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話題作三者三様レビュー『スウィング・キッズ』3日目

どうもこんにちは。映画チア部の井上です。

4/11(土)から京都シネマで上映が始まっている『スウィング・キッズ』三者三様レビューも今日で3日目、最終回をむかえます。

もういいよ、お腹いっぱいだよと思われる方もいるかもしれませんが、もうしばらくお付き合いくださいませ。

警告!

わたしはこの映画をなんの情報も持たずに見に行ったのでちょっと後悔しました。

映画の冒頭3分ほどで当時の詳しい状況下などを説明してくれるのですが、その怒涛のスピードについていけませんでした。ポップコーン持って口開けてたら話が進んでいて、気づいたら主人公が颯爽と登場している、そんな状態……(笑)

映画を見続ける上で特別困ることはないけれど、もっとしっかり内容を把握できてたら、登場人物たちの葛藤や喜びにより近づけたのかもしれない。何より不完全燃焼が悔しい!

これから映画を見る人にこんな思いをして欲しくないので、映画を見ておく前に知っておきたかったポイントを2つまとめておきます。

①朝鮮戦争と、登場人物達の状況

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この映画の舞台は、朝鮮戦争時代の巨済捕虜収容所です。いや、まず巨済捕虜収容所って何?がわたしの疑問でした。

朝鮮戦争は、社会主義側のソ連と資本主義の米国の冷戦下で起こった代理戦争。当時の朝鮮半島では北緯38度線、朝鮮民主主義人民共和国(現在の北朝鮮)vs大韓民国(現在の韓国)で1948年から長い戦争をしていました(現在も終戦はしていないそう)。巨済捕虜収容所とは、韓国側が北朝鮮側の戦意のない兵士を殺しはせず、保護しておく場所でした。

主人公のギスは、北側(朝鮮民主主義人民共和国)の兵士。彼の兄や、先に捕虜として収容所にいる古い友人たちもみんな北側の兵士。社会主義国思想の彼らにとって、敵国であるアメリカ人と仲良くなること、アメリカ文化(野球やダンス)にふれることは、敵側の思想に染まることとしてタブーとされています。

彼にダンスを教えることとなるジャクソンはアメリカ人。巨済捕虜収容所には、敵国であるギスたち捕虜の面倒みるという仕事のもと訪れています。

一緒に練習することとなるパンネは、捕虜とまではならないものの、巨済捕虜収容所があった、巨済島で暮らす一般女性です。

この他避難途中に迷子になり偶然収容所に行き着くこととなったビョンサム、中共軍捕虜のシャオパンなど様々な背景を持った人が登場します。

これだけ立場がちぐはぐな人が揃えば、それぞれに違うしがらみがまとわりつくのは当たり前。

彼らは夢や希望がありながら、家族や恋人といった、守るべきものを抱えて生きているのです。

②思ったほど暗くはない

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いや切ない物語だとは思っていますが。前評判を聞いた時、実はヘビーなお話だよという声が多かったので、そんなギャップが…!とワクワクしましたが、しっかり明るくユーモアたっぷりの映画でした。少し拍子抜けしたぐらいです。逆に、戦争映画はちょっと…と少し敬遠している人にこそおすすめしたい。

展開フルスピード、エピソード盛り沢山、登場人物もわんさか出てくるので慣れるのに多少時間はかかりますが、タップダンスのリズムや思わずノリたくなる音楽の素晴らしさが充分に楽しませてくれます。

わたしはこの映画を一人で見たんですが、こんなに楽しい映画なら、誰かとこの爆発しそうな感情を共有しながら見たかったなと感じました。

ひとりの観客として

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わたしがこの映画を見ていていちばんの印象に残ったのは、主人公ギスが、夜、兄と2人でふざけあうシーンです。自分の本当の気持ちを押し殺しながらも兄のことを大切に思うギスの健気な姿には、なんとも言えない気持ちになります。

常に周りを思いやっている彼も、タップダンスのときだけは思いきり自己表現できる。彼らがタップダンスを踊ることは、中指立てながら、ファッキン・イデオロギー!と叫ぶことと同じ。命をかけなければ自己表現ができなかった時代。人々。国。そして文化……

この映画を製作したカン・ヒョンチョル監督は、「戦争の時代にダンスで幸せをつかもうとした人たちの物語だ。いつでも嬉しい気持ちで思い出して見られる映画になってほしい」とコメントしています。

わたしはダンスを踊れません。だからこそ彼らのステージを最高だよと叫べるひとりでありたい、彼らが見える場所で、いつまでも拍手を送り続けられるようなひとりの観客でありたいと思っています。

(井上)

参考

http://klockworx-asia.com/swingkids/#smooth-scroll-top

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