サンクチュアリの習作としても楽しめる。映画「ガチ星」
公 開:2017年
監 督: 江口カン
上映時間:106分
ジャンル:ドラマ/競輪
見どころ:主人公の泣くところ
Netflixで配信されている「サンクチュアリ 聖域」は、相撲というある意味デリケートな内容を、これでもかと面白く、且つ暴力的でありながら王道を狙った物語となっています。
サンクチュアリの二人
江口カン監督と、脚本は金沢知樹のタッグでつくられていた「サンクチュアリ」ですが、もっとこの二人の世界観を楽しみたい方に、ぜひご覧いただきたい作品こそが「ガチ星」になります。
物語の構造だけでいうと、サンクチュアリと同様となっています。
ガラが悪くて態度も悪い主人公。
元プロ野球選手だったものの、成績があがらず引退。
ダメな男の見本のようなところが、素晴らしいのです。
子供を放っておいてパチンコをやる。お世話になった友人の奥さんを寝取る。休みの日には、競輪選手目指しているのに二日酔いになるまで飲んで、次の日に吐く。もう、無茶苦茶です。
そんな男が、息子にいいところを見せる為に、競輪選手として活躍するまでを描くのが本作品「ガチ星」となっています。
駄目男の再起
「ガチ星」の主人公は、既に40近くになっており、元プロ野球選手といっても、競輪選手になるにはスタートラインの時点で厳しい状態です。
しかも、たばこは吸うわ、お酒は飲むわで、はたからみていると本当にやる気があるのかすら疑わしくなります。
サンクチュアリでもそうでしたが、どうしようもない主人公が、ある日目覚めて、頑張る姿が何よりの見どころとなっています。
周りの若くて才能のある人たちからは、「おっさん、やめちまえよ」と陰口をたたかれ、暴力をふるったら、別の形で仕返しにあう。
サンクチュアリほどではないにしても、暴力的なやり取りもあったりして、こんな世界に自分がいたら、耐えられないだろうなと思ってしまうことと思います。
よく物語において、何かになった時がエンディングというのはよくある話です。
本作品は、1時間46分という短めの作品ですが、終わりをどこにもってくるかでもひやひやします。
サンクチュアリを最後までご覧になった方であれば、終わり方の想像がつくところではありますが、良くも悪くも、人生を考えさせてくれる作品です。
どん底
ガチ星をみると、人間、どこまでも落ちていくものだな、と思わせてくれます。
主人公が何かに目覚めるときというのは、そう何度もあるものではありません。
ですが、「ガチ星」の主人公は、ダメでダメでどうしようもない中、頑張って、諦めそうになりながらも、土壇場で自分の何が悪かったかに気づく。
「わかった。わかったあああ」
と叫ぶ姿をみて、視聴者である我々は、どうしてもっと早くわからなかったんだ、とツッコミを入れたくなると思いますが、おそらく、人生そういうものなんです。
何かに気づき、大逆転をする。
ある意味、王道です。
「ガチ星」は、何度も何度も底にたたきつけられます。
そのたびに、奮い立つ主人公は、それだけで勇気をもらえるから不思議です。
極端かもしれませんが、我々もまた、常に正解を歩んでいけるわけではありません。
やりたくないことから逃げたり、一時的な衝動に身を任せてしまうこともあって、失敗するかもしれません。
どん底からで食いしばる
ですが「ガチ星」を見ると、キツイなぁと思うときこそ、主人公をけしかける教官の言葉を思い出してしまうことでしょう。
「もがけっ、もがけ、おらぁっ」
もともとドラマの映画化ということもあって、物足りない部分があったり、スポーツものなだけあって、プロの競輪選手という設定にも関わらず、足の細さが目立ったりはしていました。
本物の競輪選手も何名か出ていたのですが、明らかに足の太さでわかるほどです。
そういう意味では、2年間役作りで体を改造した「サンクチュアリ」との資本力の差はみえるところではあるものの、その基本構造が同じであって、面白さの方向が一致していて楽しめるところです。
「努力せい。努力だけが結果に結びつくっちゃ」
口は悪いし、暴力的で、怖いもの見たさで眺めるだけでも面白い本作ですが、九州を舞台とした本作品の熱量が伝わってくる作品となっていますので、サンクチュアリを気に入った人は、楽しめること間違いなしです。