思春期は家族との関係で決まる。感想&解説。映画「ヤバすぎファミリー 毎日がパラダイス」
メ~メ~。
突然ですが、映画業界において、題名と内容が合っていない映画というのは、一定の数あったりします。
有名なところでいえば、まじめで変わった冴えない青年の青春を描く「ナポレオン・ダイナマイト」の邦題は、有名でした。
当時電車男が社会的ブームだったこともあって、内容とまったく関係ないにも関わらず、「バス男」というタイトルがついてしまったということでも有名な作品となっています。(のちに、元のナポレオン・ダイナマイトとして再販)。
結果として、タイトルがよかった作品もあります。
「愛と青春の旅立ち」は、軍の士官候補生の訓練学校の物語となっており、田舎町で暮らす当時の女性たちが、どうにかして成り上がろうと男をだまし、男たちもまたそんな彼女たちをもてあそぼうとする駆け引きの中で起きる、悲劇と奇跡を描いた傑作となっています。
原題は、An Officer and a Gentlemanであり、士官と紳士という英語になっています。
この原題も、もともとは軍の規律に関係するものを抜き出したものとなっており、このまま日本人に公開しても、意味がわからなかったということも含めて、秀逸なタイトルになっているところがポイントです。
どんなタイトルでも、原題と変えてしまえば、大なり小なり文句もでてしまうところでしょうが、今回紹介する映画は、文句をいったほうがいいタイトルになっています。
その名も「ヤバすぎファミリー 毎日がパラダイス」。
タイトルのつけかたがあまりにひどいので、少しでも応援したい気持ちもありまして、ネタバレなしで内容を紹介しつつ、感想&解説をいれてみたいと思います。
本当にヤバイのか。
さて、「ヤバすぎファミリー 毎日がパラダイス」は、別にヤバイ家族の物語ではありません。
たしかに、主人公のクインは、家庭の教育方針から、学校に通わせてもらえていません。
ただし、アメリカではホームスクールという制度も一応あるにはありまして、既存の学校教育を受けさせたくないという親御さんが一定数いるというのは、アメリカのみならず、海外の実情となっています。
ただし、この映画の前半部分から描かれているのは、自分の家が変なのか、どうかは、わからない、といったところではないでしょうか。
主人公のクインは、他人の家の芝刈りを仕事というか、趣味にしている青年です。
芝刈りをしながら、彼は、ふと他人の家の中を覗き込みます。
これは、性的思考のために行っているのではなく、純粋に、普通の家庭というのはどういうものなのかを知り合い、という好奇心から生まれるもののメタファーだと思っていただきたいと思います。
主人公の家は、マリファナを生育させてお金を稼いでいる一家であることが、あっという間にわかります。
特徴的な葉っぱの形を見れば、だいたいの人は、ここの家は、不味いことをやっている家だと、わかります。
わかりますが、ヤバすぎか、と言われると、そこまでではありません。
どんな家庭であっても、家庭なりのルールというのはありますので、やっていることが犯罪というだけで、それぞれの家庭に秘密がある、という点を大きく見せたに過ぎないつくりとなっています。
自由を奪われて生きる映画
自分の家のルールを徹底して、子供の自由を奪う、という映画は沢山あったりします。
ギリシャ映画では、自分の子供たちを閉ざされた空間で育てあげたものの、思春期を迎えた子供たちは、好奇心に耐えられずに外へと飛び出して行ってしまうさまを描いた「籠の中の乙女」なんかは、一見の価値ありです。
エデンの園をつくったとしても、その楽園が永遠に続かないこと、外の世界の残酷さをよく表した名作となっています。
また、オタクな少年が、外界との接触を禁じられながらも、オタクな心とはどういうものかを見せてくれる「ブリグズリーベア」なんかも、傑作ですので、ご覧いただきたいところです。
子供たちを小さいころから洗脳して云々という作品はたしかにありますが、後者の作品にいたっては、どんなところでも生きていくことのできる強さを教えてくれる作品となっています。
監禁後世界で、どう生きるか、その感覚の違いによって歩む方向が異なるさまを描いた「ルーム」なんていうのも、この手の作品のもしもを描いた作品としてみた場合、また興味の幅が変わってくるかと思います。
