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とにかく、いちころ

映画「それでも私は生きていく」

レア・セドゥ。
「アデル ブルーは熱い色」の、思春期にこんなひとに出会ったら、そりゃあ誰だっていちころになるよと思わせる青い髪のアーティスト役を観て以来、新作があると、とにかく観に行ってしまう、とびきりの女優さんです。
今回の役どころは5年前に夫を亡くし、シングルマザーとして娘を育てるサンドラ。
彼女の日常に、いろんな問題がふりかかるのが、この作品のドラマ軸となっています。
そのひとつが老後の親の介護問題。
お父さんはアパートメントに一人暮らしで、恋人はいるものの持病があるので介護はできず、高齢者施設に入ることになります。
フランスの高齢者施設も、年金額によって入居の可否が決まったり、いい施設は空きがなくて待機になったりするみたいでした。しかたなく見学にいった郊外の施設は、誰が見たって「ステキ、ここに入りたい、ここで死にたい」とは到底思えないところ。お父さんは、いい施設に空きがでるまで、そこで暮らさざるを得ません。
もうひとつは、妻のいる男との恋です。夫が死んでから「娘の母親」として生きてきたサンドラでしたが、夫の友だちだった旧知の男と再会して、関係を持つように。最初のうちは「セックスなんてどうするのか忘れてしまった」と恥じらっていたけれど、深みにはまるうちに、閉ざされていた彼女の魅力が開かれていきます。でも男は既婚者なので、家に帰ってしまう。
さらには、小学生の娘は突如、体が痛いと訴え、学校に呼び出される。
「それでも、生きていくわ」と、ごたいそうなセリフではなく、サンドラの日常を描くことで伝えています。

フランスの恋愛はとにかくオープンです。
サンドラの娘は小学生ですが、母親の隣に男が寝ていても、くすくす笑って、「恋人ができたのね?」「恋人なんでしょ?」と好奇心いっぱい。
お父さんには恋人がいて、高齢者施設に入っても娘よりも恋人のことばかり気にします。
お母さんも離婚後、別の男と暮らしています。
サンドラの恋人も早々とサンドラとの不倫を妻に打ち明けたみたいだし、隠しておかないのか……?
昔見た「小さな哲学者たち」というドキュメンタリー映画で、失恋した女の子に教師が「たとえ〇〇はあなたを嫌いとしても、あなたには〇〇を好きでいる権利がある」と言っていたのを思い出しました。日本ではそういう権利は学校で教わりませんよね。「人に迷惑をかけちゃいけません」の真逆の思考と思います。

この作品で、レアはベリーショートのヘアスタイル。衣装はノンブランドのスウェットやジャケット(デートのときはワンピースだったりする)。住まいは慎ましいサイズ感のアパートメント。それでも、とにかくみとれてしまうオーラをレア様は常に醸しているのでした。これからの出演作も楽しみです。

とにかくといえば、とにかく明るい安村さんが、Tonikakuという芸名、愛称トニーと親しまれ、イギリスでブレイク中とか。もしかして、フランスでも人気が出たら、レア様も爆笑するのかな??

Un beau matin
2022年製作/112分/フランス・イギリス・ドイツ合作
ミア・ハンセン=ラブ監督・脚本

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