている。

しばらく南仏を訪れていないけれど、また自由に旅行できる日が復活したら、またネコさんたちに会いに行ってみよう。


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