IT is my friend・・・? 13
13、会社訪問
「課長、ちょっと社会見学させてやりたいんですけどいいですか?」
「いいよ。おまえ、さすがにかわいい子連れてんな」
「よろしくお願いします」
「はい、どうぞ。しっかり見ていってね」
「はい、ありがとうございます」
「ねえ、クロード。あれなに?」
「あれは広告だよ」
「それは知ってるけどさ、内容」
「世界法が施行されたんだよ。その告知」
「ホントなの?」
「そうだよ。それで我が社は解散なんだ」
「そりゃコンピュタがなかったら何もできないのは認めるよ。でも全部任せちゃって大丈夫なの?」
「だよな。エネルギーの効率化のための世界の要請なんだってよ」
「うちって野菜工場なのよ。水と電力が自由に使えなくなったら死活問題よ」
「それは大丈夫さ。食料は最優先だから、その前に会社のエレベータが止まる。おれには死活問題だ」
「そうね。ここまで上がって来いって言われたら・・・」
由莉奈が胸を震わせて笑った。
「由莉奈の笑顔ってステキだな」
「そう?ありがとう。クロード」
「ここがおれのコクーン」
「凄いね。外からは見えなかったけど、中からは外がよく見えるんだ」
「このランダムな模様が重要なんだそうだ」
「こんなに広いのにキーボードしかないのね」
「そうでもないよ。いろいろ隠れてるんだ。この正面の壁がモニターでカメラがこれ。そうだよな、モニターには必ずカメラが付いてる」
「え?なんのこと?」
「あ、ちょっと思いついたことがあって」
先ほどの写真を取り出してスキャンにかけた。膨大なデータの中から人物と背景を特定する作業だ。時間がかかる。
「由莉奈、このオフィスの中で何か気になるものある?」
「灯りがついてるのと消えてるのがあるのはどうして?」
「ライトが点いてるのは中に人がいるってことだ。リングに反応して点灯する」
「でしょ。さっきあのコクーンから人が出てきたけどずっと消えたままだったけど」
「どこ?連れて行って」
セグウェイでそこのブースに行った。中には誰もいない。中に入るとライトが点いた。
「どんな人だった?」
「ブロンドのショートヘアの女性、背は160くらいかな。やけてるのかヒスパニック系」
「そうか、ここは男のはずだ。誰かがリングを持たずに入った。目的は?」
「なんだろう。何かを借りに来たのか、盗みかって思うけど、そんなものないよね。正解は?」
「おれにもわからない。はは」
「なーんだ。正解があるのかと思った。わけのわからないことが多いんだ。そろそろ検索が終ったころだ」
コクーンに戻って結果を見た。ヒットなし。
「そうか、君にもわからないか。じゃ仕方ない。宗治さんに訊くしかないな」
「ちょっとIT管理室に行ってみようか」
「うん。どんなとこ?」
「この国のインフラを制御してるコンピュータがあるところ」
「行ってみたい」
エレベータに乗り「B3」。B3で降りてエレベータを乗り換え「3」。
「ここ何階だと思う?」
「1階かなぁ」
「地下7階だよ」
「そうなんだ。さすがにセキュリティ厳しそう」
「2つ目のエレベータは後から付け足したってだけなんだ。でも計算合わないよね。そこが不思議なとこだ」
「そうね。2つ目エレベータの3階ってことはさらに下に2階あって、二つのエレベータの階数の数え方に相関関係がないってことね」
「由莉奈ってあったまいいんだな」
「その通りだよ。下の2階分は全部コンピュータのリビングなんだ」
「やった!こういう謎解き好きなんだ」
管理室に着いた。
「こんちは。山田さん、ちょっとお邪魔します。お客さん付きですよ」
「ああ、いらっしゃい。ややや、女の子じゃん。それもフリーメイソンヒエラルキーの目の部分に位置してる」
「そんな、ありがとうございます」
「今のわかったの?」
「わかりました。フリーメイソンのピラミッドの目はトップですよね。ヒエラルキー、つまり階層の頂点」
「おい、あんたどこからこんな才女連れて来たんだよ」
「そういや、さっきエレベータの謎、即座に解きましたよ」
「ああ、惚れちまった」
「ダメっすよ。まだ学生なんだ」
「どうして、学生に恋しちゃマズいんだ?」
「そりゃいいですけど、彼女の意向か一番大事でしょ」
2人とも由莉奈に注目したが、当の本人はモニターに出てくる何かに夢中だ。
「山田さん、ほっといたらストーカーになりそうだし・・・」
「そういやおまえ、さっき写真を検索にかけてたよな。結果を即座に改竄したやつがいる」
「え?ほんとですか?画像あります?」
「こいつだ。あいにく静止画しかないんだ。今、会社中が静止画なんだ。経費節減のため。そりゃおれは動画撮ろうと思えば撮れるんだけどな。だけど・・・」
