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第3回「ドラムのフィニッシュ」

 みなさん、こんにちは。山の会です。前回はカタログというお題で色々話してみました。カタログを開くと、そこには素敵な色のドラムが沢山。しかし、よく見てみると、ラッカー?カバリング?なんちゃらメッキ?どうやら色だけではなく、仕上げ方自体も選ばないといけないらしい…何が何やらよく分からない…というわけで、今回のお題は「フィニッシュ」。
 僕自身、あまり詳しくない分野なので、色々教えてください!とりあえず、主要なフィニッシュの種類とそれぞれが音へ与える影響、という所から話を始めてみましょうか。お二人の協力を得てざっと図に書き出してみましたので、まずはこちらをご覧ください。(横山)

 ウッドシェルから話を始めましょう。
 この中でウッドシェルに施されるフィニッシュの種類としては、塗装、オイル、カバリング、ベニヤ(化粧板)ですかね?それぞれが楽器の音色に与える影響って、どんなイメージでしょうか?(横山)
 よろしくお願いします。まず、シェルがどんなものかによってその影響は変わってくるので、一概には言えないのですが…とりあえず大まかに、と言う事ですよね?
 後ほど補足や訂正する可能性もありますが、塗装(注:いわゆるラッカーフィニッシュ)は硬い音に、オイルはしっとりした音に、カバリングは締まった音に、といった具合でしょうか。
 化粧板については、何に何を貼るかで全く変わるので、傾向は存在しない、とさせて下さい。(山本)
 なるほど。塗装は塗料の種類によっても違いが出そうだね。オイルは割と素の音に近いのかな?(横山)
 そう言われてますね。ナチュラルなトーン。
 しかし、乾燥した木にオイルを吸わせる事になるので、元々の油分補ってるのか、水分を置換してるのかで意味合いが変わってきます。(山本)
 なるほど、ウェットな質感になるのはそういう事か。ラッカーフィニッシュの塗料の種類も幾つか挙がっていますが、その辺りも少し詳しく教えてもらえます?(横山)
 なにやらガンガン話が進んでますね。さすがです。今回は、フィニッシュって見た目や耐久性の話でしょ?なんて思うことなかれ、というテーマですね。塗料の種類に加え、何層に塗るのか、ドラムの塗装は大変だと聞きますね。(山村)
 例えば、これとか...大変そうですよね。(横山)

 最近はこういう凝った塗りも多いですよね。どうやってるんだろうと思うこと多いです。これを読んでる人の中にも、塗装とかカバリングとか見た目では細かい種類まで区別できない人もいるかもしれないですね。話の腰をおりました。塗料の話に戻しましょう!(山村)
 最近はスパークル系も塗装が多いですし、このオレンジスワールみたいにパッと見では塗りには見えない色や柄というのも多いかもしれませんね。(横山)
 とりあえず塗料ですね。現行の主流はポリウレタンかと思われます。所謂ラッカーとされるものはニトロセルロースで、高級ギターなんかによく使われます。近年はUVに流行の兆しがあるようです。
 実際の所、オイルフィニッシュも塗装のカテゴリに含めて良いと思うのですが、ドラム業界はラッカー・カバリング・オイルフィニッシュと区別している傾向があると感じるので、それに準じて認識してます。(山本)
 オイルは他の塗料とは一応区別しておいた方が整理しやすいですかね。それぞれの塗料の特徴ってどんな感じだろう?ヴィンテージドラムやヴィンテージギターの塗装は薄くてクラックが入りやすいけど、あれはニトロセルロースかな?(横山)
 ポリウレタンは耐久性良好、美しく仕上がりつつ被膜も薄め。ニトロセルロースは経年変化が顕著、手間がかかる、被膜はウレタンより薄い。古い楽器はこれの可能性がありますね。UVは紫外線で硬化させる新しい塗装で、硬く薄く仕上がる由。
 注意が必要というか、大切なのが、薄い塗装はギター類では良いものとされてますが、それは必ずしもドラムに当てはまるとは限らないという事です。薄い塗りならではの音、厚みがあってこその音。それぞれ違うだけで、優劣がある訳ではありません。(山本)
 優劣とか、どれが高級かとか、そういう言葉は確かにひとつの物差しにはなりますが、しかし盲目的、もしくは広告宣伝的に使い慣れると危険な言葉ではありますね。また、材の持っているキャラクターをそのまま活かすってのは、なんていうか正統に聞こえるし、「シェルの鳴りを引き出す(ある意味都市伝説)」という視点では、オーガニックとかナチュラルで音楽的、みたいな感じがするけれど、そもそもプライ行程で使用する接着剤を考えると、純粋に木ってのはどのレベルで言えるのかなとか、ラグやフープ、カバリングなど、ある意味「邪魔」なものが、実にドラムらしさでもあったりで。(山村)
 なるほど、確かに。例えば、カバリングより塗装の方が値段が高かったり、塗装の方が音の為に良いとされる風潮を感じたり。でも、薄くて柔らかいシェルの場合はカバリングの硬さがシェルの補強として機能している面も有ったり、音に関しても柔らかさとタイトさのバランスが取れたり...という事だって有りますよね?牧人さんが仰る都市伝説的な部分で「響きは正義」みたいなものが行き過ぎてしまって、自然な響きを謳ったものがむしろアンバランスに感じる事も僕にはよく有ります。それでいて、もし響き過ぎるという理由でミュートして使われる事が多いのであれば、それは本末転倒なのかな、とか。あっ、ちょっと言い過ぎましたかね...(笑)(横山)

