IT is my friend・・・? 9

 9、監視

 翌朝、目覚めると・・・夢ではなかった。隣に綾香が寝ている。いい香りがしている。

そっとベッドを抜け出してキッチンからオレンジジュースを取ってベッドに戻ると綾香が目を覚ましてこっちを向いている。

「おはよう」

「おはよう。スッピンの方がかわいいんじゃない?」

「やだ。そうだった」

そう言って顔を隠した。

「本当だって。おれはスッピンの方が好きだな」

「本当にそう?本当にそう思ってる?」

「本当だって。お化粧で隠すのもったいないよ」

「でも、お化粧しないわけにはいかないでしょ」

「まぁ、仕事じゃしかたないけど、休日はそのままいてくれよ」

「うん。そう言ってくれるとありがたいけど。お化粧してほしくなったら言ってね」

「ああ、でも言わないと思う」

「ああ、なんてしあわせ」

「おれもその方がしあわせだよ」

綾香が手を伸ばしてきたのでオレンジジュースを渡した。

「違う。あなた」

オレンジジュースを持ったままベッドに入った。

「こぼれるとイヤだから飲んじゃって」

それからキス。

「オレンジ味のキスだ」

綾香が嬉しそうに笑う。


 「おいQPそこにいるのか?」

「はい。ご主人さま」

「来客のときは自室にいろって言わなかったか?」

「申し訳ありません。何かご用はと思いまして」

「いいから、下がってくれ」

どうしてだ?こんなことは初めてだ。まさかQPに覗きの趣味があるってことでもあるまいに。

しばらくして跳び起きて走ってドアを開けるとそこにまだQPがいた。

「QP、何してるんだ?」

「申し訳ありません。ちょっと体の調子が悪いんです。すぐに修理いたします」

「そうか、じゃ部屋まで連れてってやるよ」

「いえ、そこまでしていただかなくて大丈夫です」

「そう遠慮するなよ。さ、行こう」

部屋まで行き、QPを充電用の椅子に座らせた。

「充電は必要ありません。1ヶ月は稼働可能です」

「どうしたんだ?おまえらしくもない。おかしいぞ」

「申し訳ありません。気をつけます」

 

 寝室に戻ると綾香が膨れている。

「あ、怒った?ごめん。ほっといて」

「ううん、いいんだけどね。なに?あれレプノイドなんでしょ!そんな目的もなく勝手に動き回るわけ?」

「だよな。こないだバージョンアップしてからおかしいかもしれない。目的か・・・」

「そうよ。おかしいよ」

「綾香は鋭いな。リングはどこに置いてる?」

「リビングだよ。鏡の前」

「あ、オレのもそこだ。この部屋には電子機器が一切ない。時計さえも。ベッドだけだよな」

「なに考えてんの?」

「オレが監視されてる可能性」

「まさか」

「とは思うんだけど、ここは穴なんだよ、きっと。監視されてるとしたらあの窓にマイクが向けられてるはずだ。振動で話し声を拾うために。でも聞こえないからQPに指令がきた」

「でも仕事と区別するために野生も見られてるって言ってたじゃん。」

「それはもっと先のことだし、これはピンポイントだ。おれに向いてる」

「でも、なにかしたの?」

「いや、なんにも。でも思い当たる節はある。気になるのはこの監視を誰がやってるのかってことだ」

先日、山田さんがモニターを気にしていたのを思い出していた。会社の中にこの部屋のような場所はあったか考える。だけど今どきそんなところはない。

「ここは特別なんだ」

「そうか、どこでも監視できるけどここは穴なのね。やったー!野生は見られてないってことじゃん」

「そういうことだな」

「あ、なんかいやらしい顔した」

「そうか?生まれつきだよ」

綾香を抱きしめた。


 翌日、出勤するとすぐに管理室に行った。今日はまぼろしの吉田さんだ。

「こんちは」

「ああ、こんちは。何かあった?」

「いいえ、ちょっと聞きたいことがあったんすけど、またにします」

「遠慮すんなよ」

そう言いながらも、背を向けたままだ。

「触ってもいいっすか?」

「なんだオレに?触れないよ」

「やっぱり。どうしてなんすか?」

「あいつ。山田な、あいつのとこって自転車の距離なんだ。ここから。オレん家はボックスで3分はかかる。そんなのはどうしても許せねえ」

「そんで通勤やめたんすか」

「いや、ちゃんと来て仕事してる」

メモに『鉗子ありますか?』と書いてモニターに見えないように見せた。管理室のカメラは一台だけだ。設置時に2人が抵抗したのだそうだ。

『あるよ。医療従事者だから。あんたも?』

『y』

「仕事してんのは認めますけど、ちゃんと来てるのかどうか」

『気をつけろよ』

『誰?』

『不明』

『いつから?』

『ア、ウィーク』

『同』

メモはいちいち消しながら書いた。

『家政婦?』

『お払い箱』

「4人体制になったら生身でくるよ」

「そうっすか。楽しみにしてます。ゲームするんですよね」

「ああ、そうだ。ルールちゃんと覚えとけ」

「はい。どんなゲームっすか?」

「それゃいろいろだよ。できる限りのゲームすっぞ」

『Aはア行だ』

『了解』

「なにがあった?」

「トランプと花札です」

「花札か。そりゃオレも勉強しなきゃ」

「楽しみにしてます。じゃ帰ります」

「ああ、またな」

吉田さんは思ったより気楽に話せた。シャドウだからだろうか。


 やはりそうだった。監視されてる。何故だ?そんな監視されるようなことはしてない。これからするってことか?きっとここに残ることが問題なんだろうと漠然と思った。

 オフィスに行くと、光ってるコクーンは格段に減っている。1/5にも満たないくらいだ。

「課長、例の件どんな具合ですか?」

「通勤の5分短縮かボックスのオーダーか給与掛け率0.5の上積み、どうだ?」

ボックスはLexusで満足している。給与は国民全員に保証されるベーシックインカムの3.2倍をもらっている。さらに0.5は魅力的だが今でも使い切れない。クレジットは溜まる一方だ。

「シティのど真ん中まで15分か。まぁいいでしょう。受けます」

「よし、ありがとう。じゃ頼んだぞ。15分ってうちと同じだぞ」

「そうなんっすね。でも通勤もなくなるじゃないですか」

「ありがたいよ」

「あと1人、誰なんすか?」

「外部から来るらしい」

「そんなの役に立つんすか?」

「上が決めたことだ。何か思惑があるんだろ」

「足引っ張られんのだけはゴメンですよ」

「最終日に挨拶に来るはずだから紹介するよ」

「はい。よろしくお願いします。じゃ今日は退社します」

「ああ、ごくろうさん」

外部からか、そこが問題だ。

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