家族仲はいい
話が横道にそれましたが、「ヤバすぎファミリー 毎日がパラダイス」は、一種の洗脳ものに思われそうですが、決してそうではありません。
主人公であるクインの両親は、マリファナ栽培を稼業にしてはいますが、子供たちを何よりも愛しています。
ホームスクールといっても、元教師の母親がきっちりと教育をしており、事実、高校への入学試験を受けるクインは、高得点をたたき出して、無事入学することが許されるほどです。
妹も、学校にはいっていませんし、麻薬の売人ではありますが、家族のことを大切にしています。
学校にはいっておらず、いわゆるよくある青春を送っていない、というだけで、主人公であるクインは、何一つ問題のない青年であることがポイントです。
この作品は、どこまでも思春期の主人公を扱った物語となっており、その視点をもちながらみないと、どのあたりがヤバすぎファミリーなんだろうかと、思いつつ肩透かしな気分になってしまうので注意が必要です。
思春期というのは、だいたいにおいて、他人と自分を比べたくなるものです。
「家族のことを誇りに思えないのか」
と父親は怒りますが、思春期の青年というのは、そういうものです。
隣の芝生は青く見えるものでして、どうしても、いわゆる青春に憧れてしまうのも、無理らしかぬところ。
そんな、クインの家の真ん前に、家族が引っ越ししてくるところから、物語は始まります。
恋を知り、他人を知る。
そんなある意味で、閉ざされた家庭で生活していたクインが、外に出るきっかけとなったのは、ご近所さんの存在です。
「一緒に学校いかない? 場所がわからないの」
と、言われます。
クインは一目で、恋に落ちてしまいます。
このあたりは、まさに青春映画といったところです。
実は家がマリファナを製造していて、しかも、自分は学校にもいってない人間だ、なんていうこともできず、彼はその場の嘘をついてしまいます。
ですが、その嘘を実現するために、彼は、必死に努力をして、高校への入学のために頑張るというのが主な内容です。
クインは、学校に行こうとしますが、両親には話しません。ですが、両親はすぐにそのことに気づきます。
「今の現状が不満か? 母親は元教師だ。暗記ばかりで考えることを教えない。」
「現代の教育制度は、搾取的な社会に好都合な労働者を育てるの。産業革命以降も進化していない」
その通りだったりします。
マリファナを育てている両親のほうが先進的な考え方をしており、理にかなってはいるのですが、クインはそのことを認めません。
いえ、わかってはいるのですが、やはり、思春期の男の子にとって、かわいい女の子が目の前にいて、誰かにとられてしまうかもしれないと思ってしまえば、なんとかしなければと躍起になるのは仕方がないことでしょう。
思春期の原動力というのはえてしてそういうものでして、自分の家庭と社会とのギャップに挟まれながらも、主人公が学校に通うところに面白さがあります。
青春コメディ的なノリ
本作品では、そんな家庭とのギャップの中で行われる面白さや、学校のボス的な存在に目をつけられて、いじめのような目にあいながらも、気になる女の子のために頑張る姿が描かれます。
マリファナにアブラムシ(いわゆる、害虫です)が発生したときに、天敵としてテントウムシを放つのですが、このことによって、主人公の身体にもテントウムシがついてしまうアクシデントが多発します。
ちなみに、農薬などをつかうわけにはいきませんので、虫を虫で倒すという、やり方は理にかなっているのですが、虫などに敏感な10代には、なかなかツライ仕打ちでしょう。
クインにくっついていたテントウ虫が、人々の歩く中、踏まれないようにして進む姿は、クインの困難な道を象徴しているようで、素晴らしい映像効果をもたらしています。
ただ、「ヤバすぎファミリー 毎日がパラダイス」の本質は、青春コメディ的なノリにはありません。
思春期の男の子が、自分の家族や家庭を認めた上で、自立するという、思春期を卒業する物語として成立しているところにこそ本質があります。
ネタバレポイント
さて、ここからは、ネタバレになりかねない部分になりますので、ご注意願います。