 参考までに、20年代頃のドラムの塗装を。昔のカタログを見ると塗装よりカバリングの方が値段が高いのが興味深い所。今と逆。(横山)
 イヤイヤその言葉を待ってました(笑)もっと言い過ぎましょう(笑)20年代ってのはまたすごいですね。しかし、いろいろな逆転現象ってのは時代の流れを見るとたくさんあるもので、そういうのを知ると「価値」というものの見方に奥行きが出ますよね。おふたりは、常に新しいものをチェックしてるけど、やはりそういう奥行きの中で「今」の楽器は何か、とか見ようとしているところがさすがです。(山村)
 僕は昔の楽器のコンセプトが好きなのでどうしても時代を遡って研究しがちですが...進化の過程で得たものと失ったものをある程度理解しておくと、現代の楽器との向き合い方、付き合い方も楽しくなるのかな、と。
先程の塗装の厚みの話にちょっと戻してみましょうか。60年代頃までの薄い塗装のドラムは同じシェルにカバリングが巻かれたものと比べると更に甘くてナチュラルでふくよかなトーンという印象ですが、個体によってはそのメリットと言える要素がデメリットに転じて、柔らか過ぎて輪郭がはっきりせずにぼやけてしまう場合も有ったり。あと、経年変化で塗装にクラックが入ってパリパリ剥がれてきたりしたら、現代社会の中ではきっとクレームの嵐...(笑)
 ユーザーからのニーズの変化と、コスト削減や作業の効率化、もしかしたら環境問題への配慮、といったメーカー側の都合も合わせ、昔のままというわけにはいかなかったのでしょうね。
 ちなみに、個人的にヴィンテージのウッドシェルに関してはラッカーよりカバリングの方が程良くまとまり扱いやすい印象が有ります。良し悪しではありませんが。
 そういえば、カバリングの色や模様で音が変わるというマニアックな話も有りましたよね?その辺りも聞きたいです。(横山)
 変わりますねえ。ちょっと考えれば当たり前なんですが、10代の頃は都市伝説だと思ってました(笑)
 有名なブラックオイスターなんかはモッチリしたサウンドになりますし、シャンパンスパークルはソリッドでタイトなサウンドになります。
ポイントは重さと硬さで、シートの材に何を使っているのか、色や模様を出すために何を入れてるのかで変わります。
 例えばですけど、食べ物を固める時にゼラチンを使うのか、寒天を使うのか、はたまた卵なのか。
 卵を使うとして、出来上がるものが茶碗蒸しなのか、プリンなのか、卵焼きなのか、スパニッシュオムレツなのか…このような違いがサウンドに影響しています。(山本)

