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20230205_METライブビューイング2022-2023『めぐりあう時間たち<THE HOURS>」』

作品概要

指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:フェリム・マクダーモット
出演:ルネ・フレミング、ケリー・オハラ、ジョイス・ディドナート
上映時間:3時間19分(休憩1回)
MET上演日:2022年12月10日
言語:英語

公式サイトより<https://www.shochiku.co.jp/met/program/4672/>

ご存じの方はご存じかと思いますが、
原作はマイケル・カニングハム原作『THE HOURS―めぐりあう時間たち 三人のダロウェイ夫人』。

映画化もされ、アカデミー賞で9部門ノミネート、ヴァージニア・ウルフを演じたニコール・キッドマンは主演女優賞を受賞した秀作です。
(「あの」スコット・ルーディンがプロデューサーだったのは、このやろう!と思いますが)

「いま」だからこそ製作されるべき舞台作品

・スペイン風邪とHIVとCovid-19
私がヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』を読んだのは、もう遥か昔のことで内容を覚えていなかったのですが、昨年NHK『100分 de パンデミック論』で英文学者の小川公代さんが取り上げてられていたのがウルフの『ダロウェイ夫人』でした。
その時「そういう話だったか!」と心に引っかかっていた作品ではありました。
そして今回の『THE HOURS』のスタッフやキャストインタビューには「Covid-19の渦の中で製作された」という言葉が多くみられ、
この作品に約100年前のスペイン風邪によりウルフが感じた死生感、
作中でリチャードが蝕まれているHIVがもたらした多くの死と絶望感、
そしてこのオペラが製作される過程で巻き起こったCovid-19という世界的パンデミックがもたらした私たち一人ひとり価値観の変容、
死生感のとらえ方への影響が地続きに感じざるを得ませんでした。
「いま」だからこそ舞台化されるべくしてされた作品だったのでしょう。

・3人のDIVAの揃う「いま」だからこそ
開演前、幕間のスタッフ・キャストインタビューで、この作品の着想はクラリッサを演じたルネ・フレミングによるもので、その一つの理由が「この3人でできるから」というものだったそうです。
確かに、クラリッサを演じるルネ、ウルフを演じるジョイス・ディドナート、ローラを演じるケリー・オハラ(ミュージカルファンだとここに一番反応しますね)、三人が三人完璧なはまり役。
作曲のケヴィン・プッツも彼女たちの声を念頭に置いてのあてがきだったとのこと。
名実ともに現代オペラ界をしょって立つ(ルネは引退撤回?)3人のDIVAがそろう「いま」だからこそ作れた作品とも言えると思います。
↓ケリーだけ「謙&I」のプロモーションMVなのはご愛敬(笑)


映画版が好きか、オペラ版が好きか(個人的な好み)

このMET版を観るに向けて、原作本の『THE HOURS』を読みなおしました。
映画版も公開時見たのですが実はあまり印象に残っていなく、自宅に戻ってからザっと(すみません)見返しました。
結論からいうと、個人的には原作を可視化するという側面では断然今回のオペラ版がよかったです。
以下その理由です。

・作品自体が映画よりオペラにより合っている
原作は結構な分量、3人の心象が文字によって物語られています。
映画はどうしてもその心象を言葉にすると陳腐になってしまうので、あそこまでの描写が限界。
でもオペラだと、彼女たちが彼女たちの言葉で思いを歌うことができる。という面で、オペラ版の方が伝えたいことが伝わる。という点でよいかと。
それが「くどい」と思われる人もいるかもしれませんが。
あとー---、映画版、なんでNYのシーンが冬なんですか?!!
「6月の晴れた日」って設定が作品にとって重要なファクターなのに!!
原作本を読み直している段階で文字からの印象でも、このNYの6月の朝のシーンはミュージカルでもいいオープニング作れそう!と思っていたのですが、やっぱりオペラ版の方がいいオープニングでした。
・演出と舞台装置の巧みさ
特に舞台美術や衣装にいえるのですが、3人の自体や国や雰囲気を色や道具でかき分けている点が舞台版は秀逸でした。
特に、アメリカ西海岸50年代を描くローラパートの舞台美術の明るさ、optimisticさがローラが持つ、この時代の「女性」「母」に押し付けられたイメージと彼女が持つ孤独や違和感のギャップが強烈に感じられて好みでした。
・LGBTQの描き方
映画版、ひと昔前といのもあってちょっと濁しすぎじゃありません?
となりました。
ウルフの作品を語るにあたってそこは避けて通れないのに。
原作はより直接的ですし、オペラ版は描くところは描いてくれていたのでよかったです。
・コロスの存在の圧倒感
「これミュージカルにリメイクしてもいいよね」と見ながら思っていたのですが、絶対的に映像やミュージカルではできなくてオペラだからこそできるのが、このコロスの使い方でした。
『ダロウェイ夫人』が「意識の流れ(Stream of consciousness)」の文学といわれ、それを水の流れと例えると、インタビューにもあったように原作本も見て取れる「水(川)」=「死」のファクターはとても重要です。それをコロスとダンサーで描くのが秀逸。
とにかくコロスの声が本当に人波、水が持つ川の流れ、さざ波、押し寄せる大波すべてを表しています。特に第1幕ラストの声の波は圧巻。
・ウルフの死の描き方
この点は、原作本と映画版が描かれ方が一緒なのですよね。
ウルフの最初の死のシーンは個人的に好きなのですが、あれがあることで前述の「水」の描写が活きるのだけれど。
オペラ版はそれを知っているという前提で、コロス=「水」がそれを想起させる役目をしていたのかな。

アニー=B・パーソンのchoreograph

この作品でもう一つの見どころが、アニー=B・パーソンの振り付けによるダンスなのですが、本当によかった。
彼女の振り付けといえば、日本でも話題を呼んだデヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』ですが、『THE HOURS』でもいい仕事してる!と話題だったので楽しみにしていました。

やー-。いいですねー--。
何がいいかはご覧になってください(笑)。
アメリカン・ユートピアでは気づかなかったのですが、今回の『THE HOURS』で「あれ?なんかものすごくピナ・バウシュの影響ある??」と感じて確認したところ、やはり彼女はピナの影響を大きく受けているみたいです。
まあ、この世代の特に女性コレオグラファーでピナに影響を受けてない人なんていないんでしょうけど。

余談

METのビューイングが初体験だったのですが、
開演前・幕間のインタビュアがクリスティーン・バランスキーなのっていつもですか?(笑)
ミュージカルオタクとしては冒頭でのけぞっちゃったんですけど!
クリスティーン!ケリーと話すとき『ギルデッド・エイジ』の宣伝しすぎ!心の中で爆笑しちゃった。
「観てないや!ごめんね!」ってなったので、ミュオタとしても観なきゃね『ギルデッド・エイジ』。




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