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ザ・マミー(2017メキシコ映画)

公  開:2017年
監  督: イッサ・ロペス
上映時間:83分
ジャンル:ホラー/クライム/ファンタジー
見どころ:ブレスレット

トラは誰の心の中にもいるはずメ~

様々な理由によって、ストリートチルドレンとして生活することとなって子供たちは、多くの場合、悲惨な人生を送ることになってしまいます。

ストリート・チルドレンが主人公の物語といえば、ブラジルのスラム街で、いつ殺されてもおかしくない世界で生きる少年たちの「シティ・オブ・ゴット」が有名なところですが、「ザ・マミー」は、メキシコの麻薬戦争の影響によって親を失い、路上生活を余儀なくされている子供たちを描いています。

「シティ・オブ・ゴット」が実話を基にしているのに対して、「ザ・マミー」は、物語の力によって、厳しい現実の中で生き抜く少女を描いているのが特徴的です。

救いは、ある。

作中の映像は、ラストの数十秒を除いて、ずーっと暗いです。

意図的に暗くし最後の演出へとつなげています。

ついつい、暗い結末の映画だ思ってしまうところですが、本作品は、現実から逃避しすぎることなく、ちゃんと救いのある作品になっています。

一応、クライム・ファンタジーホラーである本作品は、ホラー的要素はありますが、どちらかというとファンタジー色が強いです。

授業中に突然銃声が聞こえて、全員が床に伏せる中、先生が渡してくれる三つのチョーク。

もしも願いごと三つ叶うなら

主人公のエストレアは、先生にもらったチョークに1つずつ、願いを込めます。

その願い事はたしかに叶うのですが、必ずしも、本人が望むような実現の仕方をしないところが、皮肉がきいているところです。

母親をギャングにさらわれてしまった主人公は、チョークをつかって願います。

「お母さんが戻ってきますように」

そして、願いは叶います。

お母さんは、血が大地を這ってやってくる、悪霊のような状態で、エストレアに語りかけてくるのです。

まるで、W・W・ジェイコブスのホラー短編小説「猿の手」のような出来事が、物語をより恐ろしく彩ってくれます。

物語が少女を救う

「昔々、トラになりたい王子がいた」

本作品が、ただ薄気味悪いだけのホラー作品かというと、そうではありません。

壁に描かれたストリートアートが動き出してみたり、かわいい人形が動き出したりします。

ただ本作品で一番のポイントは、エストレアという主人公が、ファンタジーと現実をうまくつかっている、ということでしょう。

幼い子供が親を亡くし、食べるものすら満足にない中、ギャングに狙われる。

そんな彼らの心の支えになっていたのが、物語というところが何よりのポイントとなっています。

母親のような、地を這う謎の血液。

現れるアムール虎。

動き出す死体。

これは、本当に幽霊や化け物がいるように考えてもいいところではありますが、どちらかというとファンタジーと現実の境目を曖昧にすることで出来上がる映像と、物語となっています。

幽霊が手伝ってくれたという解釈をすることもできる一方で、本人が罪悪感を紛らわせるために、幽霊が行ったと考えても十分に通じるからです。

しかし、エストレアは、死者を通じて勇気をもらい、最後の最後には、明るい世界の扉を開けることになるのは、物語の力であり、ファンタジーの力であることは間違いありません。

メキシコ的

本作品は、メキシコを代表する映画監督ギレルモ・デル・トロが絶賛した作品ともなっています。

ギレルモ・デル・トロ監督もまたファンタジーと現実をいったりきたりする物語を得意としており、同じい波長を感じるところです。

また、メキシコという国は、死生観もまた面白かったりします。

ディズニー映画「リメンバー・ミー」を見てもわかる通り、メキシコという場所は、他の国の死の考えが異なることもポイントではないでしょうか。

メキシコの悲惨な現状を知ることができる映画として「ボーダーライン」なんかもありまして、街中で平気で死体がつり下がっている姿なんかをみると、メキシコの異常である事柄がいかに正常になってしまっているかがわかる作品となっています。

題名について

「ザ・マミー」は、トム・クルーズ主演の映画「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」と名前が同じであるため、題名的にもったいない作品となっています。

スペイン語のタイトルでは「Vuelven」。

帰ってくる、戻ってくる。返ってくる、といった意味の言葉となっておりまして、なんとなく意味はわかるところです。

アメリカでは「Tigers Are Not Afraid」となっており、作中ででてくるトラという存在を前面に押し出したタイトルとなっています。

日本語タイトルが、母親を呼ぶときのマミー、いう部分を押し出した結果、トム・クルーズ主演の映画にひっぱられてか、あるいは、それを意識してか、ミイラのほうのマミーのような感じになってしまっていたりします。

ストリートチルドレン映画

さて、ストリートチルドレンを扱った作品は、結構重たい作品が多いのですが、最後に、救いのある作品も紹介しておきたいと思います。

「ビアンカとギター弾き」もまた、ストリートチルドレンの物語となっており、フィリピンのマニラを舞台としています。

孤児の少女が、母親を買いたいと、盲目のギター弾きからお金を盗もうとすることから物語は動き出し、成長する少年少女たち姿を描いています。

「ザ・マミー」の中でたくましく生きる子供たちの姿は、「ビアンカとギター弾き」とも重なる部分が多く、ファンタジー要素をぬいたものとして楽しみたい方は、是非こちらも見てみてもらいたいと思います。

外国を舞台にした外国人主演の作品ですが、実は、日本人監督がつくっているところも驚きのポイントだったりします。

「ザ・マミー」は、子供の視点と、物語(ファンタジー)によって厳しい現実を生き延びていく主人公を描いた作品として、決して遠い国の物語ではない作品となっています。


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