ファンは見るべきか。逆輸入映画。園子温監督「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」感想。
メ~メ~。
園子温監督といえば、星を見るのが好きな熱帯魚店の店主が狂気に魅入られてしまう「冷たい熱帯魚」や、父親に罪を告白するために罪を作る少年が、愛の為に宗教施設に殴り込みをかける「愛のむきだし」など、とんでもない作品を世に出してきた人物です。
一癖も二癖もある監督ながら、Netflixではオリジナル作品「愛なき森で叫べ」をつくるなど、その活躍が一部で過剰に期待されています。
そんな園子温監督が、まさかのハリウッド映画をつくるとなれば、ファンのみならず、日本人であれば見ないわけにはいかないでしょう。
「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」は、予告編をみても、いまいち内容がわかりません。
ニコラス・ケイジが主役であり、どういったジャンルかもよくわからない中で、よほどのファンでもないかぎり、見るべきか迷うところでしょう。
そんな悩める人たちの参考になってもらうべく、「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」の感想と、ちょっとした解説も入れてみたいと思います。
園子温監督といえば
この記事をみている方で、園子温監督を知らない人はあまりいないかもしれませんが、念のためざっとおさらいしておきたいと思います。
冒頭でも書いた通り、園子温監督といえば「冷たい熱帯魚」が有名です。
愛犬家殺人事件という実際の犯罪をもとに作られており、「ボデー(身体)を透明に(見えなく)する」という、死体がなければ事件にならないという恐ろしい発想で行われた事件の映画化となっています。
他にも、東電OL殺人事件をもとにした「恋の罪」なんかもつくっており、犯罪ものを描く監督にも思われておりますが、「愛のむきだし」にいたっては、友人が妹を助けるために宗教施設に乗り込んだ時の実話をもとにつくってみたり、「地獄でなぜ悪い」では、かつてつくった脚本と自分の苦い経験をミックスさせてつくった作品を作り上げてみたりと、実に多彩な作品をつくっています。
また、園子温は、東京ガガガといったアングラ系の組織を運営していたこともあったり、アート系出身でもあることから、理解しがたい作品がつくられることもあります。
「愛なき森で叫べ」や、「アンチポルノ」などなど、登場人物が癖のある叫び方をしてみたり、演劇的なセリフまわしをさせたりすることもあったりして、独特な雰囲気が強制的に発生する監督でもあります。
「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」は、どちらかというと、アート的な側面をもつ園子温が顔をだしている感じがあり、園子温監督作品に対する耐性がある人でなければ、見るのがつらくなる瞬間があるかもしれません。
ですが、園子温映画に長く触れてきた人であれば、ハリウッドデビューを祝う意味でも、見ないという選択肢はないはずだったりします。
誤解された日本
「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」は、正直言って、設定を盛り込みすぎているきらいがあります。
物語冒頭では、江戸時代の遊郭のような場所と、東映映画の城下町を再現したような場所を、西部劇風の場所とごっちゃにしたような町が舞台となっています。
昔の時代なのかと思いきや、車やデコトラはでてきますし、檻の中でいる遊女だちは、普通にスマートフォンをもっています。
おそらく、アメリカかどっかの田舎につくられた、テーマパーク然とした街なのだと思われます。
ロボットなんかはいない「ウエストワールド」のような場所なのかもしれません。
ウェス・アンダーソン監督「犬ヶ島」なんかでもそうでしたが、間違った日本感を進化させたような世界といったほうがしっくりくる感じです。
サムライ、ゲイシャといったねじ曲がった日本に、西部劇のような場所をミックスさせて、ジョン・カーペンター監督「ニューヨーク1997
」の如く犯罪者を主人公に、釈放を条件として困難な任務を遂行させようとする話にしたような物語になっています。
なんというか、園子温のアートちっくな世界観に、ニコラス・ケイジを足して、それっぽい理由とストーリーを入れて、ちゃんばらを取り入れたのが「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」です。
設定山盛り
105分という作品の中にあって、設定はてんこもりとなっています。
ガバナーと呼ばれる白いスーツを着た男が最大の権力者となっており、園子温らしい演出で、町中の人たちが手拍子をしながら「ガバナー、ガバナー」と連呼する姿は、異様です。
ガバナーは、遊郭からいなくなってしまった孫娘を連れ戻すように、ニコラス・ケイジに依頼します。
彼は、銀行強盗をしてつかまっていたのですが、「君が、適任だという聞いた」とかいう理由で、ふんどし一丁のニコラス・ケイジに無理やり捜索を依頼するのです。
なぜ、バーニスは逃げたのか、という点は最後までよくわかりません。
そして、ゴーストランドという場所にあっさりとたどり着いたニコラス・ケイジは、あっさりと、バーニスを見つけます。
しかし、マネキンのかけらを全身に張り付けられたバーニスは、言葉をしゃべることができません。
「声を奪われたのだ」
と、それっぽいことを言う人がいますが、ゴーストランドにでてくるゴーストたちのせいなのか、はたまた違う呪いなのかも、よくわかりません。