 「こんなことで音が変わるの?」みたいな言葉って良くありますが、こういう言葉の使い所がズレちゃってることが多いなとは思います。ズレるというか、もはや「材が変わっただけ、それだけでこんな違いが!」「え~!材が変わっただけなのにぃ?」なんていう風に、やりとりの形式になっちゃってるっていうか。同じカバリング素材で単純に色だけで変わるのかと言えば別でしょうけれど、材料が変わって剛性や質量が変われば、音に影響があって当たり前、山本君の言う料理のレシピ的に考えれば僕らが普段の生活で体験している何も不思議ではない世界ではあります。これは塗料でも同じことでしょうね。(山村)
 流石、例えが分かりやすい!そういえば、同じメーカーの同じ色のカバリングでも時期によって材料が変わっていて音も違う、という話も聞いた事があります。
 化粧板についてもちょっと聞かせてください。これって、木のシェルに木でカバリングしているような感じですかね...?(横山)
 そうですね。
 各社やり方が色々で、どこからがシェルでどこまでがフィニッシュなのか、が難しいのですが。DWはエキゾチックフィニッシュと言い切ってるので、それを根拠とさせて下さい。余談でしたが、基本は木でカバリングと考えてもらって良いと思います。
 なにからお話しましょうかね。(山本)
 木を貼った上に塗装しているわけだし、フィニッシュの上にフィニッシュ、みたいな?(笑)
 シェルと化粧板のそれぞれの材に組み合わせによって音の傾向が変わるとの事だけど、具体的にいくつか例を挙げてもらえると分かりやすいかな?化粧板として使うわけだから、基本的に綺麗な木目の材を使うわけだよね?あまりシェルには使わない材とかも多い?(横山)
 そうなんです、フィニッシュプライなんて呼び方もあったりして、難解(笑)実際に試してもらうのが一番なんですが、一番わかりやすくてチャンスがありそうなのが、ソナーのフォニックですかね。
 ビーチシェルに対して、硬いローズウッドを張ったものと、柔らかいマホガニーを張ったもの。
 その他だと、ヤマハのPHX。メイプルと、アッシュ(タモ)の二種類ですね。
 ただ、これに関しては合計11枚の木材のうち、メイプルバージョンは外側のカポールが4枚のところ、アッシュバージョンは外側のカポールが3枚になってるので、純粋な比較ではないです。
 ラディックのレガシーとクラシックメイプルはエキゾチックバージョンが存在していて、これも試せるチャンスはあるかも。これもヤマハ同様、ノーマルのそれとエキゾチックとではシェル構成がちがうので、エキゾチック同士での比較が望ましいですね。これ以外にも沢山あって、主流とは言えないものの、一つの方向性かなと。
仰る通り、きれいな木目のものが沢山あります。杢目と呼ばれるようなやつですね。むしろ、シェルには使わないものが中心です。価格的な問題や、加工性の都合もあると思いますが、硬すぎたり柔らかい過ぎると、サウンドが個性的になり過ぎるとい事もあると思います。
 個人的には、ラディックなんかが採用している、ブラック・リンバという木が大好きです。見た目が。(笑)(山本)

