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作家という生き様

「帰らない日曜日」

青春の頃に出会った初恋の人と結ばれて、子どもに恵まれ、孫に恵まれ、家族に看取られて息を引き取る。そんなふうに誰もが生きられたなら、世の中に文学や映画や音楽はこれほどまで必要ないのかもしれません。

ストーリーの核となるのは、孤児院で育ち、高貴なニヴン家でメイドをしているジェーンと、シュリンガム家の跡取り息子であるポールの秘められた関係。ポールは親同士が親しい令嬢との結婚を目前に控えているので、ジェーンとポールはシュリンガム家の館で最後の逢瀬を過ごします。
本人の胸にだけうち秘めた遍歴を、のちに作家となったジェーンが回想していく構成で、回想するジェーンが年代違いで複数いて、どのシーンがどの時代か咀嚼するのに、ひきこもりで停滞がちな私の脳みそはフル回転でした。

とにかく、ジェーンという作家の生き様をありとあらゆる面から描き切っているのがすごいです。
まず、見ているほうがハラハラする、ジェーンのズ太い神経!
ポールが出ていった屋敷を全裸のまま歩きまわるわ、クローゼットや本棚を探るわ、煙草を吸うわ、パイを食べるわ。いつなんどき誰が帰ってくるかわからないのに。でも、このズ太さ、女一人、ペン一本で生き抜くには有効な武器。

そして、ジェーンの肝の座ったライフスタイル。
のちの恋人ドナルドが寝ていても、ベッドの中で煙草をくわえ、パジャマで執筆。なにか思いつくとネタ帳にメモして、執筆するのがかっこいい。
ドナルドもまた、ジェーンを執筆にかきたてる存在。作家にとって恋は宿命なのか。亡き瀬戸内寂聴先生が脳裏をよぎりました。

私と付き合う男は、私に書かせたくて、試練に与えるの?

こんなジェーンのセリフがあって、彼女の恋愛を物語っています。

さらには、ジェーンのファッションは赤と青。
メイド期の私服も、作家になってからのファッションも、常に赤と青。ジェーンという人物を表現する一つの要素になっていました。

原題は「Mothering Sunday」。母の日は、メイドが里帰りを許される休日なのだそう。
身寄りのないジェーンの行き先は、実家ではなく。

ジェーンとポールの秘められたる関係は、誰にも知られてなかったのでしょうか。おそらく、ジェーンの仕えるニヴン家のご主人やポールの婚約者エマなど、幾人かは薄々気づいていて、知らぬふりをしていたのではないでしょうか。薄暗くシリアスな空気の中で、ジェーンの同僚であるコックのミリーだけが明るくコミカルで、陽気をもたらしてくれました。(日本の俳優が演じるなら、市川実和子ちゃんあたりかな?)

わたしは新宿ピカデリーで見ましたが、エレベーターの内扉が、辛酸なめ子さんのイラスト付きレビューになっていて、ジェーンのようにお金持ちのヴァイブスを吸い取る人は「金運の持ち主」といったことが書かれていました。もしこれから新宿ピカデリーに行かれる方は、こちらもぜひ。