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映画「誰も知らない」。実話と映画の狭間に
公 開:2004年
監 督:是枝裕和
上映時間:141分
ジャンル:ドラマ
見どころ:兄と妹で、帰ってこないと気づく瞬間の違い
「巣鴨子供置き去り事件」をご存知でしょうか。
事実は小説よりも奇なり、とはよくいったもので、現実というのは、往々にして創作を飛び越えることがあります。
是枝裕和監督による「誰も知らない」は、そんな現実で起きた事件をベースに、そんな過酷な状況の中にあっても、力強く生きる家族を描いています。
戸籍上存在しない
物語の冒頭は、YOU演じる母親と、柳楽優弥演じる息子が、新しい家に引っ越しをするところから始まります。
これ自体は、なんてことのない場面ですが、そこから、戸籍上存在しない子供たちが現れて、ただの家族ではないことが明らかになっていきます。
そして、母親が血のつながった自分の子供を捨てて、自分の幸福のみを追求することで、子供たちは、困窮していくこととなっていく姿を描いています。
ですが、「誰も知らない」の中で、母親を演じているYOUは、子供たちに好かれ、一見、すごくいい母親に人物にみえるから不思議です。
中学生ぐらいの年齢になる息子に、残り3人の子供たちを託して、自分は、どこかへいってしまう。
一応、お金を送ってはいるものの、保護者の存在なしに、子供たちが生きるというのは、あまりに難しいのが現代社会です。
疑似家族
是枝裕和監督は、映画「万引き家族」の中でも、はっきり描いていることがあります。
それは、血のつながらない家族であったとしても、家族になれるのか、というテーマです。
これまた、別の作品ですが、福山雅治が主演する「そして父になる」は、これまた実際に起きた事件である、新生児取り違えを題材にしています。
息子だと思って育てていた子供が、まるっきり赤の他人の子供であったとき。
血のつながらない子供を愛することができるのか、あるいは、血のつながりこそが大事なのか。
普通に人生を送っている中では、まず遭遇しない悩みを通じて、家族とは何かが問われていきます。
そして、「万引き家族」は、血のつながらない寄せ集めのような人たちが、家族のようなものを築いていく、というのがポイントとなっています。
本物の家族よりも家族らしくなっている一方で、社会というのは、そんな人たちの存在を認めてはくれない。
「誰も知らない」の中でも、
「警察とか福祉事務所とか連絡したほうがいいんじゃない」
と言われるのですが、柳楽優弥演じる主人公は、
「4人で一緒で暮らせなくなるから」といって、救いの手をのばそうとはしません。
結果として、物事は悪い方向へと転がっていくようにみえるのですが、必ずしも、その生活を悪いものとして描いていないのもポイントだったりします。
どうしようもなく、弟妹たちが、家の外にでることを認めることになります。
そして、その姿は、絶望ではなく、みんな嬉しそうです。
長男でも我慢できない
柳楽優弥演じる主人公の明は、弟妹たちに対して、弱気な態度はとらず、非常にやさしい兄としてふるまっています。
時には、父親だと思われる人たちとコンタクトをとり、お小遣いをもらいながら、なんとか生計を立てています。
しかし、母親が帰ってくるまでの期間が長くなっていき、いよいよ、耐えられないな、といったところで、母親のいる場所に電話をします。
そして、たった一言で、母親の状況や気持ちがわかってしまった時の、柳楽優弥の演技は見事です。
ちなみに、2015年にサービスが終了してしまったのですが、かつては、104に電話をかけると、電話番号案内というサービスに繋がりました。
タウンページなんてものもあって、気軽に知らない人の電話番号を入手できた時代があったというのは、今にして思うと不思議かもしれません。
話は戻りますが、母親が、男の人とうまくいっていて、自分達のところには戻ってこない、と悟った明は、弟妹たちには、母親が戻ってこないことを隠そうとしていきます。
そこからは、実際の事件でも起きたように、悪い友達のたまり場になりかけてしまったり、学校に通う同年代の子供たちと、どんどんズレていくことへの恐怖や不安も描かれています。
とはいえ、劇中で流れる音楽は、決して暗いものばかりではありません。
だからこそ、子供たちだけの生活は、大変ではあるものの、みんなで協力して水を汲んでみたりと、必死に生きている姿が見られるのです。
現実は奇なり
実際に発生した事件「巣鴨子供置き去り」。
こちらは、もっと悲惨な現実となっています。
詳しくは紹介しませんが、映画「誰も知らない」よりも、数段厳しい状況です。
不良のたまり場のようになってしまったアパート。
時には暴力を受けたりする中で、事件も起きる。
「誰も知らない」の明は、万引きをするように言われても断りますし、助けてくれるようになる女の子紗希から、お金を渡されたときも断ります。
少なくとも、明の魂は汚れてはいません。
物語の後半、多少の自暴自棄になる場面はあるものの、どうにか生きるみちを探っていくのです。
現実の事件においても、死者を弔う気持ちが見られたりと、全てが悪いと決めつけられるようなものはありません。様々な状況がある中で、自体が進行してしまったといったところでしょう。
「誰も知らない」を見た後で、現実の事件を調べてみると、色々思うところがでてくると思います。
家族とは何か。
物語のラストでは、母親の代わりに、もう一人、別の家族が増えます。
まるで家族のように歩き、やがて、街の中へ消えていくだろう彼らの運命を知るものはいないわけですが、その家族の在り方が、悪いものという描き方はしていません。
是枝裕和監督は、社会問題を取り扱いながら、一方で、家族の在り方を描き続けている監督でもありますので、そんな視点でみるだけでも、これからの是枝監督作品の見え方が変わってみえるかもしれません。
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