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夏が大人を連れてくる


外に一歩出れば

溶けるほど暑い

8月の昼下がり 

俺はいつも通り

エアコンの温度を26度に設定し

鍵を開けて

来客を待つ




ガチャ
「鍵閉めなよ。無用心だよ〜?」



『まずはピンポン押しなさいよ』

インターフォンも押さずにドアを開けて
彼氏でもない一人暮らしの大学生の男の家に露出度高い服で遊びに来る女


『あと無用心なのお前だから』
「えー何が?笑」


意味を理解してないどころか
(何言ってるの?)くらいの感じで笑いながら当然のように部屋の中に入ってくる女


夏休みの夏期講座が週1であり、
その度に大学近くの俺の家に遊びに来る

「アイス買ってきた。食べよ〜」
『何しに来てんだよ』
「勉強もするよ、ちょうど簿記教えて
 欲しかったんだ〜得意でしょ?」


『まー多少出来るけど』
「持つべきものは小学校からの友達だねぇ」
『・・・』

「教えてよ♪」
小学校から友達なのも変わらないし
その調子がいい性格も
俺に見せる笑った顔も変わらない

お前はいつだって変わってない



けど
俺は変わったんだよな


2人で勉強するにはあまり適さない小さなテーブルの上に教科書を広げる

『じゃーこの問題やってみ?』
「え……わかんない」
『さっきやった』
「あっ、ここをこうやって…?」


解き方が俺に合ってるか確認してくるが、彼女の髪の毛が邪魔でノートが全く見えない

俺は彼女の髪の毛を自分の指に引っかけて彼女の耳にかけた
一瞬驚いて問題を解く手が止まった気がした…



気のせいだよな

勝手に家の中に入ってくるようなやつが
この程度で同様するわけないか


「ねぇこれでいい?」
『え?あぁ、あってるよ』


合ってるけどしっくりこねぇわ

なんなんだよ
気を使わないようにする
気を使わせやがって…



『あのさ』
「ん?」


俺はただいつまでも小学生のままのコイツに、すこし意地悪がしたかっただけ
好きな子に意地悪してみたかっただけ


『お前さ、いちお俺が男ってわかってる?』


「女なんて昔から1回も思った事ないけど?」
『そう言う意味じゃねーよ』
「じゃぁどう言う意味?」



『俺らもう子供じゃねぇんだよね』





体感では10秒
実際は1秒
彼女は考えた後、下から顔を覗き込んできた

思ったよりも顔が近いのと、何を言われるのかと少しびびって固まっていたら

彼女の顔がどんどん近づいてきて…











『……今何した?』





「何って?キスしたんだけど」
『は?』
「え?違った?」


不満そうな困り顔で俺を見る

何キスした方が困った顔してんだよ
いや、違うし
意味もわかんねーよ
何なんだこいつは
俺の知ってる子供のあいつじゃねーのかよ


「何回ここ来てもいつも何もしてこないから
 頭どーなってんのかなーって思ってたの」
『え?』

「もう私たち子供じゃないんだよ」
『お前わかってて…?』

そう話す彼女は
俺の知ってる小学生からの友達じゃなくて
知らない女性みたいで…

知らない女性よりも異常にドキドキした







「私とっくに準備出来てたから」


『ずっと我慢してた俺の理性褒めて』


「うそだ」


『まじで』







8月の昼下がり

俺はベッドを待たずその場に彼女を押し倒した

大人は無口になる程暑いのに、聞こえるのは

外から聞こえる小学生の元気なはしゃぐ声


君のすこし赤く染まる頬を撫でる




俺は
 
セミよりもずっと"この夏"を待っていた



❤️end❤️

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