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混沌とした世界で生きること…。

【The Father👨‍👧】

~20年公開~
ヒューマンドラマ
監督:フローリアン・ゼレール

81歳のアンソニーはロンドンで一人暮らしを送っていたが、
次第に記憶が曖昧になる父…。
娘のアンが介護人を手配するも、
拒否していた。
そんな中、アンから新しい恋人とパリで暮らすと告げられショックを受ける。
そして、男がアンソニーの自宅に突然現れ、
アンと結婚して10年以上になるとも語る…。
一方アンソニーのもう一人の娘、
最愛のルーシーは姿を見せない…。

現実と幻想の境界があやふやになっていく中、
最後にアンソニーがたどり着いた「真実」とは…?

第93回アカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネート。
主演男優賞と脚色賞を受賞🏅



【感想】


『混沌』『絶対的』

この二つの言葉が出てくる作品でした。
自分の視点と父親を見る娘の視点…。

“認知症を体感”する様な作品だった。




〈受け入れきれない事実〉

老いとともに訪れる症状の一部…。
「自分は大丈夫」だと思っていたからこそ、
プライド故の、固執や、苛立ち……。

認知症を体感できないにから、
理解に苦しむけど、今作品を観ることで、
「理解が深まる」勉強にもなった。

私にも90の祖母がいて、似たような症状を見てきたから、側から観ると酷いように見えるが、アンの夫の気持ちも分かる…。


〈父という存在〉

アンから見て、『父親』という
「絶対的強さ」=「安心」の“象徴”が崩れていく様を見る事の辛さ。
同時に、どこかで“ケジメ”を付けなければいけないという…。
どこの家庭でも起こり得るリアルな社会が描かれていた。

同時に、最初は認知症の家族を持つ家庭を第三者という立ち位置で見ていたのが、いつの間にか、
認知症を患っているアンソニーの立ち位置だと気づいた時には、
その場にいる様な感覚に陥り、麻痺した感覚だった。
自分は今どこで、どの時間に生きているのか…?
何処からが“幻想”“現実”なのかとか。。。


アカデミー賞発表時は、まだ公開されておらず、「アンソニー・ホプキンス史上最高!」とのコメントは観ていただけに、
(何様のつもりという言葉はごもっとも。)
どこか斜に構えて観ていたが、
「その通り」でした…。

コロコロ変わる症状…。
怒ったり、機嫌よくなったり、子供ぽくなったり……。
とてもじゃないけど、認知症なんじゃないかと思える程リアルでした。




⚠️ネタバレ注意〉

個人的に印象的だったのが、アンソニーが窓から覗いた時に見える少年の姿…。

少年が、ビニール袋をサッカーの様に蹴るも、風で上手く“コントロール”できない。
あれは、自分の事なのに、うまく頭を動かせないアンソニーの心情。

そして、手の届く範囲なのに手に負えない、
変わっていく父の姿に“翻弄される”娘アンの心情。

両方を映し出しているかの様だった…。


また、ラストの泣きじゃくりながら、
「葉っぱが風や雷雨で飛んでいってしまうんだ。」とヘルパーに“ぶつぶつ”呟くシーンは、
若かりし頃は、
知的で何事も自分で“こなしてこれた”のに、
歳を追うごとに、
葉が散るように最も簡単に
「記憶が失われ」
「家族も居なくなり」=『無力な自分』


を意味していく過程を話しているようで、
なんともいえない気持ちで涙止まりませんでした…。

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