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もしも、室町時代にロックスターがいたならば

公  開:2021年
監  督:湯浅 政明
上映時間:97分
ジャンル:アニメ/ミュージカル
見どころ:簡潔な歴史説明


「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり」

学校で習った人も多いであろう「平家物語」の有名な一節です。

そして、琵琶法師たちによって語り継がれてきた平曲。

栄華を極めた平一族について語られるわけですが、古川日出夫「平家物語 犬王の巻」を原作とした湯浅政明監督による「犬王」は、室町時代に実際にいたとされる人物を主人公に据えつつ、謎の多い犬王という人物が、いわゆるポップスターと呼ばれるような人物だとしたら、といった視点で描かれています。

「犬王」と近い時代を取り扱ったアニメ作品でいえば、アニメーション制作会社も同じサイエンスSARUが作った「平家物語」が公開されています。

また、実は室町時代が舞台となっている作品としては、スタジオジブリ「もののけ姫」が有名作品だったりするところでしょう。ただし、「犬王」よりはもっと後の時代のようではあります。

二人の主人公

そして、タイトルが「犬王」ではありますが、本作は、もう一人の主人公の生きざまを描いた作品となっているのがポイントです。

日本における三種の神器の一つ、草薙の剣を見つけた際に、盲目となってしまった男、友魚(ともな)。

平家の呪いの無念をはらす為、琵琶法師の谷一とともに、旅をします。

そして、その中で、犬王と出会うのです。

音楽

琵琶といえば、節をつけた語りと、独特の音色によるイメージがあると思います。特に、平安から室町時代においては、派手な音楽というのはイメージはないでしょう。

「犬王」では、友魚という男と、犬王が、閉塞的な都の音楽事情を一変させる様が描かれているのです。

さしずめ、ロックスターがタイムスリップして、音楽シーンをのっとっていく感じでしょうか。

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」も、主人公がロックンロールが誕生する前の時代に、「ジョニー・B・グット」を弾きつつ、ロックの歴史を舞台上でなぞっていくという演出が行われています。

「犬王」は、はっきりと言葉にしてはいませんが、明らかに、現代社会のロックスターへのオマージュがみられるところが、室町時代×ロックという面白さがあったりします。

フレディ・マーキュリーだな、とか、ジミ・ヘンドリクスっぽいかな、と思ったりと、元ネタを想像するのも面白いかもしれません。

さて、物語のほうに戻ります。

友魚は、自分達の平家の物語を拾うことによって、自分の音楽を体現するようになります。結果として、朝廷の意向にそぐわなくなるのですが、それでも音楽の為生き様を貫くことになります。

その一方で、歴史上存在していた犬王の物語となると、また、異なる面白さがあります。

どろろ

隠す気がないくらいに、本作における犬王は、手塚治虫の「どろろ」を下敷きにした主人公となっています。

芸の為、自らの子供を能面の精のようなものにささげてしまったことで、五体満足に生まれなかった犬王。

芸を極めるごとに人間に戻っていく姿は、まさにどろろです。

どろろの場合は、人としての部位を取り戻していくたびに弱くなっていくというのがポイントの一つとなっていますが、「犬王」は、異形だった身体を演出につかったりしていたりはしたものの、特に、それで困った様子はありません。

「こちらに手足を動かすことを要求するし、拍子に合わせ、唄も要求する」

「楽しいよ。つられて踊る。狂ったように客が舞う」

 など、現代人の感覚を、室町時代にぶちこむとどうなるだろうか、といった化学反応を楽しみにする感じがあったり、舞台演出なんかが凝っていまして、なんとなくその当時の技術を駆使したらできそうな演出も面白いところです。

異形のものから、人間に戻った犬王は、その後も活躍していることとなっています。しかし、無表情に、つまらなそうに舞を踊っています。

物語のラストは、いい意味で、スタジオジブリ「火垂るの墓」のようなラストになっています。

また、能楽を完成させたといわれる世阿弥の幼いころもでてきておりまして、歴史が好きな人であれば、その解釈含めて面白くみることができる作品です。


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