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オタクの青春はハタチ過ぎから。映画「あの頃。」見どころ感想。


メ~メ~。

青春ものといえば、中学生から高校生、大学生でもいいですが、いずれにしても22歳以下といったところが、メインのターゲットということになるのではないしょうか。

しかし、それは、いわゆる陽キャと呼ばれる人たちの物語であり、甲子園で白球を追いかけたわけでもなく、毛筆に願いを込めたわけでもなく、教室の隅っこで密やかに青春を消耗していた人たちからすれば、ひどく遠い出来事に思うはずです。

パッケージングされた青春は、限られた人のものでしょう。

人生のハイライトが学生時代という人も中にはいるでしょうが、今回は、いわゆるオタク的な人の青春を描いた作品。

実は、大人になってから青春を迎えたほうが、楽しいのではないか、ということを教えてくれる作品「あの頃。」を紹介していきたいと思います。

当記事には、後半ネタバレになる点も多少書いていきますが、どういったところが、見どころであるのか、という点を中心に、ムービーメーメー的な見方をお伝えできればと思っています。

あの頃の自分を、思い出せるかも、しれません。

それでは、行ってみますメ~。

念のため、簡単な概要です。

映画「あの頃。」は、「神聖かまってちゃん」のマネージャーを務めたことで有名な劔樹人(つるぎ みきと)氏による「あの頃。男子かしまし物語」の映画化したものとなっております。

原作では、劔氏による2000年を過ぎた後のサブカル周りのできごとを、自分の個人的な出来事と結びつけて語るというもので、杉作J太郎氏によるマンストーリーと呼ばれる手法によって描かれています。

映画版は、名前が変更されていたり、エピソードが工夫されていたりしていますので、原作を読んだことがある人も、問題なく、というよりは、別の作品としてしっかり楽しむことができる内容となっていますので、ご安心ください。

特に、本作品はサブカル界隈の中において、アイドル文化の中でも「ハロー!プロジェクト」つまるところ、「モーニング娘。」や、松浦亜弥といったところを中心に語られています。

語られてはいますが、本作で重要な事柄は、アイドルそのものではなく、アイドルによって集まった仲間たちと、青春をおくることのできた幸福なオタクたちの青春を描いている、というところが重要な点となっています。

それでは、具体的な内容と見どころに入っていきます。

アイドルは心の隙間に入り込む


アイドルとかちょっとね、と思っている人も中にはいるかと思います。

考え方は人それぞれですが、「あの頃。」の主人公であり、イケメン俳優である松坂桃李演じるツルギさんは、バンドの先輩にしこたま怒られたりして、うだつの上がらない生活をしています。

貸しスタジオの中で先輩に怒られ、恋人もおらず、音楽の為にバイトをして高い機材を買うと、それについても皮肉を言われる。

何のために頑張っているのかわからない生活の中で、半分鬱のような状態になってしまっています。

そんなとき、同じアパートに住んでいる友人が、見るに見かねて、パチンコで勝ったからという理由で、松浦亜弥のDVDをくれるところから物語ははじまります。

ちなみに、原作では、今でいえば違法に抽出した映像をCD-Rに焼きこんで、渡されたということになっていますが、このあたりの面倒な描写はすっとばして、パチンコで勝ったことを高価なDVDをあげる理由にしています。

ぼうっとあややのPVをみる桃李くんが、突然泣き出します。

この経験については、一定の人間があるあるだと思います。

何もかもうまくいかない人生の中で、テレビの向こう側の少女たちが、一生懸命頑張っている。
その姿に心を打たれてしまう

それこそが、何かにはまる、ということのきっかけであり、桃李くん演じるツルギ氏を見ることで、人が何かに心をつかまれる瞬間を描いています。

その対象がアイドルである必要はありませんが、「あの頃。」においては、このアイドルにはまったことで、人生が好転する若者を描いているこのシーンは、見どころです。

中学10年生

「私立恵比寿中学」こと、えび中は、永遠の中学生なわけですが、本作の登場人物たちもまた、永遠の中学生であるといえるでしょう。

冒頭でも書きました通り、だいたいにおける青春映画というのは、学生時代が多いです。

でも、大半の人間にとって、学生時代に恋愛ができるわけでもなく、わくわくできる事柄に熱中できるわけでもない。

でも、ツルギ氏は、あややこと松浦亜弥に出会うことで、彼女を知るためにCDを買おうとしてショップに行き、ナカウチさんと出会います。

ナカウチさんは、「ハロプロのイベントやってるんで、よかったら」と言ってチラシを渡してくれます。

公式なイベントかと思いきや、ハロプロが好きな人たちが集まって、ただ語り合うだけのトークイベントとなっているのですが、実はこの手のイベントは、当時珍しいものではなく、色々な場所で有志達の手によって開催されていたそうです。

自らを中学10年生と言う主人公が、ようやく、青春を始める、というところに胸が熱くなるところです。

クラスメイトの顔色ではなく、純粋に好きなものをより好きになるための仲間たちとつるむ、ということが、いかに幸福であることかを教えてくれるものであり、オタクというのは、そのほうがいい、ということを教えてくれます。

「打ち上げ、くる?」

そういわれてついていった先には、オタクによる遅れてきた青春があるのです。

仲間たちの面白さ

「あの頃。」での見どころの一つというか、主軸については押さえておいていただきたいと思います。

この作品は、ツルギ氏から見た当時の青春模様であり、その中心に据えられているのは、コズミンと呼ばれる、内弁慶(劇中では、ネット弁慶)であり、小心者で、お金にがめつくて、性格が悪いけれど、憎めない人物がキーマンとなっています。

