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『MY LIFE IN THE BUSH OF GHOSTS』宮崎大祐監督インタビュー【後編】

前編はこちら↑


後編では作品とコロナとの繋がりやこれからのミニシアターについてお聞きしました。ぜひ最後までご覧ください。

(聞き手:りょう)

チア部:前編『MY LIFE』では退廃した地球が舞台となっていて、コロナ禍を連想します。コロナ禍とこの作品はどのような繋がりがあるのでしょうか。

宮崎監督:この作品はコロナが一番ひどかった時期に撮影していて、コロナの間に僕が考えていたこと、この後世界はどうなっちゃうんだろうとか、そういうのがすごく反映されていると思います。現場も本番まではみんなマスクを付けていて、今でこそなんとなく分かってきたじゃないですか、こういう状況になるとかかりやすいとか。かなり近づいて正面から飛沫を食らわないとかからないとか。当時は分かっていなくて、なんでもかんでも気をつけていないといつかかるか分からない状況だったので、すごくストレスフルな撮影でした。その頃、僕は3本か4本映画を撮ったんですけど、他の撮影は全部現場でコロナにかかったのですが、この映画ではコロナにかかりませんでした。

チア部:何回ほどコロナにかかったのですか?

宮崎監督:コロナは確定してるだけでも5回はかかってます。全部撮影でですよ。狭い場所でみんな僕に方針を聞きに来るので飛沫の集中砲火ですよ。

コロナの一番ひどいときにこの作品を撮ったので、それもあって森とか広い廃墟みたいなところが登場します。

チア部:コロナという社会状況に影響されてこの作品ができたという部分もあるんですね。

宮崎監督:でも、マスクしてる人とか画には入れたくないですし、その辺の配慮が大変でした。あとはいつもコロナ衛生係をやらされるので、何人まで部屋に入っていいかとか、何分に一回は換気みたいなのをやっていて……やってるのに大体の現場で僕がかかったというひどい目にあっています。

チア部:私たち映画チア部はミニシアターを応援したい、若い人たちに映画館に来てもらいたいという思いで活動してるのですが、若い人たちに映画館に来てもらえるようにするにはどうしたら良いと思いますか?

宮崎監督:多分、おのずとそうなるような気はしています。この前AI関係の仕事をしてる友人と話していたんですけど、その人いわくアニメと実写映画、ドラマは数年以内にほぼ全部AIのものになるのではないかと。アニメは予算が10分の1とかで済むし、実写は10分の1どころではなく下がるので。一般の人が観るような、伏線があったり、没入感があるエンタメ映画はAI製になって主な上映先がスマホなどのデバイスになり劇場から離れるというふうに彼は言っていて。映画館はぐっと値上がりして揺れだったりすごい音、すごい画みたいな迫力を体感する遊園地型の消費に特化するんじゃないかと。映画館でしか体感できない高級な映画鑑賞と前述したようなどこでも観れてほぼ無料って感じのどちらかに映画鑑賞の形式はなるって彼は言っているんですね。

一方で、そこに行かないと絶対に観れないモナ・リザ的な作品は生き残るって彼は言ってたんですよ。モナ・リザを見にみんなわざわざパリのルーブル美術館まで行きますよね。ミニシアターっていわばモナ・リザ的な作品を観に行く場所じゃないですか。そこに行かないと観れない、配信でも観れないし、シネマコンプレックスでも観れない作品を観に行く場所なので。モナ・リザって言うには館数が多すぎる気もするんですけど、ミニシアターは。今回、我々がこの映画をシモキタK2だけでやった理由って、いつも普通のインディーズの配給って関東で何館、関西で何館という感じでやらせて頂いているんですけど、あえて今回は下北だけでやったんですよ。関東圏の人は観たければ下北まで来てくださいねという。そうしないと観れませんよ、配信もしませんよという、ともすると傲慢なやり方をして、それもそのモナ・リザ的な考え方に基づいてやりました。そうするとどうしても観たい人だけが本当に来るので、作品に関する何かしらの言葉が出るんですよね、つまんなくても面白くても。経験としては、その日しか来ないミュージシャンのライブに行ったみたいな。だからそういうモナ・リザ型で単価がもうちょっと上がった感じの鑑賞スタイルにアート映画は進み、大作は体感型かいつでもどこでも誰でも没入、伏線回収できるスタイルってわかれていくことが予想されるので、若い子たちで本当にそういうのが観たい子はそういうところにわざわざ出かけていくことに結局なると思います。モナ・リザ型を理解したインディーズアート映画制作者は安易な配信を止めるでしょうし、単価を上げつつコアなファンを少数精鋭で集めて上映するのではないでしょうか。

