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話題作三者三様レビュー『スウィング・キッズ』2日目 絶対には必要ないものが人類には絶対に必要だ

こんにちは、チア部のみずしまと申します。

昨日から京都シネマで上映が始まっております『スウィング・キッズ』の三者三様レビュー2日目です。

あらすじなどは昨日藤原さんが書いてくれたので割愛!印象的なところを中心に感傷的につらつらレビューしていきたいと思います。

えげつないカタルシスとユーモアとアツさにあたまがおかしくなる

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この作品の鑑賞後の気持ちをひと言で言い表すならほんとにこれです。
信じられないくらいおもしろくて信じられないくらい凄惨。
きっついんだけど上質なくるしみとダンスのアツさにうちのめされて放心したい、という方はぜひご鑑賞いただきたい……。

この映画は戦争映画であり、タップダンスの映画です。100%のなかで何%ずつというわけではなく、100%戦争映画であり100%タップダンスの映画であるかんじです。そして重なった部分から生まれた愛とファッキン・イデオロギーに圧倒される映画です。

1951年、捕虜収容所で結成された、国籍も身分も異なる寄せ集めのタップダンスチーム。最もくるしい時代に最も不釣り合いな人たちが出会い、言葉も通じない中“ダンス”というひとつのキーワードを通して必死にしあわせを掴むため踊る物語。

あらすじを書いてしまいました。でもあらすじだけじゃ何にも伝わらない、すべてあらすじを知っていたとしても映画を鑑賞しないと体験し得ない、余りある魅力と表現とメッセージがこの映画にはあります。

技巧を凝らした最高の自然が生むユーモアと絶望

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彼らが最後まで言葉が完璧に通じ合うことはありません。それゆえに観客にはお互いなにを伝えたいと思っているのか分かるけれど本人たちは分かっていない、というたまらなく切ないシーンが結構あります。でもタップを踏むと分かり合っちゃうんです。アツい、アツいね……。

でもわたしは最後まで言葉が通じ合うことがない、というのはとても現実的で、且つ誠意ある表現だなと感じました。でもそれを含めてよりよく料理するのだから、監督、ほんとうにすごい……。
誠意のある表現の積み重ねが技巧を凝らした最高の自然、になっていて、鑑賞者はたまらなくなってしまいます。

これらの感動は、作る側が観る側のことを信じてくれている作品だからこそ、出来たことであると思います。カン・ヒョンチョル監督、ほんとうに、ありがとうございます……。

合言葉はファッキン・イデオロギー

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「資本主義、共産主義、それを知らなければ、殺し合いもなかったのに。クソ、イデオロギー」
ジャクソンとの何気ない雑談の中、ヤン・パンネが空を見上げながら言い放ちます。作中でいちばん印象的だった言葉です。
そして彼女はタップシューズを高く掲げ、
「これは魔法の靴。この靴を履けば、戦争も食べる心配も悲惨なことも全部消えるの」と叶わぬ夢を語ります。

当たり前のように存在して、わたしたちを分け隔てる“イデオロギー”。しかし、案外わたしたちにはそのイデオロギーを越えたいい意味でグレーな瞬間が日常的にあるのではないかと思います。

それはこの映画のなかの人々も同じです。複雑でグレーな瞬間がいくつかあります。

※以下多少ネタバレあり※

敵国のタップダンスに夢中なギス。やめとけよと思っている基本自国のイデオロギーに従う同じく捕虜の友人。しかし友人は家族を引き合いに出され情報を漏らします。ギスは友人を問いただしますが家族のことダンスのことを言われ黙ってしまいます。そんな中、過激になっていくイデオロギーの対立の中でギスがやっと与えられたタップシューズを燃やすことになります。しかし朝起きると寝床にタップシューズが!友人のやったことでした。ずっと神妙な顔になっちゃうくらい、グレーで複雑。
ダンスは所詮娯楽だと思っているけど、見るからに野球が好きなアメリカ軍の長官。長官はいつもひとりでミットをいじって壁打ちをしています。長官には捕虜のなかから連れてきた朝鮮兵の部下がいます。長官はなにを思ったか捕虜にクリスマスプレゼントとしてミットをプレゼントします。この行為自体もそうですが、複雑な顔で媚びを売ることも忘れて受け取ってしまう捕虜の心象も、すべてグレーです。
人類のこと信じていないとこんなシーン、書けないよ!ため息!

そして、このような現象はイデオロギーの大小はあれど、現代を生きるわたしたち、個人個人にも通じてきます。すぐに記号的に二項対立させてしまいがちな世の中ですが、解決って複雑でグレーなところに眠っていると思います。

複雑でグレーなところを進みながら共存していきたい。でも今はまだだから言うね、ファッキン・イデオロギー。

絶対には必要ないものが絶対に必要なの

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わたしは絶対には必要ないものが大好きです。それらにずっと生かされてきたし救われてきたし、たぶんこれからも一生そうなんだと思います。そうじゃないひとももちろんいるんだろうけど、わたしは、そう。だから絶対には必要ないものが絶対に必要なんです。
人間を人間たらしめてくれるのは、絶対には必要ないものばかりなんじゃないかと思っています。そう、信じているし信じつづけたいのにすぐ、弱気になってしまう。でもこの作品を観て、信じつづけてもいいんだなあって、信じつづけなきゃいけないなって思いました。
主人公のロ・ギスがブロードウェイの舞台でタップダンスを踏む未来が、ほんとうの意味で当たり前になるように、生きていきたい。
絶対には必要ないものが、人類には絶対に必要だということを、心の底から信じつづけるための勇気をもらえました。こんな時期だからこそ、そう強く強く感じています。

みんな、絶対、信じつづけようね。

おわりに

フライヤーがとってもかわいくて惹かれたのがこの映画との出会い。(今あらためて見るとレトロでアメリカンな筆致のイラストに涙が滲んでしまう……)気にはなっていたけど絶対に観るぞとは思っていなかった中、藤原さんの「ジョジョ・ラビット」すきなひとはすきそう、という助言で観に行くことを決めました。
そして観てみたら現時点で今年度1番かもしれないってくらいうちのめされてしまいました。絶対には必要ないものによって、人生が豊かになった瞬間です。

(みずしま)

参考:『スウィング・キッズ』パンフレット

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