↑バーズアイメイプル

 なるほど、詳しい解説ありがとうございます。流石過ぎて、何も言葉が出ないです...(横山)
 すいません、文字にすると中々の量感ですね…これでもほんの一部なんですが…(山本)
 ………(横山)
 今回はテーマがテーマだけに、文字量10倍コースでも良いのではないでしょうか。
 個性的になりすぎるって言葉だけど、昔はドラムはドラムらしい音であろうとしていた結果、塗装や化粧板は過度にバリエーションを増やさなかった、という業界の意志みたいなものはあったのかなぁ。今はむしろ材の制約に縛られない方向も含め、広がりを感じるけど。(山村)
 どうなんですかねえ。
 エキゾチックウッドは単純に高価だし、ドラムセットがそういう楽器とみなされてなかっただけなのかなあ、と思ったり。
 個体によって材が違うのを塗装で誤魔化したり、メイプル100%と謳っておきながら、実は別の材が含まれていて、最近しれっと公開しはじめたみたいなのもありますし。あ、これ誰かから怒られるやつですか?(笑)シェルの話に脱線しました。(山本)
 いやむしろ、それはドラマーが怒るべきことなのかも(笑)自分も、フィニッシュの話からシェルの材や製法の推移に頭が行ってしまって、切り替えようとしてました。
 ドラマーってある意味おおらかに為らざるを得ないところがありますよね。実際の演奏になったら、楽器がどうであれベストを尽くせ!というのもあるし、その場でなんかするのも実力、と考えて細かいこと言わないドラマーの真面目さって面もありますが、しかしそれと良い音の探求はまた別で。
メーカーもすべてを公開するわけにはいかないでしょうけど、仕様変更がクローズドで良いのかは、なかなか難しいですねぇ。(山村)
 色々ありがとうございます(笑)
 あ、100%メイプルと謳ってたかどうかはソースなしです、念のため。(笑)(山本)
 ソースなし!印象操作かい!ま、はっきり言えないこともゴニョゴニョ...(笑)スティックなんかも、色味のある部分をカラースティックに使ったり...自然由来の材を使う以上、いろいろな事情が、僕らにはあまり伝わらないところで結構あるようですねぇ。材が手に入らないから云々、みたいなこともあったりで。あ、脱線誘導ではないですw
 ところで、塗装っていうのは保護の意味もあるでしょうけれど、真円成形や、シェルやエッジの強度を増すためのベニヤ処理ってのはあるのかなぁ。(山村)
 強度を増す為に、と言うのは充分ありえますね。
 西海岸でドラムのカスタマイズを手がけていたPaul Jamiesonという有名な方がいるんですが、その方のカスタムしたラジオキングで、内側に…と言うのを聞いたか読んだ覚えがあります。ただ、現物は見ておらず、そのソースも定かでないので、眉唾物として聞き流して下さい。(山本)
 今回は山本君に答えてもらうスタイルにガッツリなっておりますが...すでにあるタイコを、音作りのためにリフィニッシュというのはどんな可能性があるのだろう。塗り直し、カバリング...塗装剥がすのはかなり大変なようですが...。ビンテージのオーバーホールみたいな意味ではなく。(山村)
 60年代後半にギターやベースにサイケデリックなペイントを施し、程なくして飽きたのか、剥がしてナチュラルに...というのが、一部の有名ロックミュージシャンの間で流行っていたようですが....あっ、脱線、脱線...(笑)(横山)
 一般的にはカバリングの張替えくらいですかね。ただこれも実は手間がかなりかかりまして、頼んだ場合は費用も決して安くはない部類になります。そこまでかかるなら、買い替えないし買い足しの方が…みたいな。
 ぼくは以前、ヤマハの7000シリーズのスネアで色々実験したことがありまして。カバリングを剥がしたり、色を塗ってみたり、全体をマスキングテープで覆ってみて、その厚みを変えて試したり…
 最終的には、建築用のパテ(ペーストモルタル)を厚塗りしてみたりもしました。(山本)
 モルタル!それはナイスですね~。やってみたい。先日、飽くなきサウンドの探求としてシェルに毛の生地を巻いてみたのですが(笑)、モルタルも候補のひとつでした。とりあえず容易に戻せる方ということでモフモフな毛を巻きましたが。
 それにしてもいろいろやってますねぇ...。カバリング張替えは確かに大変ですよね。剥がすときにシェル剤も細かく割れて剥がれちゃったりするし。塗装シェルにさらに塗装...これはないかな、でもカバリング巻いちゃうっていうのは案外アリかなと思ってみたり。とはいえカバリングの材料自体も、それほど安いものでも無いか。サウンドフォーカス用の着せ替えくんとかあったらどうかなと思うことはありますなぁ。(山村)
 モルタルは確かに大きく変わるし、面白かったんですけど、そこまでしないとドラム演奏できないの?って思ってしまい、我に返りました。(笑)
 音をいじるときって、ヘッドやスティックだけでも相当変わるので、フィニッシュを後から変えてまでやるかってのは難しいところですね。(山本)
 実際どんな変化でした?また材の話になってしまいますがコンクリートのシェルとかもありましたよね。あぁ、あと、フィニッシュじゃないですが、紐を巻くというものもありましたね...(山村)
 ステージの美術の都合で、シェルにカッティングシート巻いてセットの色を変えた、ってのは聞いたことがあります。ある意味合理的(笑)
 モルタルに関しては、柔らかいカバリング巻いたような、中低域が目立つサウンドだった印象ですね。
 ただ、規程の硬化時間+αを目安にしたので、その後の更に乾燥が進んだ状態でどうなるかは確認してみない事には。
 うちにシェルは残ってますが、パーツは他に流用してしまったので試せない…。(山本)
 いやはや、何だか凄い話になってきました...
 シェルの内外にカーボンやファイバーをラミネートしたものも有りますよね。これはフィニッシュとしては扱われませんが、ある意味化粧板的な役割といえばそうとも言えたり...?
 ところで、シェルの内側の塗装に関してはいかがでしょう?ヴィンテージドラムで白やグレーに塗られたものをよく見かけますよね?あれに関しては木目を隠して材が分からないように、という説が有るようですが(笑)(横山)
 待ってましたその話題!(山村)

