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『彼女のいない部屋』をご覧になった方に

映画鑑賞後にお読みください
『彼女いない部屋』はアマルリック監督も言っていましたが、決して「種明かし映画」ではありません。ただ、映画を見る前にストーリーを知ってしまうよりも、何も知らずに見ていただきたいと思っています。このページは「映画をご覧になった方だけ」のために作成しました。映画を見た方には、アマルリック監督がどんなことを考えて演出したのかを伝えたいと思うからです。パンフレットには黒沢清監督との対談含め、さらにたくさんの監督の発言が掲載されていますので、よろしければ、ぜひお読みください。

マチュー・アマルリック監督のインタビューより抜粋

——原作をどのように脚色したのですか。
作品を読んで感動した気持ちを決して忘れないこと。そのために、一つ一つのシーンに入り込んで、涙が滲んでくるまで描き切ること。
映画でしかありえないものを引き出さなくてはいけない。ガレアの戯曲では、主人公の出発が実は彼女自身によって作られたものだと、最後の種明かしで分かる。彼女は家族の元から出て行ったことなどないが、自分が家出したのだと想像している。それは家族を生き続けさせるためでもあるし、死んでもなお彼らを成長させるためでもあったんだ。

原作にそって撮影を始めたが、最初に撮影したパートを編集してみたら、最後まで種明かしをしないでいると、自分たちが人形使いのようになってしまうと感じてしまった。「観客をうまく騙してやろう」という側面が見えてしまって、この作品で僕が感動した部分が壊れてしまうような。僕が感動したのは彼女自身の想像の身振りなのに。それで原作よりもかなり前に雪山のシーンを入れた。早い段階で知れば、観客はより彼女に近づけるようになり、彼女に同情ではなく愛を抱くことができるから。

——最初から3分の1で真実が分かってしまっても、「奇跡が起きた、夫と子供たちは本当は死んでいなかった」と思ってしまう瞬間がありますね。
成長した子供たちが出てくると、現実じゃないと思いつつも、やはりクラリスと同じように、もしそうならどんなに素晴らしいだろうと願ってしまうね……。
 僕は観客を最後まで混乱させたいとは思ってなかった。映画が進むにつれてだんだんと違和感がなくなり、この物語を作り上げた1人の女性について考えながら観客が映画館を出ていくようにしたかった。
クラリスの口からは、物語の中では誰も実際には聞いていない言葉が発せられる。「想像してる/家を出たと」、「家を出たのは私じゃない」、「無理がある」。僕はそれを、遠くの道から見える標石や積石のようなものだと思っている。真実を指し示すランドマーク、現実を表す標識、それによって観客は彼女の頭の中に入っていける。

——彼女は気が違ってしまったのかと思う人もいるかもしれませんね。
 映画の終盤、クラリスが音楽学校で女の子の本当の両親に対してやったことを見て、僕たちは再び地に突き落とされ、今まで自分が「狂気」の中にいたことに気づく。「警察」という言葉が出てきたところで、観客は映画に映されていなかった事情を推測する。彼女は間違いなく、長い時間を費やしてこの少女を観察し、少女の後をつけて家まで行っていたんだろう。このことについて、ヴィッキーは最近僕にこんなメッセージを送ってきた。「狂わないために、狂気を通る」……。

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——『彼女のいない部屋』では不在が循環しています。クラリスは家族のもとを去っていないのに、観客には彼女が去ったように見える。彼女は家族が自分を恋しく思っていると想像しています。
その反対のことすらも想像していた。つまり、家族は彼女のことをそんなに恋しくなど思っていないということも。朝食のクレープのシーンは誘惑的なシーンだ。3人はクラリスの不在を受け入れ、彼女なしでうまく生きているように見える。
ここではモンタージュの目眩のようなものが起きている。あのシーンは30分のテイクを2回撮った。ヴィッキーは別の部屋にいて、夫と子供たちが演じている映像と音声をリアルタイムで見たり聞いたりしていた。アリエはイヤフォンをつけて、ヴィッキーは彼に直接話しかけられるようになっていた(子供たちには聞こえない)。
 そのシーンを編集した後、半年後に再び、そのガランとしたキッチンに戻ったとき、僕はヴィッキーに1人でそこにいてその時のことを思い浮かべるのはどうかと提案した。彼女は編集済みのそのシーンを音で記憶していて(映像は見たがらなかった)、静寂の中で夫のマルクに話しはじめた。彼女はタバコを手に取る。マルクが吸っていたから。マルクもクラリスに会いたいと伝える。彼女は目を閉じ、家族を見る。彼らの中に入りこむ。このシーンは、この孤独で魔法にかかったような女性を、リアリズム的な切り返しショットで映している。二つの時空間が衝突して、このメロドラマが生まれているのだと思う。


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