深海のお話/?.雨の日の詩

  ここ一週間、ずっと雨が降っている。
「今日も雨ですか...しかもこんな土砂降りとは。屋根とか潰れちゃいそうですねぇ...」
ふぁ、と欠伸をしてデコルト・シュベールは紅茶の入ったカップを持った。
「雨の日にしか現れない貴方は快適でしょうけど、僕達としちゃ困るんですよねぇ...洗濯物も干せないし戦場は水浸し、泥に足を取られちゃ撃たれるし.........」

  「そんな事もございませんわ。私達の発電所は雨の日にしか此方へ通じる門が開きませんもの...今でこそ貴方達の発明した「オアシス」が運んでくれるからそこまで不便いたしませんけれど」
そう言ってクッキーを食べるのは綺麗な黒髪を下の方で1つに結び、結紐に鈴をつけた女性。
「そうだわ、この前カナデル様が言ってたの。貴方に聞きたい事があるそうよ。今度行ってさしあげて?」
「うへぇ、あそこ遠いんですよ。雨の日にはワープ距離も限られますし...デトロイトさん自身も...来れませんしねぇ...貴方に伝えてくるとか何でしないんですか?貴方一応秘書じゃないですか、カトラリーさん?」
「さぁ...秘書って言っても名目上だけですしねぇ...ほぼほぼ居候みたいなもんなんですよ。皆様「カトラリーちゃんはできる秘書」と言ってくださるけれど」
そう言って黒髪の女性...「カトラリー・アラベ」は紅茶を飲んだ。

   「...あ」
クッキーを食べていたデコルトは何かを思い出したように声を上げた。
「なんですの、急に...驚きましたわ。」
「いえ、すみません...デトロイトさんが言ってた用事ってもしかして「歌姫」達の事じゃないっすかね...?って思いまして。」
「あら、何か心当たりでもございますの?」
「...以前そちらに伺った時に...確か10番目の...」
「へラティカの事かしら」
「あぁ、そうです。へラティカさんの声の調子が悪いと聞いてたんですよ。もしかしたら何かあったのかもですね」
「あぁ...そうかもしれませんわね。ここの所異常気象や異常物体達の出入りが多くて...歌姫達もかなり戦っていましたもの。へラティカは特に攻撃に特化しているから、声を痛めるのも無理ありませんわ」
「あー、間違いなくそれっすね。この前ロンドの方に遊びに行ったんですけど、異常物体の中に「声の意味を無くす」悪魔の印がついた物があったんすよ。それに当てられたとかですかね」
「間違いなくそれですわね...声と言えば...別の世界軸かしら。梦ちゃんに報告しないと...」
「...あの人、確か今仮眠中では」
「あら、じゃあここ20年は起きませんわね.....困ったわ。とにかくデコルトさん、一度発電所の方に来て下さるかしら?」
「そうですね...うちのボスにも言っておきます。一度解析が必要っぽいですし...」

外はまだ雨が降っている。今週一週間はずっと降り続くそうだ。

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