IT is my friend・・・? 29

 29、対決

ゆっくり引き返す。この辺に通路があったはず・・・と指の感触が変わった。

「ここだ。照らしてくれ」

慎重に壁を調べる。

「ここにドアがある」

取っ掛かりを探すが何も見当たらない。押してみる。スッと壁が後退した。

「あ、回転ドアだ」

90度向こう側に押した。

「誰かここに2人いてくれ。行くぞ」

慎重に進んでいく。ここは敵のフィールドだ。

「待て。この辺だ」

押してみるが回転ドアではないらしい。壁に凹みがある。それを思い切り横に引っ張ると壁がスライドして通路が現れた。

「ここにも2人。誰か来たらレプノイドだからな」

8人になった。さらに進む。しかし景色は全く変わらない。暗闇の中を堂々巡りしているんじゃないかという錯覚に陥る。

「たぶんここだ。この辺だ」

照らしてくれ。明らかに壁が新しい。叩いてみる。向こうは空洞だ。しかし取っ手はない。おかしい。

「これ、木の張りぼてじゃないですか?」

体重をかけて蹴った。バリバリと音を立てて壁が崩れた。ライトの灯りの中は埃だけになった。暗闇の中で乏しい視界がさらに奪われる。レプノイドがうごめいている気配がする。錯覚なのか。

「全部取り払ってくれ。ここにも2人」

そろそろだ。ゆっくり進む。ライトの向こうに人影が横切った。

「いいか、相手はレプノイドだ。見えたら撃ってくれ」

轟音と共にライトの向こうの人影に向かって光が走る。レーザーが当たるとレプノイドは赤く光って倒れた。レーザー銃が有効なのか?ジリジリと前に進む。轟音とレーザーの光が乱れ飛ぶ。

「みなケガはないか?」

「おっす」

「よし、ここだ。今度は何だ?」

壁を照らすと取っ手がある。それを引いてみるがビクともしない。スライドさせてもダメだ。

「ダメだ。動かない。鍵がかかっているのかもしれない」

隅々まで見ても仕掛けらしいものは見当たらない。ちょっと代わってみてくれ。一番ガタイのいい警官が取っ手を引くと少し動いた。

「このドアは重いんだ。この取っ手にベルトを掛けろ。3人で一斉に引く。後の3人は開いた隙間からレーザー銃をぶっ放せ。たぶんすぐ裏にいる」

みな恐怖と興奮で息が上がっている。

「いくぞ。1・2・3」

ドアが唸りを上げて開いていく。隙間に差し込まれた銃が火を噴く。

ドアが開いていく。

「レーザー銃だ。レーザーを使え」

レーザー銃でレプノイドは簡単に倒せる。

「誰か、レプノイドをここへ。重石にする」

動かなくなったレプノイドを置いてドアが閉じないようにした。

「ここには1人いてくれ」

目的の部屋はすぐそこだ。明かりが見えた。

部屋の前まで来た。前と同じように明かりが漏れている。果たして目指す相手は・・・

ドアノブに手をかけてゆっくり開いた。1人外にいるように指示を出し、入っていく。

アクリルのカーテン。その向こうにエアカーテン。


「おや、いましたね。逃げなかったのか?」

「逃げられるならとうに逃げてるさ。わかってるんだろ?わしはここでしか生きられない」

「ここに入るまで確率は五分五分だと思ってた。よっぽど重病なんだな」

「太陽の光で一瞬で大火傷だ。細菌にも感染しやすい。ここからは動けん」

「あんたを逮捕することになるが人権には配慮してもらってやる」

「ここから出たらわしは死ぬ」

「だからここを取調室と監獄にしてもらってやるよ」

「ああ、ありがとうと言うべきかな。だが、おまえの選択は間違ってる。いいか、よく考えろ。このままの人口推移で人間がこれまで通りの生活をするとどうなると思う?」

「あんたの言いたいことはわかるよ。だからってしていいことと悪いことがある。あんたは“R”の開発者なんだろ?」

「ああ、そうだ。でもそれだけじゃエネルギー問題は片付かんぞ」

「あんたこそ、その叡智でエネルギーを有効利用する術を考えるべきじゃなかったのか?」

「わしの答は変わらん。愚かな人間は生活を改めない。だから減らすしかない。この国だけとってみても1/3は消費するだけのクズだ。それだけ処分すれば済む」

「それは違うぞ。それだけ人間のする仕事が減ったというだけのことだ。誰も好んで仕事をしないわけじゃない。エネルギー効率もどんどん改善されている。どうしてそれに貢献しようとしなかった」

「おまえさんは甘いよ。エネルギーはどんどん枯渇に向かっている。わしのしようとしたことはきっと将来見直される。死刑制度は復活し、どうやって人口を減らすか頭を抱える時代が来る」

「ああ、そうかもしれない。しかしあんたの取った手段は明らかに間違っている。自由も平等も生きている人間みなに与えられたものだ。恣意的に奪っていいもんじゃない。目的のためにはどうしたらいいか、人間がみなで考えて答を見つけるべきなんじゃないのか?それで破滅に向かうなら、みんなが破滅すればいい。だけどな、そうなる前に人間は生存の道を必ず見つける。そういうものだと思ってる」

「わしはもう先は短い。ほとんど死んだも同じ人間だ。せいぜい頑張ってくれ」

「あんたの名前は良くも悪くも歴史に名を残すことになるよ。“R”はこれからの人類の灯りとなる」

「ああ、そうなればわしは本望だ」


「な、ポリス。このじいさんを逮捕してくれ。で、ここに警察の出張所を作るんだ。このじいさんには死ぬまで人類のために知恵を絞ってもらう。それが相応しい刑罰だとは思わないか?」

「はい。ですが私の一存では何とも・・・」

「おれに賛同してくれりゃいいんだ」

「じいさん。あんたの名前は?」

「吉田龍一郎」

「まさかあんたは・・・」

「もうこの世にはいない人間だ」

じいさんはそのまま横を向いてしまった。

「よし、帰るぞ」

エアカーテンの手前で立ち止まった。

「2人はここに残ってくれ。くれぐれも無礼のないように。すぐに応援を寄越す。ポリス行くぞ」

廊下まであの揮発油の臭いが立ち込めている。この臭いからは当分抜けられそうにない。そう思った。

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