そのため、物語の冒頭でも、コズミンのことが語られているぐらいです。

オタクな友達に囲まれて、頭が悪くて、でも思いっきり最高な生活が描かれますが、この生活が長く続かないことも示されているところです。

劇中において、石川梨華の卒業について語られる場面があります。

ひげでもじゃもじゃのロビ先輩が、推しの卒業にがっかりしています。

一見、オタクたちの青春には終わりがなく、卒業もないまま楽しい時間が永遠に続くかに思われますが、そんなことがないことがじわじわと示されていきます。

アイドル達が卒業していくように、友人たちとの関係も少しずつ変わっていきます。

本作品は、大阪を中心にした物語ですが、東京に引っ越しする人、ツルギ氏もまた、東京にいってしまったりして、以前のように頻繁に仲間たちと会うことも少なくなっていってしまいます。

永遠になるかと思われていた仲間たちの関係が変わっていく、という点は見どころの一つです。


美術や小道具について

ちょっと話はそれますが、小道具や美術についても、見どころの一つです。

ガチでアイドルグッズを収集している人であれば、本作にでてくるグッズの数々には、なつかしさを覚えることは間違いありません。

そうでない方であっても、2000年前後のものがでてきて、これは、っとなったりします。

コズミンが使っている携帯電話が、ボーダフォンだったりするところは、あえて使っているな、ということがわかるところです。

また、当時じわじわと流行りだしていたツイッターなんかも積極的に使われており、「〇〇なう」といった表現は、今であれば、もう見ない表現になっているところです。

また、コズミンが、一騎当千のフィギュアを持っていたりと、小道具の一つ一つが懐かしく感じるものばかりだったりします。

恋愛研究会。


つんく♂さんも、noteで書いておりますが、本作品は「モーニング娘。」の中でも、B面にあたる曲「恋愛ING」が使われています。

主人公たちが結成したバンド、恋愛研究会。これが、ツルギ氏を再び音楽業界に呼び戻すきっかけになったものです。

その恋愛研究会。というバンドは、オタクたちが好きに歌うだけのどうしようもないものとして見ることもできますが、何度も作中で歌われる中で、かけがえのない歌になっていく、という点は、物語の作りの妙といえるでしょう。

数々の楽曲がありますので、長年にわたってハロープロジェクトを追ってきたアイドルファンの皆さんからすれば、本作品は、ご褒美のような作品となっております。

成長と青春

さて、最後に、コズミンの物語であるとはいいましたが、やはり、劔樹人氏の成長の物語である、ということもまた忘れてはならない点です。

どん底にいる中、あややと出会うことによって仲間を得たツルギ氏。

ですが、後輩の女の子が自分に好意があると思っていたら、ドタキャンされてみたりと、ショックなことが重なります。

特に物語の転換点となったのが、憧れの松浦亜弥のライブで、隣に座ってきたおっさんです。

20年後の君だ」というおっさんは、あまりに老けすぎですが、いずれにしても、オタクにとっても、年月というのは恐ろしいものです。

このまま、何十年経ってもこのままなのかもしれない、という恐怖はとんでもないものです。

ちなみに、未来の自分がやってくるというプロットは色々あるでしょうが、近年では、「描クえもん」なんかが、胸に重くのしかかってくる漫画となっているので、この手の話を発展させたものを見たい方は、オススメです。


自己嫌悪に陥ったツルギ氏が、コズミンの慰めと、何よりも、あややとの握手会のチケットが届けられたことにより、一変します。


傷ついた心を癒してくれるのもまた、アイドル。

青紙と呼ばれる、ファンにとっては絶対に行かないわけにはいかない召集令状が、ツルギ氏のところに届きます。

「ぼくなんかが、行っていいんですかね」

「ほんなら、俺がいったるわ」

「それは嫌だ」

オタクは、何度も自己嫌悪に陥るものです。

でも、憧れのあややと握手することで、ツルギ氏は立ち直ります。

ちなみに、この前に、セクシー女優との握手会を経験しているおかげで、あややの前で、情けない行動をとることはできない、と覚悟を決められるのも重要な見どころです。

オタクはオタクなりに場数を踏んで、逃げたい思いを必死にこらえながら、「いつも応援しています」ということのできる勇気を養っていることがわかるエピソードとなっています。


すべてを笑い飛ばす

「いろいろあったけど、人生のなかで今が一番楽しいです」

人生というのは悪い時もいい時もあります。

学生時代が青春の真っただ中の人もいれば、そのあとに青春を迎える人もいます。

「あの頃。」は、20歳を過ぎた後に迎えたオタクの青春を描いたものとは何度も書きましたが、結局、映画が言いたいのは、過去ではなく、やっぱり、今が一番楽しい、ということです。

恋愛研究会。のメンバーは、基本的には、いいことも悪いことも笑い飛ばします。

アールくんの恋人である、なおちゃんを奪おうとしたコズミンとの関係を、イベントの席でなじってみたり、病気のことを笑ってみたり、人の死すらも笑い飛ばす。

けしからん、と思うこともあるかもしれませんが、でも、人生というのは楽しんだもの勝ちということがわかります。

時に離れてしまうことがあったとしても、また戻ってくればいいですし、戻らなくてもかまわない。

映画「あの頃。」は、その一瞬を切り取った物語であり、また、それを振り返ることで、やっぱり、今は今で楽しいということを教えてくれる作品となっています。

だからこそ、物語のラストでは、ツルギ氏は、コズミンの好きそうなハロプロの新しいアイドルグループについて語ったりしています。

終わりはくるけれど、終わらない。

そんな見どころが満載の映画が「あの頃。」となっています。


以上、オタクの青春は、ハタチを過ぎてから。映画「あの頃。」見どころ感想。でした!


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