「山田さん、わかりましたから見せてくださいよ」
そこに写っているのは正に由莉奈が目撃した女だった。
「そう。この人よ」
「陽動作戦に見事にやられたな。で、検索結果は分かるんですか?」
「こいつが元のデータも全部消しやがった。あっと言う間で対処できなかった」
「じゃビッグデータからはムリか。何か方法はないかな」
「山田さん、この写真なんですけど、そっち送ります」
山田さんのディスプレイに写真が大きく写し出された。
「この男、知り合いか?」
「いえ、知らない男です。由莉奈の叔父さんのアルバムに入ってたんですけど、叔父さんじゃない」
「名前、ゆりなってんだ」
「ヤバい!個人情報をストーカーに漏らしちまった」
「おいおい、クロード。そりゃないだろ。ゆりなちゃんが警戒するじゃねぇか」
「大丈夫ですよ。そんなこと思いませんから。山田さん、ステキな方だと思います」
「え?まさかそれ、脈ありって思っていいの?」
「うん、ええ、まぁ」
「山田さん、いくつでしたっけ?」
「28だけど」
「え?おれより若いんだ」
「クロードは31才だ」
「山田さんには個人情報も筒抜けなんだ。参ったな」
「なんなら年収も言おうか?かなりの高給だよな」
「山田さんも凄いんでしょ」
「おれたちはそうでもないよ。その分、シティの真ん中に近いとこに住まわせてもらってる」
「それはお金で買えないですからね」
「この写真から何かわかりますか?」
「画質はかなり粗いな。写真を写したんじゃないかと思う。それでもこれだけ写ってるんだから元の写真はかなり精細だったはずだ。それから、バックのヤンの店、これは手芸店だな」
「どうして?」
「ここに微かに羊が見える。羊がいるのは教会かラムを提供するレストランか手芸店か、ウールのブティック、画材屋か、まぁそんなとこだ」
「そんなとこですね」
「この店名、間口、店構えからすると手芸店が一番ぴったりくる」
「言われてみればそうですね。他に何かお店とかわからないですか?」
「隣はカフェかファストフード店だと思うんだけど、店名まではわからない。画質が悪いなぁ」
「ありがとうございます」
「ああ、あんたのためにやったんじゃねえぞ。由莉奈ちゃんの叔父さんだっていうからだ」
「はい。ありがとうございます。山田さん」
「いいよ。お易いご用です。いつでも言ってね」
「この違い。呆れるぜ」
「あんただってそうするだろ?」
「おれはそんなあからさまににはしないよ」
「おれだって普通はそうだ。でも由莉奈ちゃんは違う。この子は珠玉だよ」
「まぁそんなに持ち上げてもらっても何も差し上げるものがありません」
「それにな、クロード。あんたが連れてきた子だってのもあるんだ。あんたは女の子厳選するからな」
「え?そんなことないっすよ。モテないんっすから」
「厳選すっからモテないんだよ」
「そんなことしてないですって」
「おまえの今の彼女、どうなんだ?すげーかわいいけど」
「え?クロード、彼女いんの?」
「ああ、いるよ。いちおう」
「そうなんだ」
「え?付き合うつもりとかあった?」
「なんて鈍感なの?アピールしまくってたつもりだけど」
「ごめん。全然気づかなかった。彼女いるんだ」
「あんた、監視されてんぞ」
「え?ここは?」
「今、切ってある。もうすぐ回復するからな」
「どうして知ってるんっすか?」
「監視の軌跡を辿ったんだよ。あんたの家と彼女の家。ボックスの中。全部だ。おれもそのつもりで動いてる」
「どうしてなんすか?」
「ここに残るおれたちのこと知りたいんだろ。危害を加えるつもりはないらしい」
「じゃ、吉田さんも?」
「あの人は完璧にプロテクトしてるよ。どうでもいいとこだけ見せてる」
「おれたちが何でもない人間だってわかったら監視も解けるさ。でも気持ちいいもんじゃないからな」
「それよりも由莉奈ちゃんの叔父さんが心配だ。何かわからないけど・・・」
「そんなこと言って、ただ由莉奈と関わりたいだけなんでしょ」
「違うって。マジで言ってるんだ。消されるかもしれんぞ。それが由莉奈ちゃんに飛び火するのか心配なんだ」
「え?マジですか?あの写真で?」
「この写真のデータ消すのにこんな手の込んだことするのは余程のことだってことだよ。簡単なことじゃない。あ、マズい。カメラが復活する」
「じゃ逃げます。じゃまた」
「失礼します」
「由莉奈ちゃん、また来てね」
「はい、必ず」
地上に出て、叔父さんに連絡するが繋がらない。
「じゃ帰ろう」
ボックスに乗り込んで由莉奈の叔父さんの家に向かう。
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