あと一つおもしろいのは今、名古屋の学校で映画制作を教えていて、120人ぐらいのクラスで君たちの中で映画監督になりたい人いる?って聞くと、40人くらいが手を挙げるんですよ。それが衝撃的で。なんでそんなに自信があるのというか、映画監督なんて今の方が十年前より更にやっていくのが難しいと思うんですけど。東京の学校でも同じ、やたらと監督志望が増えているということを聞きました。多分みんな小さな箱に分断されていて、なんでもスマホで済んじゃうような世界にいるけど、それでも映画はやはりグループワークだから、友達とかちょっとした小さいグループで創作したいみたいな。Youtuberのチームじゃないですけど、そういうイメージで小さいグループを求めている若い映画好きとか映像に興味がある子が増えているという話かもしれません。そういう子たちがいる限り、そしてその子たちをモナ・リザへと誘導できるんだったら、ここからミニシアターの逆襲が始まるんじゃないかなという気はしてますけどね。

ただ映画というジャンルがこの10年面白いのか、この20年面白いのかというと僕はひどいもんだと正直思っていて、僕の中では映画は2000年前後で終わっている印象がある。作品の質としてもこの20年ぐらいは世界的にすごい下がっちゃったと思っていて、すべて記号を操作するゲームに堕したというか。だからそういう世代がまた映画に対して面白い世界の見方を提供してくれるのを僕は老人ホームで待とうかなと思っています(笑)。

チア部:なぜ若者は小さいグループというのを求めるんでしょうか?

宮崎監督:さっき書いたように、YouTuberのグループを作るような感覚なのかな。あとは多分、映画の現場って悪い印象があるじゃないですか。デカいグループで陰湿なイジメがあって、セクハラされて、パワハラされて、コントロールが効かない暴力装置というか。実際にそうなんですよ映画って。そういう場所がいまだに多いことは認めます。そういう上の世代が作ったウザい場所は嫌だけど映画は作ってみたい、極力小さな規模でただ映画をやりたいっていうことなのかなって、それが可能な時代だし、賢明な判断だと思います。僕の推測ですけどね。

それってさっきの根っこの話とちょっと似ていて、大きい幹や枝に寄っていくというよりかは、枝分かれした根っこの端々にそれぞれがそれぞれの作り方を考えるみたいな。そういう時代なのかなという。一本の木でデカい、東宝の漫画原作の豪華キャストで弁当はコース料理になりますみたいなのではなくて、松屋で3度の飯にはなりますけど、本当に面白いと自分たちが思うことを信じて作って、それをモナ・リザ・スタイルでかけてくれる劇場さんにお願いして、どうでしょうかって言う世界なのかなという。

でも確かなのは今、インディーズ映画はめちゃくちゃ面白いですよ。超可能性があって、超面白い表現だと思います。こんなに映画が面白くて、可能性があった時代は無いと思いますね。なによりも誰もが持ってるスマホで劇場公開クオリティーの画が撮れて、編集も出来るし、映画制作は正直1人でもできちゃう時代になった。録音機材もめちゃくちゃクオリティ上がっていて、自分でできてしまうし……昔のラース・フォン・トリアーの商用映画のクオリティは720pとかですからね。庵野秀明の『ラブ&ポップ』だってそうですよ。それが今、どんな素人でも下手したら2160pで撮れちゃうというのは「なんで映画撮りまくらないの?みんな」って感じではあるんですけど。周りの面白い人撮ればそれで映画になるわけですからね。2000年頃にデジタルビデオ、miniDVが出たときもみんな映画撮れるよとか言われたんですよ。それでドグマとかの運動が出てきたんですけど、20年後の今はまさにそれと同じだと僕は思っていて。

チア部:近年閉館するミニシアターが増えている状況はあるけれど、誰でも映像が撮れる時代で、そこに観に行かないと観れないというモナ・リザ的価値が作品にあれば大丈夫ということですか?