一応、ネタバレをしないで作成品を説明すると書きましたので、完全なネタバレをしませんが、察しのいい方は気づいてしまう可能性がありますので、くれぐれも本作品をご覧になってから、記事を見ることをおススメします。
この作品のキャッチコピーに
「最後に大どんでん返しが待ち受ける、青春ムービー」
と書いてあります。
正直、このどんでん返しを知ってしまうと、作品の見え方が文字通り180度変わってしまうほど強烈で、しかも、身もふたもない内容となっています。
もちろん、本作品には必要な内容となっています。
ただ、これを知ってしまうと、あまりに、ヒロインの女性に対して主人公視点での見え方がかわりすぎてしまうので、できれば、ネタバレなしで見てほしいところです。
ヒロインの存在
ヒロインであるクリスタルは、劇中では、誰もが夢中になる美人として描かれています。
高校生という設定のわりには、そう見えないなと思ってしまうのですが、それは、予算的な問題とかキャスティングの問題だろうと思って、考えないようにするのがお約束というものです。
ですが、本作品については、実は、それも含めて伏線だったことに、驚かされるところです。
なんで、冴えないクインにもかかわらず、クリスタルは話しかけてくるのか。
過去に何かあったようなことをにおわせはするのですが、クインは警戒心を解くことはなかなかできません。
もちろん、家でマリファナづくりをしているなんてことは、口が裂けても言えないところですし、その彼の心情はよくわかるところです。
「秘密を教えてくれる?」
と、彼女は言います。
そして、それを言えないクインは、結果として、彼女から拒絶されてしまうのです。
葛藤の中、彼はクリスタルに、本当のことを打ち明け、プロムで一緒に踊ってくれないか、と誘うのです。
このあたりまでは、引っ込み思案な主人公が、自分の弱みや恐怖にうちかって、ヒロインとゴールインするというまさに王道の物語となっており、これだけみると青春ものとなっています。
ですが、ここからは二重底になっています。
マリファナをつくっていた家族が、息子とのこと必死に守っていたけれど、息子のことを想い、息子の好きな人に家の内情を明かす。
青春映画としても美談ですし、白いドレスに身をつつんだ彼らは、いっときの青春映画のどこかのシーンを彷彿とさせます。
大どんでん返しの正体
「コサージュを捨てたわ」
リムジンに乗った彼らは、キスをします。
クリスタルは、母親から渡された旨の花を捨てます。
なんで、わざわざこんな捨てるシーンが必要なのだろうか、と思ってしまいます。
特に捨てるだけだからです。なんの象徴になっているんだろうと思っていると、次のシーンでその理由がわかるのです。
ここから先は映画をみていただきたいと思いますが、その後の流れをみて、この映画が、改めて思春期から大人になる青年の物語ということがわかります。
勇気を振り絞って彼女に心の内を見せたのに、彼は傷つけられ、家族を奪われます。
この映画は「閉ざされた世界にいないで、外の世界にでること」をよしとする物語ではなく、外の世界の残酷さと見せつけ、かつ、その上で、自分の家庭とかを認めて自立する男の物語だったことがわかります。
ヒロインの女の子は、「私は、若くみえるほうだったから」と言って、自分の目指す道を変えてしまいます。純情な青年の心を裏切るだけのヒロインとなってしまっています。
逆に、主人公は、家族の愛情を知り、自分の家庭がおかしいことを認めつつ、マリファナを育てる、という物語になっているのです。
そして、学校では、自分と同じように肩身の狭い思いをしていた男を相棒にして、家庭の事業を引き継いでいます。
なかなかに、苦い物語となっておりますが、何が正しくて、何が正しくないのか、というのが非常に難しいということを、よく描いた作品となっているのが「ヤバすぎファミリー 毎日がパラダイス」となっています。
題名と内容がかなり離れてしまっており、損をしてしまっているところではありますが、しっかりとした青春、思春期の成長物語として描かれていますので、気になった方は、ぜひ、見返してもらいたいと思います。
以上、思春期は家族との関係で決まる。感想&解説。映画「ヤバすぎファミリー 毎日がパラダイス」でした!
次回も、めーめー。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?