 シェルへの水分の影響をある程度抑える、みたいな側面もありますよね。
市販のものだと、内側の仕上げを指定出来るのはソナーのSQ2くらいですか。
 シェル同様、普通は選べない部分なので、メーカー毎のシェルの特性の一部として認識してましたわ。(山本)
 SQ2は選べるですと?なんと!!
 基本的には現行ウッドシェルの多くは内側にクリアラッカーを吹いて仕上げてある感じなのかな?(横山)
 SQ2はかなり選べますね、内側に青や赤などの色付き化粧板を入れたりもできます。
 クリアは確かに多いですが、そうじゃない物も多いので、現行として一括りにするのはちょっとちがうかなあ。
 ソナー、グレッチ、ヤマハ、リディム…(山本)
 例のグレーな、グレなんとかの内面はどうなんですかね?(山村)
 シークレットシルバーインテリアですか?(笑)
あれもまあ結局、内側を塗ってある音というだけで。もちろんクリアとは違う音の筈ですけど、選べるところでは無いので、フィニッシュとは分けて認識してます。(山本)
 あれは何を塗ってるんです?(知らんぷり)(山村)
 シークレットなシルバーの塗料…
 インナーに関しては、シェルによってどのようにレゾナンスが変化するか、という視点で掘り下げたいテーマなんですよね。
 パーツやレインフォースメント、カバリングによって剛性が上がってる状態で、内側表面の硬さや形状がどのようにサウンドに作用するのか。(山本)
 それは気になる所ではあるよね。もちろん、ヘッドを変えた時のような劇的な変化とかは無いだろうけど、何がどの程度影響するのか、というのはちょっと知りたいかな。(横山)

↑タマ 2017年カタログより

 ちなみに、タマのカタログによると、STARのインナーはオイルフィニッシュとの事です。(横山)
 音重視なのでしょうかね。しかし見た目も美しい。ロジャースも年代によってはグレーの内塗りがあったと思いますけれど、あの手はなんというか工事的な印象をつい持ってしまいます。もちろん音は素晴らしいんですが。あの手の内側の塗りは、音の反射的な要素もあるのでしょうかね。(山村)
 これとか、工事っぽいですよね?(笑)(横山)

