(仮)猫である僕を日本全国の旅に連れていってくれてありがとう第6話「不安と安心」

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ぼくの旅は続いた。鳥取県を出た後は、島根、広島、山口、福岡、愛媛、香川を旅したんだ。

 合計するとね、実に16日間もぼくらは旅をしたんだ。流石に疲れたけど、ジュン達と色々な場所を巡ることが出来たこと、多くの素敵な地へ行けたことは楽しかった。

 帰宅した翌日、なんだかジュンが慌ただしい……なんだろ? どうしたのかなぁ?

 ぼくには分からない何かの準備をしていたり、いつも以上に楽器という物を手にしてメロディーを奏でさせながら何度も歌ってたりと、とっても忙しそうだった。けどね……ぼくは楽器から流れる素敵なメロディーとジュンの歌声のハーモニーが好きなんだ。

 ぼくだってさ、時には嫌なこともあるからストレスが溜まることもあるんだよね。でもね、そんな時にジュンが弾く楽器と歌声から奏でるハーモニーを聴いているとね、不思議と心が洗われていくんだ。

 ジュンの歌は好き……だけどね、ぼくが本当に1番好きなのはね、楽器を弾いたり歌っている時だけに見せる普段とは別のジュンの表情なんだ。

 なんというのかな? これから何かをしてやろうっていう強い想いと、誰かの為に心を込めて何かを伝えているような想い、何よりもジュン自身が楽しそうにしている想いが伝わってくる顔をしているから、ぼくはそんなジュンを見ているのが好きなんだ。

 数日後……いつも以上に楽器を弾いたり歌を歌って忙しそうにしてた理由が分かったんだ。なにやら、多くの人を集めてライブというものをやるらしいんだって。そのライブで多くの人達に歌を聴かせるらしいよ。

 なんだか凄いね! ぼくも行ってみたいけど、流石にぼくは猫だから無理だよね? きっと、ライブでは家とは違う、もっともっと素敵な顔をしているんだろうな……それこそ、ぼくが見たことのない表情だろうね。ぼくには分かるんだ……きっと、最高のジュンがそこにいるんだってね。

 勝手にきやがれ!!2019

後日、そんなぼくの心を察してくれたのか、ヨメがぼくにライブの動画というのを見せてくれたんだ。

 動画を見て、ぼくはしたり顔をして口元を緩ませたよね。だって、やっぱりぼくの予想通り、いやそれ以上にライブで歌うジュンはさ、ぼくが初めて見る楽しそうな表情をしていたし、最高のジュンがそこに映っていたんだもんね。


季節は変わり、少しずつ暑くなってきた初夏にぼくらは再び旅に出たよ。

 着いた場所は山梨県ってところなんだけどね、ぼくはあるモノを見て驚愕したよ!

 それはね、とっても大きくて美しく雄大な山だったんだ。猫のぼくにも分かる、分かるよ! この雄大な山からは、不思議な力を感じるから、きっと……

 「フア、あれが富士山や! 日本一の山や」

 うん、やっぱりそうだよね。ジュンが教えてくれた山はさ、ぼくが生まれたこの国で1番の山だったんだ。だから、不思議な力を感じたんだね。

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 でも……なんだか人が多すぎるよー! でも、それだけ富士山は魅力的なんだよ。こんなに多くの人が集まってくるわけだからね。

 ん? なんだ、なんだぁー!?

 富士山を見てた人達が、今度はぼくらに近寄ってくるよー? 気が付けば、ぼくらを囲むように多くの人達が集まっていたんだ。

 湯郷温泉街に行った時と同じで、今回も多くの人達が集まってきた理由、それは猫であるぼくがここにいることが珍しいからだろうね。ぼくらは注目を浴びてその場の人気者になっていたんだ。

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 人気者になれて悪い気はしないけど、ちょっと照れ臭いよ。

 ようやく落ち着いた所で、ぼくらは車へと戻る為に歩いている途中でね……何かが爆発したような爆音が聞こえたんだ。

 ぼくはその爆音のせいで自分でも不思議なぐらいに怖くて恐ろしくて動揺しちゃって暴れ回ってしまったんだ。自分が自分じゃなくなったかのように動揺したぼくはリードを力づくで外して、気が付いたらジュン達のもとから離れて走り去ってしまったんだ。

 ようやく動揺が収まった時には、ぼくは山の中にいたんだ。近くにはジュン達も誰もいない山の中で、ぼくはただただ不安だった。車までの帰り道も分からないし、ジュン達がいた場所すらも分からない……。

 「フアー、フアー!」

 しばらくすると聞き慣れた声が微かにぼくの耳に入ってきた。

 ジュンだ! この声はジュンの声だ! 

 寂しくて不安だったけども、ぼくはこの声を聞いて凄く安心したんだ。爆音を聞き恐ろしくなり動揺して、ジュン達のもとから離れてしまい、迷子になっていたぼくを探し出してくれたんだ。

 安心したぼくは嬉しくて、ジュンの胸に飛び込んだ。

 そんな甘えるぼくにジュンは優しく言ってくれたんだ。

 「フア、恐い思いさせてゴメンなー」って。

 ううん、大丈夫だよ……ジュンが悪いわけじゃないよ? だから、ぼくはジュンの胸の中で小さく呟いたんだ。

 ありがとうね、それとゴメンね……と。

 その後、次なる場所へと向かう為にぼくらは山梨県を出発した。

 

 

 




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