創作する全ての人が見るべき漫画「ブルーピリオド」
め~め~。
部活ものの漫画というものは数多く存在しているわけですが、いわゆる文系の部活ものというのは、非常に地味だったりします。
例えば、サンデーでお馴染みの河合克敏氏は、部活ものが抜群に面白く、「とめはね!鈴里高校書道部」なんかは有名ですし、書道ブームを巻き起こしたきっかけでもあります。
さて、「ブルーピリオド」は、月間アフタヌーン(講談社)ではありますが、こちらもいわゆる文系ものでありながら、非常に面白い立ち位置で行っていると同時に、美術に興味がない人でも、モノづくりに興味をもったことのある人であれば、誰しもが経験し、悩み、苦しむことを、面白く、且つ、本質をついた形で漫画となっています。
モノづくりにかかわったことのある人であれば、何度読んでも発見がある作品となっていますので、より楽しむ方法も含めて、感想を書いていきたいと思います。
髪を染めた美術部員
主人公である矢口八虎は、器用貧乏な男です。
「ブルーピリオド」が面白いのは、これまでの主人公と違う、ということでしょうか。
極端に熱血というわけでもなく、かといって、陰キャに寄っているわけでもない。
タバコも吸って仲間もいて、でも、勉強もしっかりやって、優等生であると同時に不良でもあり、何でもそつなくこなす。
一昔前ではちょっと考えられないような、バランスの良い主人公となっています。
ある意味理想的な主人公であると同時に、現代を生きる人をうまくとらえているキャラクターだと思います。
悪すぎるわけでもなく、かといって、優等生すぎるわけでもない。努力もするし遊びもするけれど、特別情熱をもっているわけでもない。
人より努力して、内も外も鍛えているヤトラですが、いまいち人生に対して打ち込めていません。
良くも悪くも、現代人の悩みを体現してるといえるでしょう。
わかりやすい成功があるわけでもなく、人生を賭けて打ち込みたいものをもっているわけでもない。
無難に生きようと思えば、いくらでも無難に生きることができる。
わざわざ、冒険をする必要がまったくないはずの主人公が、美術に出会うことで、自分のやりたいことは何か、表現とはどういうものなのか、という問題にぶち当たっていく作品が「ブルーピリオド」となっています。
モノづくりに携わるにあたって、自分自身と向き合わざる得なくなったりと、八虎という主人公や、登場人物たちを通して、様々な事柄を教えてくれる作品となっています。
美大受験もの
アートを絡めたゆるい作品であれば「ひだまりスケッチ」であるとか「GA 芸術科アートデザインクラス」なんていう漫画もあったりしたわけですが、「ブルーピリオド」は、作者が東京芸術大学出身という経歴を生かし、最難関といわれている場所に挑戦する人たちや、その後の現実を描いていることもポイントです。
ただ純粋に絵に驚いて、自分でも描きたいと思って、無心で描く。
しかし、美大を目指す、となったときから、創作への想いが変質していってしまったりと、モノづくりをする人間にとっては、普遍的なあるある話となっている点も面白いです。
美術を知らなくても面白い
絵はよくわからない、という方は、心配する必要はまったくありません。
主人公がチャラい不良系少年なだけあって、もともとの知識はゼロです。
有名な美術作品もでてきますが、知っていると得した気持ちになれますが、知らなくても勉強になるだけです。
正確には、興味が沸く、というべきでしょうか。
もし、「ブルーピリオド」をもっと深く知りたい、という方がいれば、山田五郎のyoutubeチャンネルをぜひみて頂きたいと思います。
「ブルーピリオド」でのっている作品が見事に紹介されていますので、両方みることで、美術そのものにも大きくはまりやすくなるに違いありません。
ブルーピリオドを見た人は、必ず見て確認してから、また読み返して欲しいぐらい、参考になります。
作品の見え方が変わる
「ブルーピリオド」をみていてお得な点は、美術への見方が変わる、という点です。
美術館に頻繁に行く人もいれば、行くことがほとんどない、という方もいると思います。
八虎という人物は、初めて打ち込めるものに出会ったことで変わりますが、画力が気合であがるわけではありません。
下手な状態から少しずつうまくなっていきますし、予備校の先生に様々な指導を受けながら、成長していきます。
美術関連に詳しくない人間からすると、絵はたんに絵でしかありません。知らないでみると何がすごいのか、なぜ高い値段がついているのか不思議に思う事でしょう。
美術の投機的な側面ももちろんありますが、「ブルーピリオド」をみると、まず思うようになることがあります。
それは、何を表現しようとしているのか。
