日本語 「資質」「資質の向上」の意味

以前主任研修を受けた際、講師に資質とは辞書では生まれつきの性質とあるのに、あちこち資質の向上とあるのはおかしいといわれていました。
そこでそれらについて整理してみました。
なおこれは、ウィキペディア、naverまとめの次に作成した第3版です。

資質と訳さなかった事例

 力量(competence)
 実証された個人的特質、並びに知識及び技能を適用するための実証された能力。

出典
JIS Q 19011規格 こちらISO事務局
https://web.archive.org/web/20160728090308/http://egologyplaza.nobody.jp/iso/else/ISO19011.html

personal attributes 日本語訳を“個人的資質”とする意見もあったが、広辞苑によれば、“資質”は“生まれつきの性質や才能”となっている。しかし、規格の中でpersonal attributesとして箇条書きになっている内容を見ると、生まれつきの性質や才能だけでなく、訓練、経験、努力などによって培われるものでもあるので“個人的特質”とした。

出典
JIS Q 19011規格 こちらISO事務局
https://web.archive.org/web/20160728090308/http://egologyplaza.nobody.jp/iso/else/ISO19011.html

国語辞典の資質

資質は辞書をひけば
「生れつきの性質や才能」
と書いてある言葉です。

生まれつきの性質や才能。資性。天性。

https://www.weblio.jp/content/%E8%B3%87%E8%B3%AA

江戸時代の資質の使用例


伊藤仁斎 の 『童子間』(1707年) に「夫修養之引年、資質之変化、皆可勉面到」 という一節があります。

夫修養之引年資質之變化皆可勉而至焉(白文)
夫レ修養之引レ年ヲ資質之變化皆可2勉メテ而至1焉

国立国会図書館デジタルコレクション - 童子問. 巻之中
30
伊藤仁斎

佐藤直方の『講学鞭策録』に資質の使用例「資質得る所已に此の如きに由りて、其の意智熟する所、日に其の趣きを見る…
資質の偏、意智の私を容るる所無からんとす」があります。

由乎資質所得已如此、而其意智所熟、日見其趣。是以不務者遂離規矩而到乎悉雎、不力者益趨省約而安于固陋。其他不可枚舉。以至於一言之是非一義之取舍、向背從違亦各有所主、而甚者至門專其學、徒阿所好、安排造爲、瞞人自誣、两無所得而後已矣。是正自古之可患者、而近世爲尤甚。以故竊不自量、収録日夕所講究、精確詳的尤切于用力者如此。以欲出入起居携持奉誦、以爲終身之箴。至於同志之共是患者、即亦以此因事、對證反復辨析、以一其歸焉、則將不須強辯多説而彼此交明、自無所容夫資質之偏、意智之私也

講学鞭策録
佐藤直方
1798

クォリティの訳語としての資質

マックス・ヴェーバーの『職業としての政治』にある政治家のQualitäten(クオリティ)

クォリティを資質と訳した例。

政治家にとって主に決定的 資質(Qualitäten)
情熱 (Leidenschaft)
責任感 (Verantwortungsgefühl)
目(Augenmaß) : 距離をおくこと

Man kann sagen, daß drei Qualitäten vornehmlich entscheidend sind für den Politiker: Leidenschaft – Verantwortungsgefühl - Augenmaß

Politik als Beruf – Wikisource
https://de.wikisource.org/wiki/Politik_als_Beruf

Leadership Qualities(リーダーシップクオリティ)の訳語としての資質

「リーダーの資質」とQualityが資質と訳される。

資質の向上

日本の法規の目的における資質の向上

日本の法的用語。各法律の目的等に記述される。

法規例
調理師法第1条、製菓衛生師法第1条、スポーツ振興投票の実施等に関する法律第21条第1項4号、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第16条

Developmentの訳語として資質開発

Developmentの訳語として資質開発とされています。。

ファカルティ・ディベロップメントの訳語としての資質開発

Faculty Development(FD ファカルティ・ディベロップメント)の訳語に「「教授団の資質開発」または「大学教員の資質開発」とされることがある。

FD…は知識イコール専門分野を素材に成り立つ学問の府としての大学制度の理念・目的・役割を実現するために必要な「教授団の資質改善」または「教授団の資質開発」を意味する。

有本章著『大学教授職とFD』(平成17年 東信堂)
中央教育審議会 大学分科会 制度部会(第21回(第3期第6回))議事録・配付資料 [資料5−3] 2 FDの定義・内容について−文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/003/gijiroku/06102415/006/003.htm

教師の能力としての資質能力

日本の教師の能力について昔から資質、資質能力として議論されてきています。

事例

コンピテンシーの訳語としての資質力量

教員の授業能力を資質力量とする表現がありますが、教員の授業のコンピテンシー(Competence)を資質力量と訳する論文もあります。なおCompetenceについてはISO19011を翻訳した際には「力量」と和訳されました。

以下のpdfでは各省庁等とドイツ、ノルウェーは「コンピテンシー」を資質とした事例になっています。また中国の事例では名称が「素質」「素質教育」ですが「資質」「資質教育」とするとしています。

◇研究成果報告書『諸外国における学校教育と児童生徒の資質・能力』 (2007年5月23日)(PDF:1.4MB)
https://www.nier.go.jp/kiso/sisitu/foreign.pdf

註:コンピテンシーとは?

Citizenshipの訳語としての資質

Citizenship Education(シチズンシップ教育)

Citizenship Education
が市民性教育と訳されていることがあるが、そのCitizenship(シチズンシップ 市民性)の訳語に市民的資質、公民的資質とされることがあります。

公民的資質

公民教育(英訳はcivic educationとされることがある)により達成する目的として大日本帝國の法律等に公民的資質と記述されていました。
昭和43年(1968年)に学習指導要領の小学校社会科が改訂され公民的資質が記述されました。

公民的資質というのは、社会生活のうえで個人に認められた権利は、これをたいせつに行使し、互いに尊重しあわなければならないこと、また具体的な地域社会や国家の一員として自らに課せられた各種の義務や社会的責任があることなどを知り、これらの理解に基づいて正しい判断や行動のできる能力や意識などをさすものといえよう。したがって、市民社会の一員としての市民、国家の成員としての国民という二つの意味をもったことばとして理解されるべきものである。公民的資質は,民主的,平和的な国家・社会の形成者すなわち市民・国民として行動する上で必要とされる資質を意味しており,とりわけ,これからの国際社会に生きる日本人としての資質が求められている。小学校の社会科ではその基礎を養うことを目指している。

公民的資質の解釈
https://web.archive.org/web/20040907094406/http://ww5.et.tiki.ne.jp/~abetaka/riron/shuron/shuron08.html

公民的資質は,民主的,平和的な国家・社会の形成者すなわち市民・国民として行動する上で必要とされる資質を意味しており,とりわけ,これからの国際社会に生きる日本人としての資質が求められている。小学校の社会科ではその基礎を養うことを目指している。

社会科教育の理念と公民の概念-新しい公民の倫理のために
The Idea of Social Studies and the Conception of Citizen
For New Ethics of Citizen
箱石匡行
岩手大学教育学部附属教育実践研究指導センター研究紀要第5号(1995pp25
https://core.ac.uk/download/pdf/144250816.pdf

「(義務教育)第5条 第2項 義務教育として行われる普通教育は、(中略)国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。

教育基本法
平成18年法律第120号平成18(2006)1222日改正

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