ボウキョウによせて4

 南葦ミトさんの小説「ボウキョウ」の感想です。

 1話・2話の感想はこちら⇨ボウキョウによせて

 3話・4話の感想はこちら⇨ボウキョウによせて2

 5話・6話・7話・8話の感想はこちら⇨ボウキョウによせて3

 今回は、ボウキョウによせて4となります。まさか4まで書くことになるとは思いませんでした。

 始まりはnoteで小説を書いてる人から作品を読んでみたいと思い始めた時に、偶然南葦ミトさんの作品を出会いました。そこでボウキョウの感想を書く企画があったので参加したのです。はじめは軽い気持ちでした。全部読んでから感想を1記事で書く予定だったんです。

 しかし、1話、2話と読み始めて作品に吸い込まれて行きました。1度目は素直に物語を楽しみました。そして、感想を書きながら何度も読み直したことによって充希たち家族の追体験させてもらっている気分になりました。東京から始まった物語は、福島県いわき市を中心に始まります。主人公の充希が過去を振り返るたびに色々な地域が充希の記憶と共に出てきます。南相馬市小高、南相馬市原町、そして、いざなわれるようにたどり着いた大熊町。充希の過ごした町。小説を読み進めるごとに充希と共に各地域の現状を知ることができたのです。

 それで感じたことはまだ震災は終わっていないということでした。

 この小説を読んですっかり震災を過去にしていた自分に気づきました。そんな自分に恥ずかしい気持ちにもなったけれども、それよりも何よりも私にできることは何だろう。私はどうすればいいんだろう。という思いが胸にポツンと現れました。私ができることが具体的に思いついていない今はあやふやですが何かしたい衝動に駆られています。これが8話目までの感想を書いた私の素直な気持ちです。

 今回は、9話。10話の感想を書きます。最終話の11話の感想を書くときに私にできることをちゃんと明確にしておきたいです。

ボウキョウ9話の感想

 8話のラストは、「家を処分する」と言った両親に酷い言葉を投げつけてしまったところで終わります。自己嫌悪し気まずいまま寝る充希。夢の中で幼い時の父親との温かいやり取りしている会話。そして、中学生の時の父親との口論で投げつけた言葉で父親がとても悲しそうな顔したところで目が覚めます。

 東京に帰った恋人真司のアドバイスを胸に、母親に冷静に気持ちを伝え、やることもないのに駅前に行く充希。ノノとの思い出の喫茶店<古時計>で、頭を冷やすと行ってでかけたまま帰ってきていなかった父親と偶然遭遇します。

 この回は、充希が父親に酷いことを言ってしまった原因としてイジメが出てきます。高校受験のシーズンで、受験勉強を頑張っていることや遊びを断った些細なきっかけでクラス全体にイジメが波及していきます。中学生になっていじめを親に相談するって結構ハードル高いことだと思います。私自身もイジメらてることを親に言えなかった1人です。1人で悩んで子どもゆえにうまく動けなくてただ耐えるしかなかった年頃。大人から見たらとても不器用だけどその時期の子たちはそれが精いっぱいなんですよね。

 傷ついてしまったうまく表現できない思いを違う形で、鋭い言葉のナイフで父親にぶつけてしまう。親子の中でもありがちな出来事だけど、それがずっと抜けない棘のように心に刺さってしまっていたことに気づいた充希。

 喫茶店で起こった事件に巻き込まれながら充希は父親に対する後悔の念に気づきます。

ボウキョウ10話の感想

 9話のラストは、包丁を持った通り魔の男と揉み合いになり充希は階段から落ちて終わります。

 通り魔と表現しましたが、男は震災による原発事故で故郷を奪われた人でした。その持って行きようのない怒りで親戚を切りつけ、同じ店にいた充希たちにも襲いかかったのです。

 充希は気を失っている間、走馬灯のように聞こえてきたのは声。自分の声、真司の声、母の声、父の声、そして父に酷いことを言った自分の声。

 充希が東日本大震災に遭遇した日の記憶に移ります。長く続く強い地震の恐怖。あの日は雪が降る寒い日。大学で過ごすしかない時間。流れてくる津波の映像。そして、原発の水蒸気爆発事故。

 充希は、不安で押しつぶされそうに見ていたテレビで、故郷を離れて通っていた会津若松市にある大学で、故郷である大熊町が無くなる瞬間を見てしまったのです。

 表現しがたい感情に襲われる充希に声をかけてきた男子学生。それが今の恋人でもある真司でした。真司が「君、大熊でしょ? 僕、双葉。」そのセリフで全身の力が抜け、人目をはばからずワンワン泣く充希。

 大熊町の位置はボウキョウによせて3でマップをつけて把握しているけれども、双葉町については知りませんでした。ただ、薄っすらと原発=双葉町というイメージはありました。

 そこから、福島の原発の位置ってどこなんだろう。帰宅困難区域ってどこなんだろう。という疑問がフツフツと湧いてきました。調べてみたところふくしま復興ステーションというサイトを見つけました。

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 大熊町と双葉町の境目に第一原発。富岡町と楢葉町の境目に第二原発があります。赤い区域が帰宅困難区域となっています。大熊町の北側に隣接しているのが双葉町ですね。

 そうか。真司は双葉町の出身だったんだ…。全編にちりばめられた真司の家族の話が気になっていはいました。真司の両親は埼玉県に住んでいて、真司の母親が大変な状況になっているという所までしか把握できていませんでした。

 ノノと連絡が取れなくなった経緯、真司と恋人になっていく様子。必死に頑張る充希の側に常に真司がいて、心が折れそうになる充希を支え続けていたという事実。それだけで胸が熱くなる思いです。

 目を覚ました充希は、中学の時に父親に言ってしまった酷い言葉について謝ります。父親は充希の苦しさを知らなかったことを詫びます。やっと親子のわだかまりを10年越しに解消した瞬間でした。

 もう、この回はティッシュやハンカチが必要な回です。涙が止まりませんでした。

 雨降って地固まる。この言葉が良く似合う素敵な回でした。


☆☆

 次回は最終話である11話の感想。そして、私がこれから何ができるのかを考えてまとめたいと思います。

 最後に、南葦ミトさんにこんな素敵な作品を生み出してくれてありがとうございます。そして、この作品に出会えたことに感謝しかありません。

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