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お盆に見たい。死んだ両親と再び会える映画「異人たちとの夏」

公  開:1988年
監  督: 大林宣彦
上映時間:110分
ジャンル:ホラー/ファンタジー/ドラマ

本人はそれでもいいんだメェ~

まだ両親が健在であれば、あまり意識することはないかもしれませんが、ある程度年齢を重ねた人であれば、既に親が他界しているという方もいることでしょう。

特に若いうちに親がいなくなってしまった場合には、親が何を考えていたのか、どういう人だったのかというのも興味がわく前に、全て過ぎ去ってしまったということも珍しくありません。

大林宣彦監督による映画「異人たちとの夏」は、40歳の男が、12歳の時に事故で死んでしまった両親と再び出会うことになる物語となっています。

大林宣彦監督といえば、「時をかける少女」や、「転校生」などで知られていますが、その特殊な演出方法によって、好き嫌いが分かれる監督でもあります。

「異人たちとの夏」においては、大林宣彦監督による、特徴的な演出方法が、本作品の、どことなく死を感じさせる世界観と絶妙にマッチしているので、お盆時期や、ふと両親のことを想い返したくなったときに、是非みてみてもらいたい作品となっています。

棒読み

大林宣彦監督といえば、どこか、棒読みのようなセリフまわしが特徴的です。
そのため、慣れていないと、棒読みっぷりに見ていられなくなってしまう人もいるかもしれませんが、それが、そのうち癖になってくるので安心してもらいたいと思います。

ちなみに、関係はありませんが、棒読み加減の面白さに惹かれた方に、是非見てもらいたい作品としては、濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」があります。

セリフをしゃべるということの意味であるとか、あえてやっているその演出の面白さを存分に楽しめる作品となっていますのでオススメです。

異人との邂逅

「異人たちとの夏」は、山田太一による小説の映画化となっています。

妻と別れ、シナリオライターである主人公は、取材をしている最中に、ふと、子供の頃に暮らしていた浅草にいったことで、若い頃のままの両親と出会うというところが、面白い導入となっています。

劇的な出会いではなく、何気なく若い頃の、父親を見かける。

驚いていると、向こうは、当たり前のことのように、「よう、出ようか」と言ってくる。
あまりに自然で、みている観客も何かを間違えているんだろうかと思ってしまうぐらいです。

単に父親に似ている人であるならば、無警戒すぎる。どうしていいのかわからないながら、家についていくと、そこには、死んだはずの母親がいる。

驚くほど簡単に異世界に迷い込んだようになるのは、面白いところです。

タイムスリップをしたわけでもなく、自分だけが見えているわけでもない。

言われるがままに、上着を脱ぎ、タンクトップ姿で、ビールを両親と飲む

両親を亡くしたはずの主人公は、すっかり、子供のように無邪気になっていくのです。

母親がは、手作りの甘くないアイスクリームを食べさせてくれます。

子供返りでもしているかのように、両親に甘える40の男。

親がいなくなってしまった大人が、決してすることのできないことを、映画というファンタジーを通して追体験できてしまう面白さと、恐ろしさがあるところです。

ホラーなのか。

大林宣彦監督が、ホラー映画をつくるように、という依頼の元つくられた本作品は、なんとなく死の雰囲気が漂っています。

自分は気づかないのに、周りの人間から、やつれている、と言われる主人公。明らかに、普通ではありません。

真夜中にシャンパンを一緒に飲もうと言って訪ねてきたマンションの上階に住む女性との出会い。
美しい女性ですが、後日あった彼女は、胸に火傷の後があることを話してきます。

ほのぼのとしたいい話のはずなのに、どこかうまくいかなさそうな雰囲気が絶妙です。

食べたくなるもの

「異人たちとの夏」は、食べたくなるものがいくつか出てきます。

主人公が両親と会う前に、浅草の「小柳」というお店で鰻を食べます。

ガツガツとうな重を頬張る主人公が、目の前の席で食べている老人を見て箸を止めます。

ゆっくりと、味わうようにして食べる老人をみて、気恥ずかしそうな表情を浮かべると、一口ずつ丁寧に口に運んでいくのです。

このシーンを見ると、ふと、伊丹十三監督「たんぽぽ」にでてくるラーメンの食べ方を指南する先生のような人を思い出したりするのですが、何かをわかっていそうな食通を見るというのも、面白いところです。

また、これまた有名なすき焼きやである「今半」もでてきます。

親孝行ができなかった主人公が、両親に何かしてあげたい、と思って食べに来るところが泣けます。

それ以外のも、煎餅であるとか、なんか食べ物の雰囲気が漂ってきて、ついつい、浅草にいって食べ歩きをしたくなるのも、本作の魅力といえるのではないでしょうか。

影響を受けているであろう作品

さて、「異人たちとの夏」は、2024年に、イギリスを舞台にアンドリュー・ヘイ監督によって再映画化がされています。

現代のイギリスにリメイクされているところが魅力的ではありますが、せっかくですので、2015年に公開された、日本の映画について紹介してみたいと思います。

劇団ひとりが監督、脚本の「青天の霹靂」です。

大泉洋が主演となっておりまして、こちらは、謎の雷に打たれて過去にタイムスリップした主人公が、若い頃の父親と漫才をする、という話になっています。

両親のほうは、大泉洋演じる主人公を、自分の子供とはわかっていませんが、物語の骨子を踏襲している作品となっておりまして、柴咲コウ演じる母親の容体について病院で説明する医者と、「異人たちとの夏」で歯医者をやっている俳優は、同じ笹野高史だったりするので、意識していないとは思えないキャストとなっています。

万が一「青天の霹靂」を見た方で、「異人たちとの夏」を見ていない場合は、是非見てもらいたいところです。

また、本作品を見ていない人の場合は、本作品のラストのほうの展開に驚くことになると思います。

なんだかほんわかとしながらも、何かがずっと起こりそうな、見たこともない気分になるのが本作品の面白さではありますが、人によっては、物語のラストの展開がひどすぎる、という人もいるようです。

今までの雰囲気が台無しかもしれませんが、それを余りあるほどに面白いのが「異人たちとの夏」となっています。

棒読みの面白さもある一方で、片岡鶴太郎の抜群の演技も見どころとなっていますので、お盆になるたびに、見てもらいたい作品だったりします。


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