 一時期ゾラコートが流行った時期もありましたね!(山本)
 そうだね、70年代はゾラコートが多いかも。(横山)
 TAMAのもありましたね。そもそもどういう塗料なのかもわかっていませんが...。(山村)
 気になったので調べてみたら、こんなものを見つけました。所謂ゾラコート(またはグラニトーン)の塗料はアクリル樹脂のようです。リンクを貼っておきますね!http://www.vintagedrumguide.com/painting_shell_interiors.html(横山)
 シークレットじゃなくなってますね(笑)(山本)
 バラされてますな 。しかし、シェル材を分からなくする、という意味ではシークレットか...(笑)
 あ、そろそろメタルシェルの方に話を移しましょうか。(横山)
 メタルシェルは最近本当に良い状況ですね。
 ラディックの過去最多とも言えるラインナップ、高嶺の花だったチタンやベルブラスの値段が下がりつつ、扱っているメーカーが増えた事、イタリアのAKみたいな完璧と言っても過言ではないヴィンテージの復刻を手がける所が出てきたり。(山本)
 確かに、最近は充実していて面白いよね。フィニッシュは大きく分けるとメッキか塗装だと思うけど、色々細かくバリエーションが有りそうだね。(横山)
 メッキの主流はクロームとブラックニッケル、次いでニッケルでしょうか。塗装はクリアラッカー、一部に色付きや、焼き付けといった感じ。
逆説的ですが、無塗装のウッドシェル的なフィニッシュはされてない物もありますね。これはポリッシュ、ヘアライン、サテンなどに分類されますか。(山本)

 音への影響はどうだろう?ぼんやりとこんな認識だけど...(横山)

↑横山氏直筆

 ブラックニッケルが無い!ブラックビューティー!
 すげー売れた某スチールスネア!(山本)
 あっ...そ、それは...(横山)
 いやー。シェルの違いでの分布は考えますけど、メタルシェルのフィニッシュの違いではこういう傾向考えてないですわ自分。でも、言われてみるとなるほどと思う部分もあったり。
 しかし横山君なら、タッチでメッキ風、塗装風とか変えられそう(笑)(山村)
 えっ...多分全部塗装寄りな音になりますよ…(横山)
 ブラインドテストで惑わせるチカラ!(笑)
 焼き入れとかっていうのは、フィニッシュというより製造工程かな?(山村)
 焼き入れじゃなくて焼き付けです、塗装方法。もしかしたら全部焼き付けかもしれませんが、ウッドみたいにエアブラシで吹き付けるのではなくて、高温で硬化させる方法です。
 ぼくは正直、クロームとニッケルの違いを聞き分けられる自信はありませんが、ブラックニッケルのブラスであれば、少なくともクロームではない…と気付けるかもしれません。
 しかし、現行の新品ニッケルと新品クロームの差は本当にわからない…
クロームは凄く古くてもピカピカしてますが、ニッケルは曇るので、その曇りが原因なのかなと思ってたり。
 ラッカーのブラス、クロームのブラス、ブラックニッケルのブラスで並べてみんなで一斉に比較してみたいですね。ラディックならできる。
 そういえば先日、メッキなしのアルミとクロームメッキのアルミで、それ以外のスペックはほぼ100%同じスネアを比較する機会があったんですが、音色以上に音量感の違いが印象的でしたわ。クロームは明らかに音量大きかったです。(山本)
 今ちょっと調べてみましたが、現行のメタルシェルのクリアラッカーは焼き付けの可能性が高そうですね…(山本)
 あー塗装は焼き付けですね。シェルを硬くする意味の焼き入れってなかったっけ?と、またシェルの方に行きたくなってる私...。クロームメッキでそこまで音量上がるんですなぁ...(山村)
 あるんですかね、気になる。シェルに脱線しがちな気持ちはすごく分かります(笑)
 アルミに関しては元が軽くて柔らかいから、クロームメッキで剛性が上がって、ロスが減って…という事なんですかね。(山本)
 ヘアライン、サテンみたいなものは、音の違いはあるんだろうか。(山村)
 理論上はあってもおかしくないんですが、チタンやステンレスのシェルにおけるポリッシュ(鏡面仕上げ)とサテン(つや消し)の差はわかりませんでした。(山本)

