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『無職転生』と『俺ガイル』の共通項としてある「肉付いた世界の空気」

『無職転生』の面白さは、『俺の青春ラブコメは間違っている』(略称:俺ガイル)と似通う。それを感じてる人はどれほどいるのか。

『俺ガイル』の特徴はなんだろう。

・ハーレム物であるが、主人公は自身でそのフラグをバキバキに破壊する
・リア充は本当に才能溢れてコミュ力が高く魅力的に描かれる
・主人公はとてもダメな人間だが、だからこその穿った考え方で問題を解決し、それを周囲はドン引きする

などがある。

『無職転生』の特徴はどうだ。

・転生によって高い才能は得ているがチートというより強くてニューゲームぐらいの能力でしかない
・父でありながらナンパ男のコミュ強がきちんと描かれている
・主人公も本来ダメ人間クズニート童貞だった名残がきちんと描かれている

などがある。

「ご都合主義」と叩かれるものは「主人公の言動に対する他者の評価が正当ではなく乖離している」の言い換えがピタリとする。これは、理想の話なのか夢想の話なのかの分岐点なのではないか。

母校の恩師の言葉を想起する。

「夢とは、手に入らないからこそ夢である。君は夢を見ていたいのか。手が届く現実に足のついた理想を目指すべきだ。夢を見るのではなく、未来を見据えよう」

これだ。夢の話はそれはそれでいいが、現実的なものでなければ空振るばかりである。それはとても空虚な気分にさせる。

「無敵の力」を設定すればチープになるわけではない。そこに「代償が必要か」といえば、それも瑣末でしかない。「無敵の力をご都合主義としない」は「主人公の魅力に説得力を持たせる必要がある」に繋がる。

説得力は「事実の積み重ね」が必要となる。なら物事に対する説得力はいかにして生むか。

例えば「喧嘩千人抜きを達成した豪胆な男」と誰かに説明させるより、「今この街に強いヤツがいるらしい。この前、どこそこのボスがやられた」みたいな誰かが噂をする方がより良い。

事実が曖昧な方がリアリティは増す。詳細に伝えれば伝えるほど、嘘の力は弱まっていく。

結局、物語は嘘の塊なのだ。だから、いくらでも事細かな設定はできる。もちろん、事細かな設定はしておくべきだが、伝わるのはそのかけらであるはずなのだ。

僕らが生きる世界自体がそのように出来ている。そして、他人から伝わる情報はいつも曖昧だ。そのバランスがとれたものにリアルを感じる。適度な勘違いや意識的な嘘、事実誤認の情報や真理のかけらを見るような情報。それらが散りばめられた作品ほど、現実的で面白く感じる。あくまで、僕の感覚の話では有るのだけれども。

『無職転生』にも、『俺ガイル』にも、その面白さがあるのだ。この「生々しい空気」があるからこそ、その世界が肉が付いたように思える。

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