宮崎監督:それと配給・宣伝システムの整理はちょっと必要かなと思ってて、今のミニシアターって一週間でもうすでに権威があるアート映画をダーッと流して終わりじゃないですか。流れ作業的に。そういうことじゃなくて、覚悟を決めて(長期間同じ作品を)やる劇場とか出てくると面白いと思うんですよ。「マジでこの作家は面白くて、うちの劇場が発見したので、とりあえず3週間しかやらないから、観に来てくれ。入ったらもっと延ばすし、もっとプッシュしていくから」みたいなやり方をやるところが出てくると面白いのかなと思います。宣伝も劇場ぐるみでガンガン考えて。経済的にそれがすごい難しいことは知っているんですが、ただ実験的であってもそういうところが出てくると、「あそこがこれだけ推している映画なんだから面白いんだろうな」ってリピーターのお客さんも出てくるじゃないですか。そういうことがでてくると良いのかなって。そういうモナ・リザ性を許容できるミニシアターと本当に面白いものを追求する若者たちが噛み合ったときにすごい面白いんじゃないかなと思いますね。

去年、オーストラリアに行ったんですけど、オーストラリアってデカい劇場はアニメか、車が超速いみたいな映画ばっかやってるんですよ。で、ミニシアターがほぼ無いんですよ。そうなると何やってるのかっていうと、大学生たちがみんな色んな場所借りて上映会やってるんですよ。自分たちで映画の買い付けやって、こんな面白いからみんな観に来てくれって大学のグループでみんなで集まって観て、一般にも公開して、劇場より先に権利とか買っちゃうんですよ、彼らが面白いと思った映画は。そういう動き、その身軽さはすごいなと思って、ミニシアターが無いけど俺たちは映画が大好きで、カンヌもサンダンスももうあきあきだと思ってるから、自分たちが本当に好きな映画を見つけて、配給するんだって言って彼らは活動していて、めちゃくちゃ面白いなと思って。毎回、彼らの上映会は満員で。彼らは移動しながら色んなところで上映してるんですが、2ヶ月に一回ぐらい劇場を借り切ってやるんですよ。「俺たちが選んだ映画です」ってイベント上映すると、普段上映会を観に来てる人たちはみんな来るので、お手製の映画祭みたいになるわけですよ。セールス・エージェントや配給会社次第ではなく、本当に面白い映画だけがかかる映画祭。そういう感じで、本当に面白い映画を追求してる人たちも世界にはいるんだって勉強になって。劇場って経営も運営もあるんで難しいところがある……だからこそ彼らは移動方式でやってるんだと思いますけど。そういう方向に舵を切る、特色が強いミニシアターがあってもいいのかなって。例えば京都にはインディーズアクションに特化した館があって、大阪にはインディーズコメディーしかやらない館があって、神戸にはインディーズスリラーしかやらないという館があったら、3つともハシゴしたいなって僕だったら思います。とにかく浅く広くはお金持ちがやることだと思うんですよね。だから深く狭く行くべきだと思う。

チア部:大阪だとやはり第七藝術劇場さんがそういう本当にインディーズの作品をかけてらっしゃるイメージがあります。

宮崎監督:そうですね。こんな偉そうなこと言ってますけど、私のはじめての長編映画も松村さん(元・第七藝術劇場支配人)がナナゲイで拾ってくださったわけなので。そういう松村さん的な人、僕みたいな変なものを拾いつつ、こうやって十何年間ずっとサポートしてくださってる方みたいな、良い大人が劇場の周りに増えるといいなと思います。

チア部:これで質問を終わらせて頂きます。ありがとうございました!


宮崎大祐監督

映画『MY LIFE IN THE BUSH OF GHOSTS』はシアターセブンにて6月15日(土)より公開で、公開初日には宮崎監督ほかキャストの方々の舞台挨拶が予定されています。ぜひご覧ください!

https://www.theater-seven.com/mv/mv_s0764.html


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