ニコラス・ケイジと、バーニスが過去に接点があった、ということを思い出した途端に、声がでるようになったりするのですが、何か特別なエピソードがあったわけではないのです。
おそらく、本当はもっと大事な設定があるのだと思いますが、編集が施されてしまっているのではないかと邪推するところです。
タイトルのわりには、ゴーストランドでの出来事はよくわからなかったりしますし、人間関係もいまいちわからないのですが、105分で語られるには、あまりに巨大な設定がありそうな気がしてならないところです。
ここまで書いておいても、どのように語るべきか難しいところです。
ゴーストランドの人々は、時計塔についている時計の針をすすめないように、ロープでひっぱって止めています。
「時間が進んでしまう」
そう言って人々は、ゴーストランドから外にでることもできず、かといって、ツライ日々を送っているのです。
ガバナーと呼ばれる人物が、ゴーストランドにおける時間の進み方に関係しているようですが、そのあたりも、はっきりわからないうちに、ガバナーは、あっさり殺されます。
なんとなく、最後はいい感じに終わるのですが、映画の見どころはそこではないので、置いておきます。
抑えられたエロとグロ
さて、園子温監督作品といえば、エロとグロははずせないところです。
ですが、ハリウッドデビュー作ということもあってか、エロもグロもかなり抑えられています。
グロの部分についても、園子温といえば、血しぶきが有名です。
「地獄でなぜ悪い」にいたっては、部屋中が血であふれかえって洪水のようになってしまったりしますし、それ以外の作品においても、血が噴き出る場面は、ありえないぐらいの量が噴射されるところです。
血のりにはかなりのこだわりがあるはずですが、「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」においては、首を斬られた人が、ぶしゅっ、ぶしゅっと血をだしたりはしますし、提灯の中に頭を突っ込んだ人が、提灯の中で血が噴き出るという描写があったりと、血の表現があるにはあるのですが、いつもの園子温監督に比べるとかなり控えめとなっています。
エロ描写にいたっても、まろびでる乳房があたりまえのようにでてくることが多い園子温監督において、一度としてそんなものはでてきません。
いたって健全な表現しかありませんので、安心してみていただくことができます。
ソフィア・ブテラ演じるバーニスに水を飲ませて、口からあふれるところをみたニコラス・ケイジが、暗い喜びを感じるところで、股間に仕掛けられた爆弾によって強烈なおしおきを受けます。
バーニスが意味なく、タンクトップと長い脚をむき出しにしたホットパンツ姿である、といったことがサービスといったところで、エロちっくな描写は驚くほどありません。
ハリウッドデビューということで、園子温監督が気を遣っているような感じをひしひしと受ける作品となっています。
どういう風にみるべきか
とはいえ、「2001年宇宙の旅」を思わせるような白い空間での銀行強盗シーンや、「シンドラーのリスト」にでてくる赤い少女を思わせる赤い服の少年。
「マッドマックス」のような世界観でありながら、町の人全員で直そうとするのが、バリバリ日本語の書いてあるデコトラだったりするのも面白いところです。
また、指名手配犯が描かれた手配書には、こっそりルパン三世が描かれていたりするのも遊び心というべきでしょうか。
突然、スージーという少女が叫びだしたり、そのあたりにあったガトリング砲によって、敵味方関係なく殺しまくったりして、脚本が致命的に謎であることを除けば、園子温監督らしさというのは随所にちりばめられた作品となっています。
さて、そんな遊び心や、園子温らしさというがあることはなんとなくわかっていただけたと思いますが、ご覧になった人の中には、正直言ってよくわからなかった、という方も多いのではないでしょうか。
メーメー的な感想としては、これは、園子温監督によるハリウッド向け映画の、逆輸入映画だと考えました。
昔の遊郭や城下町、西部劇のような場所や雰囲気と、片腕から刀を生やして、次々と敵を倒していく。
日本という場所や文化を、昔の映画や漫画のイメージで考えている人に向けて、園監督による外国人向け(輸出)映画と考えれば、納得できる部分も多くなります。
寿司、ゲイシャといった前時代的な考え方を押し進めて、園子温監督による肥大化した日本像を、誰もが知っている大スター、ニコラス・ケイジを主役に据える。
外国の人でも、なんか日本的な誤解が入り混じった場所を舞台に、有名俳優が無茶苦茶している映画だ、ということは伝わるはずです。
日本人がみたところで、なんかバカにされているのだろうか、と思ったりするかもしれませんが、本来、ハリウッド向けに作られたものを、日本で公開するわけです。
アメリカ向けに作られた商品を、日本に逆輸入してきたならば、違和感があるのは当然だといえるでしょう。
園子温監督なりに、外国人にうけるように作ったものを、日本人が見ているわけです。
外国に向けた映画だから日本人が面白いと感じないかといえば、もちろんそんなことはありませんし、意図した対象と違う観客がみたとしても、面白いものは面白いとは思います。
園子温監督テイストが、ハリウッド向けに抑えられたり、誇張されたりしているところではありますが、ファンであれば、園子温監督のハリウッドデビューを祝う意味でも、見ておきたいところではないでしょうか。
以上、ファンは見るべきか。逆輸入映画。園子温監督「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」感想。でした!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?