美術館に行ったときに何をみればいいのか、ということも、様々なものさしの方法がありますが、橋田というキャラクターは「自分が買うとしたら」という点を示してくれたりします。
あくまでこれはとっかかりに過ぎませんが、漫画を読み進めることで、美術絵への関心や、観点は確実に増えていくこと間違いなしです。
読むほどに、美術への興味が深くなっていくという点は、他の漫画作品のみならず共通するところではあるものの、より、その効果が大きい作品であるとはいえると思います。
天才も、非天才も描く
高橋 世田介くんというキャラクターは、いわゆる天才として描かれています。
ただし、万能というわけではなく、天才であるが故の感性の差ということもよくわかります。
「絵がうまいよね。」
「矢口さんは、ご飯を食べたり、うんこしたりするのを褒められたら、ソレニ自身をもてるの?」
矢口はそのことについてピンときていません。
息をするのがうまいねぇ、といわれて喜ぶ人間は少ないでしょう。
それと同じように、天才には天才の悩みや感性というのがあることがわかります。
矢口もまた才能はあるでしょうけれど、基本的には、努力型の人間というのも魅力です。
いい作品がかけた、と思ったら、今度は、過去の自分を参考にしてしまい、気づくと
「縁の絵の焼き回しだもん。鮮度がないんだよね。挑戦も工夫もない」
と言われて、スランプに陥ったりもします。
本当に、この手の問題は、美術に限らず、あらゆるものに共通するところではないでしょうか。
xxがうまいね、と言われて、逆に意識するあまりにうまくできなくなってしまう矛盾と、はがゆさ。
漫画という形で、これほど見事に描き出す作品は稀有といえるでしょう。
壊れていくもの
「ブルーピリオド」が優れているのは、少年漫画的な復活劇がない、といったところでしょうか。
美大受験というのは本当に過酷です。
何浪もする人が当たり前ですし、その中で挫折する人も描きます。
体調を崩す人もいれば、土壇場になって自分自身の作品が描けなくなったりもします。
特に、日本画を専攻していたキャラクターが、キャンパスに×とかいてでていくエピソードと、その後の理由を知るにつけて、いかに、モノづくりというものが、その人物のパーソナルな部分と直結していて、だましたりごまかしたりできないものなのか、ということもわかります。
答えがあるわけではない、ということもまた難しさの一つでしょう。
正解がない、ということは、永遠に考え続けなければならない、ということです。
物語の前半は、美大受験というものがメインとなっており、その中で、主人公である八虎は、自分自身の弱さや技術力のなさ、あらゆるものを思い知らされます。
一方で、「受験美術」と言われたりして、受験に受かるためのテクニックの存在に対して疑問を覚えてみたり、動揺したりもします。
人生は続く
「ブルーピリオド」は、美大受験で終わる話ではありません。
よくあるのが、頑張って勉強をしたり、恋をしたりしつつ、大学に受かって終わり、であったり、幸せに暮らしました、めでたしめでたし、的な話でしょうが、美大受験が終わったあとのほうがきつかったりします。
どこまでも自分と向き合うことになります。
自分自身には決して嘘はつけません。
美術を通じて、誰かが何かを生み出すということがどういうことなのか、ということを深く教えてくれる作品が「ブルーピリオド」となっています。
アニメ版の感想
実は、アニメ版のデモをたまたま見て気になって漫画も全巻購入してしまったのですが、アニメの出来も素晴らしいものとなっています。
当たり前ですが、作品にでてくる美術品がちゃんとカラーで描かれている、というのもそうですし、アニメの前半にいたっては、あえて八虎の父親が描かれていない、という点も面白い演出でした。
ヤトラの家族は実に仲がいいのですが、アニメ版では、初めのころ、父親がでてきません(あとで、ちゃんとでてきます)。
原作版では当初からでてきますが、あえて出さないことで、母親との関係をクローズアップしているのは驚きました。
基本的には原作に忠実ですが、アニメのほうが色がついている、という点において、原作よりも衝撃が強いですし、イメージがより伝わりやすくなっています。
不良が美大受験を目指す、ということで、あらすじだけきくと、手に取るべきかどうか悩んでしまう方もいるかもしれませんが、圧倒的に面白い作品となっておりますので、特に、創作に関わったことのある人には読んでいただきたい作品となっています。
以上、創作する全ての人が見るべき漫画「ブルーピリオド」でした!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?