↑チタニウムサテンフィニッシュ 

ふうむ。ちゃんと比較してカテゴライズしているのが素晴らしい。あと残ってるのはメタルシェルのカバリングとかかな?(山村)
 メタルシェルにカバリング、僕は見た事無いかもです。(横山)
 パールがやってますね。あと、ダイナミクス(ブラックスワンプ)のチタンシェルにウッドのシートを巻いたやつ。(山本)
 なるほど。これはさすがにやってないかも?というのも大体既に出てますな...(横山)
 ここまでの流れを踏まえると容易に想像してもらえると思うんですが、高域がカットされて、ギュッとまとめた感じの音になりますね。(山本)
 それはそれで結構面白いかも。もしかしたら僕は好きかも!
 あと、フープやラグなどのパーツ類に関しても触れておきたいのですが、基本的にフィニッシュの種類や傾向はメタルシェルのそれに近い感じですかね?(横山)
 パーツは基本がクロームかと思いますが、ピンクやブラックなんかの塗装系は強烈にサウンド変わりますね。タイトかつダーク。高域が全然出なくなります。
 ヘッドから出る音で例えると、ノーミュートとリングミュートかけてるような違い。(山本)
 なるほど。シェルにしてもパーツにしても、金属+塗装だとややミュートがかった感じになるのかな?フープももちろんだけど、実はラグとかも結構音に影響出るものね。(横山)
 ですね。密度や硬度なんかの関係で、その物体がどう振動してどんな音になるか、というバックグランドを想像しながら聞くと理解が深まるかと。(山本)
 ちなみに、先程クロームとニッケルの違いが分かりづらい...という話が出ていましたが、パーツ類に関してはニッケルの方が柔らかくてダークな印象が。見た目もくすんだ感じが渋くて好きです。ある時代まではニッケルが主流で、クロームはオプション扱いだったのかも。値段はニッケル<クローム<ゴールド、みたいな感じですかね。今はニッケルの方が高い気がするけど。(横山)
 聞き分けられるようにがんばります(笑)(山本)
 言ってることの意味がわかるようにがんばります!(笑)(山村)
 しかし、クロームも色々あるんですよね。
 ダイレクト?なやつ、ニッケルの上にクローム、銅の上にクロームなど。(山本)
 なんと、そんなに...
 僕のメッキの違いの話、何となくラディック同士で比べてみた程度なので、ものすごく浅い気がしてきました、何かすみません…(横山)

↑ラディック 1962年のカタログより

 今回はひたすら山本くんに質問して教えていただく感じになってしまいましたが、何だか凄い情報量...濃かったですね。まだまだ修行が足りないようなので頑張ります。
 最後にまた頼ってしまって申し訳ないのだけど、ここまでの話を踏まえて、フィニッシュと音の傾向の相関図を山本くんなりにまとめてもらえたりとか...ダメですかね...?(横山)
 硬ければ硬い音、重ければ重い音、性質がそのまま音に出る。
色の違いは含まれる物質の違いであり、それは音の違いにつながる。
 そんなとこですかね。
 相対的には定義できても、相関図にできるほど単純ではない、と再確認できました。(山本)
 個人的には、フィニッシュってどこまで必要なんだろうとは思ってたことがありました。木材剥き出しのジャンベとかカッコイイし、ドラムも全部ナチュラルでいいじゃん、くらいな。まぁちょっと大袈裟ですが。たとえば自分は食べ物に防腐剤は要らない、というか使わない状況が望ましい。でも、メーカーが出荷流通するとなると必要でしょう。ドラムのフィニッシュは、経済流通システムが産んだ梱包の一部だなと思ったりしてました。ただ、一時期カバリングのグレッチがすごく気に入って、材の性質を引き出し、楽器として音をある方向にまとめる方法論のひとつとして機能してるんだなと思ったときに、防腐剤ではなく盛り付けやラッピングなんだなと思うようにもなりました。そして今回も勉強になりましたね!山本博士ありがとう!(山村)
 では、結論は出さず、相関図的なものは色々想像しながら各々の頭の中に描いてみる、という事にしておきましょうか。結局、自分自身で見て触って体感しないと分からないですしね。
 フィニッシュの役割はシェルの保護と見た目の効果だけではない、という事で、果たしてこの対談が楽器をチョイスする上でのヒントになるのか、はたまた悩みを増長させるタネになってしまうのか...?
 お二人共、ありがとうございました!(横山)
 この会はどこへ向かうのか...。ありがとうございました!(山村)
 ありがとうございました!(山本)

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