ゲンナジー・ゴロフキンとミドル級の歴史

 現在、17階級もあるプロボクシング。しかし、その幕開けは僅か二階級だった。ヘビー(重い)級とライト(軽い)級。しかし、これだけではあまりに選手間の体重差があり過ぎる。そこで階級を新設する事になった。ミドル(中間)級だ。初めてグローブ使用の世界戦が行われたのが1884年。なんと138年の歴史がある。     
 72.525㎏と欧米人の平均的な体格のミドル級は多士済々の名王者を生んできた。
 コークスクリューブローの開発者キッド・マッコイ、史上屈指の強打を持つ「ミシガンの暗殺者」スタンレー・ケッチェル、あらゆる反則技を駆使し圧倒的な手数で相手を吹き飛ばす「人間風車」ハリー・グレブ、猛烈なタフファイター「レイジング・ブル(怒れる牡牛)」ジェイク・ラモッタ、全階級を通じて史上最高のボクサーと称えられる「拳聖」シュガー・レイ・ロビンソン。
 長い歴史の前半だけでもこれだけの名前が挙がる。そして近年に近づくといよいよ見知った名選手の名が登場する。
 右ストレートを武器に70年代無敵の強さを誇った「ショットガン」カルロス・モンソン、80年代中量級4強時代の最終関門として君臨したサウスポーの帝王「マーベラス(驚異の男)」マービン・ハグラー、IBF王座を20度防衛、史上初のミドル級4団体完全統一を成し遂げた「死刑執行人」バーナード・ホプキンス。
 その後も多くの素晴らしい選手達がミドル級王座を獲得し続けている。しかし、複数階級を獲得する時代に移り階級そのものを代表するような選手は久しく表れなかった。そんな時に出現したのがゲンナジー・ゴロフキンだ。
 現在、40歳のゴロフキン。あらためて戦績を振り返るとその凄まじさに驚く。アマチュア戦績345勝5敗。アテネオリンピックで銀メダルを獲得後にプロ転向。2010年にWBA暫定王座獲得。正規王座に昇格したのち6年間に亘って17連続KO防衛を記録する。これは80年代前半に活躍したスーパーバンタム級の名王者ウィルフレド・ゴメス以来の世界タイ記録だ。その後もミドル級の頂点に君臨し続けて現在まで41勝36KO1敗1分(1敗1分の相手は現パウンドフォーパウンド1位サウル・カネロ・アルバレスだがこの判定は論議を呼ぶものだった)
 ゴロフキンの特徴として第一に挙げられるのがパンチ力だ。普通は弾く様に出す左ジャブだが彼のものは違う。全身の力を使い突き刺すように出すジャブはパワージャブと呼ばれてストレート並みの威力を誇る。強烈なジャブで顎を跳ね上げられてロープ際に追い詰められた相手を待っているのが多彩な角度で放たれる鉄の拳。特に上から叩きつける様に繰り出されるフックは彼の代名詞的存在で井上尚弥選手も見習う必殺のパンチだ。鈍器を振るうような撲殺劇。殆どの選手はこの時点で終了してしまう。
 しかし稀に反撃出来る選手もいる。ここで待ち受けているのが鋼鉄の顎だ。ゴロフキンはアマプロ400戦近くの戦歴で一度もダウン経験がない。まともに被弾しながら打ち返し相手を逆に倒したことすらある。また武骨なファイターと思われがちだがアマチュアエリートらしく高度テクニックを持ちまともに被弾すること自体が少ない。
 2022年4月9日WBA IBF世界ミドル級王座統一戦が行われる。日本の村田諒太選手が戦う男は紛れもない闘神だ。彼らの戦いを心に焼き付けたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?