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「漁港の肉子ちゃん」鑑賞記録

昨日、映画館に行った。その目的はるろ剣である。アクションと言えば洋画っしょと思っていた自分が「邦画すごい!」と初めて思えたのがるろうに剣心だった。そのシリーズとあらば劇場で観なければ!と勇んで劇場へ出かけた。しかし劇場へ到着するや否や勇み足であったと判明する。

るろ剣は現在the finalとthe beginningの二部作が公開中で、the beginningが公開されたことにより、the finalの上映回数が激減している。そのため、観客がひとつの上映回に集中する現象が起きている。また土日であったことと、the beginningが公開してすぐの土日であるため前作と続けて鑑賞しようという目的の観客もいたのだろう、チケットは完売。ネットで買っておくべきだった…と嘆いてももう遅い。学生時代のノリで映画館を訪れていた私は土日の劇場の込み具合について全くのド素人であり、まあ直前にひょいと行けば買えるっしょと舐めていた。土日の劇場は家族連れ、カップルが多く、戦場である。平日の午前や夜遅くにひっそりと訪れていた頃からは想像もつかないような混雑であった。コロナ禍でなければもっと多くの人でにぎわっていた可能性まである。とにかく、無念であった。

しかしわざわざ訪れた映画館、何も観ずに帰るなど交通費をドブに捨てるようなものである。何か観て帰るぞ、と目を光らせて劇場に設置されたパネルをねめつける。あるわあるわ、意外と観たいの多いな、と思いながらふと「漁港の肉子ちゃん」の文字が目に入る。たしかさんまさんのやつだ、これも何かの縁だと思い切ってチケット購入。

滂沱の涙にマスクもぐっしょり。ここまで泣けるとは想定外であった。ユーモアに満ちた作品だが、扱っているテーマはなかなか重たい。実写映画であれば重たくなりすぎるかもしれないが、アニメならではの軽さがあり、大人も子どもも楽しめそうな作品になっていた。

主人公は肉子ちゃんの娘キクコ。肉子ちゃんは明るくてあっけらかんとしていて、とてつもないお人よし。だから何度も男に騙されてきた。そして騙されたことに気付くと逃げるようにその土地を離れる。この作品の中で舞台となるのは漁港のある小さな田舎まち。小さなまちだから噂話なんかもすぐに広まる。このまちで2人はちょっとした有名人だ。

生きてるだけで、色んなことがあるものだ。キクコは小学生なのだが、小学生で既に人間関係のややこしさに直面している。女子という生き物は分からない。女である自分が言うのもなんだが。昔から、一緒にトイレに行ったり、教室移動の時に待合せたり、そういうのがわずらわしかった自分からすると、やっぱり不可解だ。トイレに行くタイミングが重なるなら一緒に行けばいい、都合がいいなら一緒に教室移動すればいい、一緒に遊びたければ一緒に遊べばいい。

以降は少しネタバレになるかもしれないのでここで警告を挟んでおく。



キクコがクラスの女子の2大派閥のうち、一方から放課後一緒に遊ぼうと誘われるシーンがある。キクコは何となく、そこで何が行われるのか察していて、行きたくないけど誘われた時に断り切れなかった。自分の家に帰ってからも行きたくないなと悩んでいて、肉子ちゃんに相談することに。すると肉子ちゃんは堂々と「行かんでもええやん」と言い放つ。行きたくないんやったら電話で風邪になったとか言って休んだらええやんって。その一言を聞いたキクコの目が印象的で、スッと色んなモヤモヤが消えていく感覚をキクコと一緒に味わっていた。そうか、そうなのか。こういう時って逃げ出してもいいんだ。友達は大切にしないといけないよ、とかそういうことを言うんじゃなくて、嫌だったら嫌でいいんだよって。責めたりせずに、ただそう言い放って、もし無理なら代わりに電話してあげようかって、そう言い出す肉子ちゃん。優柔不断で結論を出せない卑怯な自分に嫌気がさしていたキクコが救われるような気持がしたのはたしかだと思う。そもそもどっちかを選ぶなんておかしいもんな。どっちもキクコにとっては大事な友達だ。

不思議だな。時々いるんだよな、こういう人。なんの根拠がなくっても、この人が「大丈夫」って言えば「大丈夫」な気がする、というような人。肉子ちゃんはそういう人だ。肉子ちゃんが発する言葉は不思議な力を持っている。

言葉に力を持った人はこの映画にもう一人登場する。肉子ちゃんがアルバイトしている焼肉屋うをがしのサッサンだ。乗っているバイクのナンバーが「4969」なのはユーモアなのかな(笑)四苦八苦よりは2つ少ない。サッサンが腹痛を隠して倒れたキクコに病室で諭すシーン、あれはすごい。ぐぐっ、ぐぐっと沈み込むような言葉たちだった。サッサンのような大人がそばにいてくれる人生でありたかったな。

あと印象的だった登場人物がもう一人。二宮だ。キクコが気になってる男の子。二人の甘酸っぱい恋がこれまたいいアクセントだ。いわゆる胸キュンとでも言えばいいのか、誰にも教えたことのない秘密の場所へキクコを連れて行ったり、キクコにだけ変な顔をして見せたり、二人だけの色んな秘密が生まれていく。青春だ!二宮がクラスの女の子を可愛いと言った時にはキクコは猛烈な勢いでその女の子の株を下げにかかる。こんなキクコも可愛いなって思えるぐらいには自分は大人になったらしい。もしかしたら青春映画に出てくるような、ヒロインにいじわるして仲をさこうとする女の子とか、肩持ってしまうのかな…まあとにかく、二宮とキクコのシーンはいくらあっても飽き足らないほど甘酸っぱかった。

あとは、アニメーションそのものの良さについて。アニメって本当に自由自在で羨ましい。漁港やうをがし、森や神社、町中のスーパーとか、本当に何気ないものの描写がぐっときたのはこのアニメーションの作り手の愛が溢れているからだろうなと思った。田舎の美しい風景に愛を感じた。愛おしい、という言葉がしっくりくる。

さんまさんプロデュースということで、かなりチョイ役で吉本の芸人さんが出ていたり、コメディ満載でこれまた好きポイントが高い。ゆりやんとかYes!アキトが出ていて、エンドロールの答え合わせが楽しみだった。あと大竹しのぶさんとさんまさんの夫婦漫才のようなものが実現されているのも見どころかな。

今の劇場は延期されてきた映画がバンバン公開されていて、映画戦国時代の様相を呈しているが、「漁港の肉子ちゃん」という選択肢もありではなかろうか。

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